パンデミック対応に向けた資金調達と全ての人々のワクチン接種実現を目指す取組み

パンデミック対応に必要な物資の供給網に関する最初の議論は、COVID-19の情報が世に出るようになってから1か月後には既に行われていた。この供給網はWHOが世界経済フォーラムの支援を得て構築したものであり、経済セクターすなわちWHOと協力関係にある民間企業の活動統制を役割としている。WHOは、パンデミック対応に必要な物資の供給のために、世界各地の民間企業が有する製造・物流能力を利用することが可能となる。

COVID-19の流行が始まってから二か月後には感染症対応に必要な防護具の不足が生じたため、3月3日にWHOはビジネス界と政府機関に向けて個人用防護具の生産量を40%増加させるよう呼びかけ、世界的に増大する需要への対応を促した[4, 3月3日]。個人用防護具の不足は多くの国の医療従事者の健康を脅かす深刻な問題となった。

3月の初め頃には、COVID-19の対応には国レベルのみならず世界レベルでの支出を要することが認識されていた。3月9日、WHOと世界銀行が設立した世界健康危機モニタリング委員会は、80億ドルの緊急拠出を呼びかけた。この資金は、WHOが最も脆弱な国々を支援し、診断ツール・医薬品・ワクチンを開発し、疫学調査を強化し、国際協力に向けた調整を行い、そして医療従事者を適切に保護するために利用される。

COVID-19対応に必要な資金を調達するために、WHO・国連財団1・スイス慈善財団は3月半ばにCOVID-19連帯対応基金を立ち上げ、個人・企業・各種機関へ寄付を募った。基金は最初の10日間で187,000の個人と組織から7千万ドルを集めることに成功した。なお、募金は最低25ドルから大口送金まで受け付けられている。

3月の終わり頃には、パンデミック拡大に伴い対策用品の需要が益々増加していた。3月30日の「20カ国首脳会議」での通商担当大臣との会談後、テドロス事務局長は医療品メーカーと協力しながら生産能力を上げ、国内外への十分な供給を確保するよう各国に呼びかけた。また、テドロス事務局長は対策用品を必要とする人々の購買力だけでなく、現段階でのニーズを考慮した平等な分配を求めている。

まず、医療従事者の個人用防護具に目が向けられた。この時、既にWHOは防護用品が最も不足していた74カ国に2百万セットを提供していた[4, 3月30日]。これに加えて、WHOは複数のパートナーと協力して検査キット・医療用酸素・人口呼吸器などの供給確保に向けた取組みを推進していた。

4月8日、COVID-19対応の必需品を製造する企業のサプライチェーン問題を解決するために、国連のタスクフォースが始動した。まずは、防護用品が最も不足している国々で、個人用防護具・診断ツール・医療用酸素の調達と流通を活性化させるという課題が解決された。

4月にはワクチン開発の進捗が見られている。4月13日、WHOは世界中の130名の科学者、資金提供機関の代表、そして製造会社による声明を発表した。この声明ではWHOとの協業によりCOVID-19ワクチンを最速で開発することが約束されている。

パンデミックの拡大に伴い、所得の低い開発途上国がCOVID-19対応における医療の進歩から追いやられる危険性が高まっていった。4月24日、WHOはフランスのマクロン大統領、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長、そしてビル&メリンダ・ゲイツ財団とオンライン会合を実施した。テドロス事務局長は、COVID-19対応に必要なワクチン及び治療・検査ツールの開発・製造・公平な分配を加速化するための協力メカニズムであるACT-Aイニシアチブを提唱した[8]。これは、COVID-19対応に向けた各国政府、保健機関、学術機関、ビジネス界、市民団体、そして慈善家の努力を結集させた取組みである。ACT-Aイニシアチブの活動は、検査キット・医薬品・ワクチン・医療制度の強化という4つの柱が基本方針とされており、全ての国がパンデミック対応の必需品を入手できるような予算が組まれている。

