アンドレイ・クルツキフ

情報安全保障分野における国際協力問題担当ロシア連邦大統領特別代表、ロシア外務省国際情報安全局長

ヴェロニカ・フィラトキナ

ロシア外務省国際情報安全局アタッシェ

(翻訳:Viator)

一年前の2019年12月28日、ロシア大統領令により、ロシア外務省の新しい部署として、国際情報安全局(DMIB)が創設された。DMIB創設はいうまでもなく、ロシア政府が情報コミュニケーション技術の発展に伴うすべての問題に高い関心を持っていることのあらわれであり、情報空間という今日的分野において発生する挑戦と脅威に対し、外交手段でもって迅速に対応する必要があることを示している。

DMIBでは、国際情報安全分野における政策の策定と実施のほか、ICTの軍事・政治、テロ、犯罪目的での悪用防止など、国際情報安全保障問題における我が国の立場を国際舞台で推進している。国際情報安全分野における国際機関や多国間フォーラムへのロシアの参加、各国との二国間協力、インターネット利用をとりまく国際政治的問題なども、DMIBの担当となる。

情報安全保障というのは時代の要請であり、ICTの役割がグローバルに拡大し、それとともに新しい危険と脅威が生まれているという新しい現実が要求するものだ。まだ30-40年前には、この技術を違法に使おうと考える人は少なかったが、いまや、軍事・政治、テロ、犯罪目的での悪用対策は、国際社会にとっての絶対的優先課題となっている。同時に、それは我が国の国益にとっても大切なことである。

我々は地球上で無限のサイバー空間が形成されているのを見ているが、ICTの非国境性により、一般的なルールがいまだに確立されておらず、これは我々がいままでに経験したことのない世界だといえる。現代技術のもたらす可能性と便利さは歓迎すべきである一方、デジタル環境全体への脅威が高まっていることも事実で、それは深刻な軍事衝突を招く恐れさえある。

現状からしても、戦略的展望からしても、国際情報安全保障のための信頼できるグローバルシステムを構築することが、人類にとって意味があり、不可欠であるのは明白だと思われる。

ここでいくつかの疑問が生まれてくる。この問題に正面から議論し、合意を目指すことを妨げているのは誰なのか。拡大する「サイバーパンデミック」に対して「サイバーワクチン」を開発するため、国際社会が建設的な協力をはじめるのは果たしていつになるのか。

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世界が多極化するなかで、欧米諸国は「冷戦の伝統的処方箋」に固執している。アメリカでは大統領選挙の最中、一人の外交専門家が上院に対して、サイバー安全の専門部局を国務省内に造るべきだと主張したが、アメリカのサイバー政策の中心となるのは、彼によれば、ロシアや中国(さらには主権、内政不干渉、独立、公正なる技術競争などの点でアメリカと違う立場をとるすべての国々)の「封じ込め」だという。そのようなアプローチの結果として、欧米諸国はいつでも国際世論のなかで、ロシアと中国は「ルールに基づいた世界秩序」を脅かす国々であるとのイメージを植え付けようとしている。

スノーデンによる暴露を忘れてはいないだろうか。アメリカの諜報機関やそのパートナーたち、さらには協力企業らが、サイバー分野で国際的に好き放題な行いをしていることについては、いまでも毎日、新しい情報が伝えられている。欧米諸国は情報空間を戦略的な対決の場、「サイバー戦場」とみなしている。国際情報安全分野における彼らの行動は、自分たちの「フリーハンド」を確保するためのものだ。つまり、自分たちに都合のいいように国際法を解釈し、サイバー攻撃の「犯人」を決めつけ、対抗措置と制裁でもって犯人を罰する-しかもその犯人を決めるのになんの証拠も示そうとはしないのだ。

国連の役割を否定するような欧米諸国のやり方は、世界の安定を保障するものではなく、現実に即した国際システムの構築を妨害するものだ。彼らの行動はしばしば、イデオロギー的先入観に基づいている。事実の歪曲、手続きの「ジャグリング」、半真実、時には真っ赤な嘘、偏見(特に対立する国家が参加する紛争の場合)が、残念ながら、今日の世界のサイバー政策の当たり前となっている。

国際情報安全システムに関する我が国の立場は、情報空間での紛争と対立を未然に防ぎ、グローバルな情報空間における安定と安全を保障し、対等なパートナーシップとICTの平和利用、プラグマティックな相互協力の関係を築くことにある。

そのためには、力の不使用、主権の尊重、内政不干渉、基本的人権と自由の遵守、さらには、インターネットの管理へのすべての国の対等な資格での参加といった、すでに認められている国際的原則を、情報空間においても強化するような、統一の「ゲームのルール」について、国際社会が合意し、普遍的に運用しなくてはならない。

そのような建設的なアプローチの証左が、今年9月のプーチン大統領による、アメリカとの国際情報安全対話の正常化についての提案である。このイニシアティブは、ICT利用における両国関係の再起動にむけて、実際的な方策をとるというもので、両国の信頼レベルを向上させ、安全を保障することにより、両国民の繁栄を期するというものだ。相互の内政不干渉には特別の注意が払われ、選挙活動への不干渉のほか、担当省庁間における専門家対話の開始、デジタル分野における大規模な対立を予防するための責任などを提案している。

方策の一つとして、ロシアは世界各国に対して、ICTを利用した先制攻撃をしないという合意を呼び掛けている。ICT分野における「和平」構築によって、国際情報安全問題の主要問題に関するさらなる交渉のための土壌を醸成し、具体的な解決策を見出そうというものだ。

いま、両者が歩み寄るための、稀に見る「可能性の窓」が開きつつあり、ロシアが積極的な役割を果たしているのは喜ばしいことだ。歴史的に我が国は、世界でも唯一の普遍的な組織である国連の枠内で、国際安全保障に関する交渉を推進してきた。1998年に始まった国際情報安全対話は、我が国の努力により、すでに20年以上にわたって継続している。2018年、ロシアのイニシアティブにより国際社会は、国際情報安全に関する新しい交渉フォーマットである国連オープン・エンド作業部会に向けて、画期的な一歩を踏み出した。このフォーマットは、非公式な形で、国連の「サイバー総会」とも呼ばれており、すべての国連加盟国が例外なく参加できるもので、最初の会合から明らかなように、国際社会から広く必要とされている存在である。

すでに実証され、自らの効果性を証明済みのフォーマットに基づいて、長期的な交渉プロセスを維持するため、ロシアは今年10月、第75回国連総会第一委員会にて、国際情報安全に関する決議案「国際安全における情報通信分野における開発」を提出した。

2020年11月9日は、我が国の外交にとって、大きな勝利の日である。この日、第75回国連総会第一委員会は、国際情報安全に関する我が国の決議案を採択し、ロシアは圧倒的多数の賛成により(27カ国が共同提案者となり、104カ国が賛成を表明)、情報安全保障の問題に関して誰もが参加でき、透明性のある、真に民主的な交渉プロセスが、国際社会に与えられたのである。

決議に基づいて、2021年には5年間の期限で(2021-2025年)、新しい国連オープン・エンド作業部会が発足する予定だ。現在の作業部会に比べて、その権限は拡大される。特に、国際情報安全分野における各国の提案を検討することができるほか、それぞれの問題に関して、サブグループを作ることも可能になる。それは議論において、より組織的かつダイナミックな性格を与えることになるだろう。新しい作業部会の核となるのは、引き続き、情報空間における各国の責任ある行動ルール、規範、原則の策定であり、デジタル分野における普遍的な「交通ルール」を作り出すことだ。

新しい作業部会を作るという我が国の提案は、現在の作業部会の活動と矛盾するものではない。ロシアは現在の作業部会の創設者として、その創設に多大なる努力を行い、その成功を誰よりも願っている。新しい組織は、国際情報安全に関する既存のメカニズムである国連オープン・エンド作業部会と政府専門家会合の結果を否定するものではない。新しい組織は、国連の指導の下で、それら既存の専門グループの作業を継承し、その結果をさらに発展させるためのものだ。