医療物資を必要とする国々への支援を継続しつつ、WHOは5月5日に感染症対策用品を提供するためのサプライポータルを立ち上げ、COVID-19ナショナルアクションプラン参加国の保健当局やその他組織からの供給申請の受付を開始した。5月7日、国連はグローバル人道対応計画を更新し、63の低・中所得国に向けたCOVID-19対応資金として67億ドルの拠出を求めた[4, 5月7日]。

テドロス事務局長は、各国政府チャネルを通じた取組みに加えて非営利組織にも働きかけを行った。5月26日に33カ国・130名以上の市民団体代表と会合を実施し、パンデミック対応における市民団体の役割について意見を交換した。

経済的に困難な状況が依然として続いたため、5月27日にWHO基金が立ち上げられた。これは、公衆衛生上の要望に応えるために活動するWHO及びパートナーの支援を目的としている。パンデミックの状況下で、主要な活動努力はCOVID-19に傾けられていた。基金は、個人、大口ドナー、そしてパートナー企業からの拠出が想定されている。

これと時をほぼ同じくして、5月29日に世界30カ国とWHOの国際パートナーが参画するCOVID-19テクノロジー・アクセス・プール(C-TAP)が発足した。このイニシアチブはワクチン、検査薬、治療薬やその他COVID-19対応に必要な医療技術の収集と広範な提供を目的としており、科学的知見・データ・知的財産を共有する唯一のセンターである。

7月6日、WHOはパンデミック下における必須医薬品として認定された抗レトロウイルス薬の供給状況に関する各国向けアンケート結果を公表した。73カ国が抗レトロウイルス薬不足に陥る危険性があると回答し、24カ国は既に在庫切れになりそうな危機的状況にあるか、入手困難な状況にあると回答した。

WHOだけでなく、国連内の複数機関もCOVID-19が世の中にもたらす影響について調査分析を行っている。7月13日、国連は「世界の食料安全保障と栄養の現状:2020年報告」の中で、パンデミックの結果として、2020年末までには1億3千万人が慢性的な栄養不足に陥るとの予測を発表している[9]。

国際社会はWHOのイニシアチブに賛同し、7月15日までには世界人口の60%を占める150カ国がワクチンの平等且つ公平な分配を目的とする取組みであるCOVAXに参画する意志を表明した[4, 7月15日]。COVAXは、ワクチン提供に向けたACT-Aイニシアチブの方針の一つである。COVAXは、有効なワクチンが利用可能となった際に一般への提供が可能となるようワクチン候補ポートフォリオを各国に提供している。ACT-Aイニシアチブは、WHO、ワクチンと予防接種のための世界同盟(GAVI)、そして感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)が多国籍企業や開発途上国のワクチン製造会社と共に推進している。

GAVIとCEPIは、WHO隷下の組織ではなく、ワクチン接種と感染症流行対応に係わる経済的な課題解決を目的とした、国際機関及び民間組織とのパートナーシップである。GAVIは2000年に発足し、特に児童を対象として開発途上国にワクチンを提供している。資金は主としてビル&メリンダ・ゲイツ財団が拠出している。他方CEPIは、2017年のダボス会議で発足し、将来の感染症流行予防に向けた新たなワクチンの開発と導入を目的としている[5]。

2020年9月10日、テドロス事務局長とウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長がACT-Aイニシアチブ運営評議会の初会合を開催した。30名の各国首脳や大臣を含む世界のリーダーたちが、政治面でのリーダーシップを継続的に発揮し、ACT-Aへの資金拠出の正当性を支援し、ACT-Aイニシアチブの推進の下で開発される手頃な価格の新たなワクチン・医薬品・検査ツールが、可能な限り迅速且つ公平に世界中の国や人々へ提供されるよう尽力することを宣言した。

9月15日から10月2日にかけて、第75回国連総会がオンラインで開催され、WHOは世界のリーダーに向けてCOVID-19対応の加速化に貢献するACT-Aイニシアチブを支援し、新たなパンデミックへの備えに向け既に進めている今日の取組みを推進することで、持続可能な開発目標達成に向けたペースを維持するよう呼びかけた。国連総会では、COVID-19により将来の世代が受ける悪影響の軽減、有害なデマ拡散の阻止、そして緊急事態への備えの強化などの課題に関して議論が行われた。