我々は、米国をはじめとする欧米諸国のいままでにないほどの反対にかかわらず、我が国の提案を支持してくれたすべての国に感謝している。欧米諸国は「なりふり構わず」手続き上の手段まで動員して、この提案が «made in Russia» であるというだけの理由で、その採択を阻止しようと試みた。国連総会第一委員会での国際情報安全関連決議案の投票では初めて、個別採決が行われ(アメリカは「手続き戦争」を行わないと約束していたにもかかわらず)、我が国の決議案のうち前文の第十項(文字通り、2018年12月5日採択の国連総会決議73/23からの抜粋)と、国際情報安全に関する新しいオープン・エンド作業部会の2021年中の設置を定めた本文第一項が採択にかけられた。欧米陣営のそのような小細工にも関わらず、ロシアと考えを同じくする国々は、国連総会第一委員会での決議採択にこぎつけた。国連総会における最終的な決議採択は、2020年12月に予定されている。

我が国の決議とともに、国連総会第一委員会では、国際情報安全に関するアメリカの決議案「国際安全保障面でのサイバー・スペースに対する責任ある国家の姿勢の促進」も採択された。皮肉なことに、アメリカ案の内容は、2016年にロシアの提案によって国連総会で採択された決議71/28をほぼそのままコピーしたものだった。それはそのままであれば、我が国も喜んで賛成しただろう。しかしそのなかには、現在のオープン・エンド作業部会および政府専門家会合が完了するまで、国際情報安全に関するいかなる追加的措置も国連総会で採択することを阻止するような条項(本文第六項)が含まれており、これはまったく受け入れられないものだった。アメリカ側の意図はおそらく、いかなる犠牲を払ってでも我が国の決議の採択を妨げ、より技術的に発展した先進国の「会員制」の合意で世界が回るという、他の国々は「かやの外」におかれるという時代に国際社会を引き戻そうとするものだ。

ロシアは「対立パートナーたち」に対して、その本文第六項だけを対象にした個別採決を迫るという対抗措置をとることもできた。しかし、国連をそのような細かい、手続き上の「トリック」の駆け引きの場所にしてはならないという正しい判断がなされた。考えを同じくする国々、パートナーたちによって支持された我が国のアプローチは、ロシアが、国連というシステムにおいて、共通の福祉のための交渉メカニズムを維持し、国際情報安全においてすべての国々が対等な立場で話し合いに参加できる権利の擁護を目指していることを示した。

明白な事実として指摘できるのは、ロシアがいなければ、国連において現在、国際情報安全に関する交渉プロセスは一切存在しなかっただろうということだ。かつて、我が国こそが、政府専門家会合の創設を提案し、欧米諸国からの猛烈な反対を呼び起こした。2年前には、オープン・エンド作業部会の創設をめぐって同じことが繰り返された。アメリカと西欧諸国は、その創設に反対した。彼らは、そのような開かれたプロセスは不要であり、時期尚早であり、非効率であり、既存の秩序を破壊すると主張したのである。

現在、国際情報安全に関するオープン・エンド作業部会および政府専門家会合での交渉は進んでいるのだろうか。

国際情報安全をめぐるグローバルな議論が停滞するなかで、交渉に建設的で実質的な貢献をする準備があるのは、ロシアおよびロシアと考えを同じくする国々だけである、と言わざるを得ない。

政府専門家会合における知的なアイディアが停滞していることは悲しむべきことだ。今年行われた非公式のオンライン協議において、欧米の専門家たちはなにも新しいものを提案するつもりがなく、単なる「おしゃべり」に終始し、すでに2013年と2015年に政府専門家会合で採択された提言を議論しているだけ、という印象を受ける。

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現在の専門家会合の活動期間はあと半年しかないが、専門家たちは最終報告の「たたき台」さえ検討していない。その状況は、2017年、果てしない哲学的議論が、議長国ドイツの下での専門家会合をダメにしたことを彷彿とさせる。今日状況はさらに悪化しており、2015年以来、会合のなかではひとつの新しい提案も提出されておらず、ブレイクスルーとなる決断もなされていない。我が国は、以前に上海協力機構(SCO)で採択された、国家の責任ある行動のルール、規範、原則の追加リストを同会合に提出した。そのうちのいくつかは、専門家らから「興味と関心」を持って受け止められた。なぜなら、それらはサイバースペースの軍事化を防止し、ICTの活用を平和目的に限ることを目指したものだからだ。しかし、欧米の専門家らは、ロシアの提案を具体的に議論しようとはしなかった。

国連オープン・エンド作業部会における状況も、同じく混迷している。最終報告案は2020年5月と予定され、今年7月の最終会合で承認されるはずだった。しかし、ウイルス拡大に伴う制限措置によって、オープン・エンド作業部会の予定も変更され、2021年3月まで活動期間が延期された。議長国スイスは今年12月には報告案を提出すると約束している。

オープン・エンド作業部会の報告案が遅れる中、コンセンサスの醸成のために、ロシアは非対立的かつ妥協的な報告案を提出した。その目的は、作業部会のすべての活動について、全員が受け入れられる形を明確にするためである。

国連におけるロシアのもうひとつの重要な方向性として、サイバー犯罪対策がある。毎年各国は経済発展、国民の財政的繁栄、生活レベル向上に資するデジタル化支援などに多大なるリソースを割いている。それらの努力は、しばしば思い通りの結果を生んでおらず、逆に、ネガティブなグローバル傾向および脅威によって、無価値化されている。そのような脅威のひとつが、情報犯罪である。

デジタル経済分野の指導的研究機関のひとつである «Cybersecurity Ventures» の調べによれば、2021年、サイバー犯罪による損失額は、6兆ドルに上ると予測されている。また2025年までに、世界でのサイバー犯罪の毎年の被害額は10兆5000億ドルになるとみられ、そうなれば史上最大の「資金移動」となる。サイバー犯罪の収益性は、国際麻薬取引にも匹敵する。

情報犯罪の爆発的増加、世界のハッカーたちの能力と独創性の向上には、次のような要因がある。第一に、サイバー犯罪の予防、阻止、処理のための各国の協力が欠如していることだ。そのためには、しっかりとした国際法的なベースが不可欠だ。各国ごとや地域ごとのバラバラな個別の対応では、このグローバルな現象には対処できない。第二に、先進国と途上国との間に大きな技術的断絶があり、対等な立場での国際協力が難しいことだ。

各国が問題の大きさを認識し始めた例として、地域協力の発展と、対応する法的なルールの策定がある。2001年、コンピューター情報分野における犯罪と戦うための協力についての独立国家共同体加盟国協定、コンピューター情報分野における犯罪についての欧州評議会条約(ブダペスト条約)が締結され、2010年には、情報技術分野における犯罪との戦いに関するアラブ連合条約が締結された。

以上のような国際合意によって、情報コミュニケーション技術の犯罪目的での利用を取り締まるための、地域協力に向けた基礎が築かれた。しかし、その地域的性格のために、世界的な取り組みには至っていない。また、地域協力自体もすでにその内容が時代遅れになりつつある。ブダペスト条約は、現在の国際法に矛盾する条項さえ含んでいる。特に、その第32条(b)においては、相手国への通知と承認を得ることなく、他国のデータに国境を越えてアクセスすることができるとされているが、主権国家の内政不干渉の原則に明確に反している。

世界がいま必要としているのは、サイバー分野で現に起こっている問題にグローバルなレベルで対応するための行動だ。そのため、ロシアは世界でも初めて、国連の枠内で、犯罪目的での情報コミュニケーション技術の利用を取り締まるための普遍的な条約を提案したのである。この提案は過半数の国々によって支持された(79カ国が国連総会74/247決議に賛成)。これは、国連の193の加盟国が例外なく参加し、同時に市民社会とビジネスの代表者も参加した、条約作成のための特別委員会の設置を規定しており、サイバー技術が遅れている途上国の事情も考慮している。

2020年、感染拡大による制限措置という状況のなか、このイニシアティブを実現するための、積極的な共同行動が開始されている。それは、サイバー犯罪との戦いにおける方策が早期に必要であることを改めて示している。特別委員会の最初の会合は、2021年1月に予定されている。