COVAXは、各国政府やワクチン製造会社とともに、今後利用可能となるCOVID-19ワクチンを、相手や居住地の分け隔てなく最も必要とする人々へ提供するためのイニシアチブであり、9月の終わりまでには64の先進国が参加している。35カ国と欧州委員会は、27のEU加盟国・ノルウェー・アイスランドの代わりにワクチン購入を約束する用意があると発表した。

9月30日時点で、世界人口の約64%を占める156カ国が資金拠出を約束しているか、COVAXへの参加資格が認められている。

9月30日、国連とそのパートナーは、政府・民間セクター・市民団体・国際機関からACT-Aイニシアチブに対する合計10億ドルの追加拠出を歓迎した。

111月11日から13日、パリ平和フォーラムが開催され、欧州委員会、フランス、スペイン、韓国、そしてビル&メリンダ・ゲイツ財団がCOVAXに向けて3.6億円の追加拠出を表明した。

11月16日、WHO第147回執行理事会の再開セッションが実施された。テドロス事務局長は開会宣言においてワクチン開発成功の報告を喜んで迎える傍ら、「ワクチンそれ自体はパンデミックを終わらせるものではない」こと、そして「これから先も引き続き長い道のりを歩まねばならない」ことから、ワクチン以外の感染症対策を継続的に実施する必要があると強調した。


COVID-19は人類、国の医療制度、そして国家にとって極めて深刻な脅威となった。医療機関のパンデミック対応における情報面と組織面の課題解決において、WHOの担う役割が極めて重要であることが示された。国連の専門機関であるWHOは、過去の感染症対応を通じて蓄えた知見とその組織機構を活用して、COVID-19という新たな感染症、その症状、感染経路、そして治療法に関する情報を国際社会に向けて迅速に提供した。そして、パンデミックの深刻化に対処するための国際的な取組みを組織してきた。

COVID-19との闘いはまだ終わっていないものの、国連とそのパートナーの国際的な組織機構がパンデミック対応を有効に推進しているということは紛れもない事実であると言えよう。各国政府が、時に他国へ不利益を被らせながらも自国の目標を追及したのに対し、国連システムの国際機関、主としてWHOは、突如発生した深刻な脅威に国際社会が協力して立ち向かうための求心力となり、効果的な対応手段として機能したのである。


1国連支援のために1998年にメディア王テッド・ターナーによって設立された組織

引用文献

1. Клиническое исследование препаратов для лечения COVID-19 «Solidarity» // https://www.who.int/ru/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019/global-research-on-novel-coronavirus-2019-ncov/solidarity-clinical-trial-for-covid-19-treatments

2. Маршавин Р., Соколов А. Об участии международных финансовых организаций в противодействии распространению пандемии коронавируса и содействии пострадавшим странам // Международная жизнь. 2021. №1. 

3. Международные медико-санитарные правила (2005 г.). Второе издание. Всемирная организация здравоохранения. Switzerland, 2008. ISBN 978 92 4 458041 7.

4. Хронология действий ВОЗ по борьбе с COVID-19 // https://www.who.int/ru/news/item/29-06-2020-covidtimeline

5. Creating a world in which epidemics are no longer a threat to humanity // https://www.cepi.net/about/whyweexist 

6. Global Humanitarian Response Plan COVID-19 // https://www.unocha.org/sites/unocha/files/Global-Humanitarian-Response-Plan-COVID-19.pdf

7. Operational Planning Guidelines to Support Country Preparedness and Response // https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/covid-19-sprp-unct-guidelines.pdf

8. The Access to COVID-19 Tools (ACT) Accelerator // https://www.who.int/initiatives/act-accelerator

9. The State of Food Security and Nutrition in the World 2020. Transforming food systems for affordable healthy diets. Rome. FAO. 2020.

10. WHO Health Alert brings COVID-19 facts to billions via WhatsApp // https://www.who.int/news-room/feature-stories/detail/who-health-alert-brings-covid-19-facts-to-billions-via-whatsapp

11. World Health Organization. Structure // https://www.who.int/ru/about/who-we-are/structure 

By KokusaiSeikatsu

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