ロシアの提案は、そのプラグマティズムにもかかわらず、欧米諸国からの激しい抵抗を呼んだ。欧米諸国は、サイバー犯罪の対策における問題を解決することではなく、自らの政治エスタブリッシュメントの野心を満足させるために、手続き上の影響力の行使を含めて、このプロセスを止めようと躍起になっている。その唯一の目的は明らかに、途上国に対して政策決定へのアクセスを拒むことであり、技術的な先進国である自分たちの影響力を独占しようとすることであり、サイバー犯罪との戦いにおける欧米の考え方を押し付け、なにがサイバー犯罪なのかは欧米が決める、ということなのだ。我が国はこれに対し、人類の福祉のためにグローバルな脅威と戦うためには、プロセスを政治化するのではなく、臨機応変に、互恵的で効果的な決断を早期に模索することが重要だと考えている。

国際情報安全局の重要な方向性は、多国間、地域、二国間の各レベルにおいて、国際情報安全に関する政府間協力を円滑に行うことである。信頼の強化と潜在力の向上の課題を解決するのに、そのようなメカニズムが果たしてきた役割は大きい。そこでの成功事例がそのまま他の地域や、世界的に広がることもめずらしくない。

ロシアは、国際情報安全について建設的イニシアティブを一貫して示しており、CIS、CSTO、SCO、BRICS、ASEANの加盟各国から支持されている。

我が国の戦略的優先課題の一つは、上海協力機構のパートナーたちとの関係を強化することだ。コロナウイルスによって、共同作業の日程は変更となったが、議長国ロシアの年において、国際情報安全分野での協力に大きな注意が払われている。

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特に、2020年11月10日、SCO元首評議会の国際情報安全協力に関する声明が発表された。この声明では、国際情報安全分野におけるSCOの基本的姿勢が示され、情報空間における紛争予防に向けて協力していくこと、国連がそのなかでも中心的役割を果たすことが確認されている。

各国首脳は、情報空間における国家の責任ある行動のルール、規範、原則を策定するための国連の活動への支持を表明し、国連の各専門的な交渉の場において、SCO加盟国同士の協力と共同行動を続ける意思を示した。ICTの犯罪目的での使用を防ぐための包括的な国際条約を、国連のなかで作成する必要性にも触れている。

SCO加盟国首脳らは、インターネットの管理体制の改善について協力を強化するほか、その管理に各国が対等な立場で参加できること、国際電気通信連合の役割の向上の必要性を指摘した。また、2009年6月16日に締結された国際情報安全保障分野の協力に関するSCO加盟国による条約の、包括的実現に対する支持が表明された。

CISのなかでも活発な作業が行われており、共同体首脳による共同声明の準備が進んでいる。

BRICSのなかでのロシアのサイバー外交は伝統的に、情報空間における脅威に共同で対処することを重視しており、協力のさらなる発展が見込まれる。

国際情報安全分野におけるBRICS各国の協力の政治的および法的基盤を強化することは、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの共通の利益にかなう。2018年、ヨハネスブルグでのサミットでは、BRICSによる政府間合意を目指すという戦略的目標が示された。そのような法的文書を策定することは、各国においても細かい作業が必要となる大変で時間のかかるプロセスだ。

並行して、BRICSにおける実際的協力の発展も進めていかなくてはならない。2015年以来、BRICSでは、ICTの活用における安全問題に関する作業部会が行われている。今年、作業部会の会合は初めてビデオ会議の形で行われた。国際情報安全分野における5カ国による協力を議論する中で改めて、専門的対話の必要性が確認された。特に、2020年11月17日、第12回BRICSサミットのなかで採択されたモスクワ宣言は、「ICT利用における安全保障分野での協力に関するBRICSでの政府間合意および相互の二国間合意の策定を含む、提言の検討と準備」における作業部会の活動を積極的に評価している。

アジア太平洋地域における国際情報安全保障のための地域的枠組みの一つは、従来通り、東南アジア諸国連合(ASEAN)である。我が国は、国際情報安全のすべての問題において、アセアン加盟国との協力拡大に注力している。そのために、ICT活用に関するロシア・アセアン対話がロシアの提案によって始まり、情報安全保障にかかわるすべての問題を議論するためのメカニズムになることが期待されている。

2017年、ロシアの提案により、アセアン地域フォーラム(ARF)のなかで、ICTの活用およびICTそのものの安全保障を議論するための会合メカニズムが開始された。

2020年9月、アセアン地域フォーラムに参加する各国外相は、ICTの犯罪利用対策についてのセミナー実施のロシア案を承認した。共同提案国は中国とベトナムだった。その際、ICT活用およびICTそのものの安全保障分野における用語に関するコンセプト文書のロシア案も同時に承認された。国際情報安全分野において、統一の定義による用語集がまだない(法的概念については言うまでもない)状況においては、このようなロシアのイニシアティブは非常に重要なものだ。

ヨーロッパの方向においては、OSCEとの協力に重点を置いており、特に、ICTによる紛争発生のリスクを低減するための、サイバー分野における信頼強化の方策に力を入れている。そのため、2012年には非公式作業部会が創設され、2016年には、16の方策を打ち出したリストを提出した。残念ながら、まさに信頼の欠如のため、その履行はままならなかった。現在、作業部会は個別の方策の履行手順を定めようとしている。この長く大変な道のりには我が国も参加している。

同時にOSCEは、国際情報安全保障における幅広い問題、情報犯罪との戦い、「サイバー衛生」といったことに関心を寄せている。そのためにはロシアの経験が必要とされている。2020年、ロシア外務省、担当省庁、ズベルバンク銀行、カスペルスキー研究所の代表者らは、3つの専門会議といくつかのウェビナーに参加した。

2020年、感染爆発にもかかわらず、国際情報安全分野でロシアとの協力に関心のある国々との間では、二国間でのフォーマットの議論が進んだ。最も効果的なのは、国際情報安全保障分野における協力についての二国政府間合意の締結である。すでに締結された合意のなかでは、今後の二国間協力の基本的方向性の計画が行われている。

2020年、プーチン大統領とマクロン大統領との合意に基づいて、サイバーセキュリティに関するロ仏政府間戦略対話メカニズムがスタートした。2020年9月にパリで行われた第一回ラウンドは、国際情報安全における幅広い問題を、非政治的で専門的な議論にしようという両国の強い意志を示すものだった。

国際情報安全局は、国際電気通信連合(ITU)におけるロシアの役割を強化しようとしている。我が国は、同連合が行うすべてのイベントに、幅広くかかわっている。ロシアは、ITUの専門委員会や作業部会すべてに例外なく参加している。

現在、主要テーマにおけるITUの活動は、極端に政治化している。しかしロシアは、周波数や衛星軌道の利用、電気通信における新しい標準の策定など、重要な問題において、自らの国益を守っている。例えば、グロナス(ロシア版GPS)は国際的に認知され、主要な国際衛星通信標準に加えられている。

2025年のインターネット・ガバナンス・フォーラムの周年事業の実施に向けては、関係省庁との共同作業を実施している。このような大規模のイベントの実施場所としてロシアが選ばれたことは、情報社会とデジタル技術におけるロシアの権威が認められたことでもある。このフォーラムは、政府や民間、市民社会、産業界、学術界、いずれの代表であっても、対等でオープンな立場で参加することができる。

フォーラムでは伝統的に、情報安全、個人情報保護、インターネットへのアクセスの確保という問題に大きな注目が集まる。

以上のように、ロシア外務省国際情報安全局は発足から一年、多くの仕事に取り組み、具体的な結果を得た。重要なのは、将来への確実な基盤が作られたことだ。国連では、新しいオープン・エンド作業部会、サイバーセキュリティ特別委員会が動き出し、さらにはITUとインターネット・ガバナンス・フォーラムがある。BRICSやG20、さらにはCIS、CSTO、SCO、ARF、ASEAN、OSCEなどの地域レベルにおける取組も継続される。アフリカ連合、アラブ連合、カリブ共同体、太平洋南洋諸島などとの協力も始まっている。すべての関係国との二国間協力をさらに発展させていけるよう注力することは言うまでもない。

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By KokusaiSeikatsu

『国際生活』はロシア連邦外務省を発起人とする、国際政治、外交、国家安全保障の問題を取り扱う月刊誌です。創刊号は1922年、『外務人民委員部週報』として出版され、1954年に『国際生活』として、月刊誌として復刊しました。今日、ロシア国内だけでなく、世界各国においても幅広い読者を獲得しています。