NLDに関して言えば、1988年の設立時から、国家建設のためのはっきりとした案を提起したことは一度もない。その政治目標は、軍部が政権に就くことを容認せず、軍事体制に代わるものとして、アウンサンスーチー――ビルマの国民的英雄アウンサンの娘――の指揮の下で団結させることに終始する。NLDが宣伝する主張は、ミャンマーにおける複数政党民主主義へ向けた非暴力運動への賛同、そして、人権と法の支配、国民和解の支持という、一般的な主張の域を出ない。

アウンサンスーチーの名は、過去、そして現在においてNLDを団結させているキーワードである。党に、彼女に次ぐNo.2、No.3は存在しない。党内に民主主義は存在しない。政治的な課題であれ、党員人事に関する課題であれ、それを決めるのは党の最高指導者のみである。ましてや、アウンサンスーチーは、国家顧問として政府を主導する立場でもあるのだ。

そうこうしているうちに、今年6月、スーチー女史は76歳の誕生日を迎えた。そして問題となるのは、彼女の健康状態から鑑みて、あとどのくらいの期間、彼女が活発な政治的役割を担えるか、という点である。党内におけるスーチーの後継者も、彼女と同等の影響力を持つ人物も、見当たらない。そうなると、スーチーがミャンマーの政治の表舞台から身を引くと同時に、NLDは、ライバル関係にあるさまざまな政治団体の集合体と化す可能性も排除できないのである。

地政学的要因

現在のミャンマーにおける出来事は、米中のライバル関係といったような外的要因に、多くの点で切っても切れない関係にある。ミャンマーは、中国にとって、もっとも重要な戦略的パートナーである。何よりもまず、ミャンマーは、中国にとってのインド洋への入り口であり、「一帯一路」構想の、もっとも重点を置く構成要素のうちの一つであるのだ。ここで、二つの事情が重要となってくる。一つは、中国が、ペルシャ湾とアフリカ諸国からの石油調達にかなり依存しているということである。これらの国々は、中国の石油ガス輸入の85%以上を占めている。石油の調達に当たっては、伝統的に、インド洋を渡り、狭いマラッカ海峡を通過するというルートが取られてきたが、マラッカ海峡は、この地域に展開しているアメリカ軍第七艦隊によって簡単に封鎖されうる。石油とガスの積み替えのためにミャンマーを利用することは、タンカーがマラッカ海峡を通過する必要がなくなるばかりか、輸送路を1200km短縮することにもつながるのである。

そのほか、ベンガル湾に面したミャンマーの港は、海への出口のない中国南西部の省、特に雲南省から国外に輸出をする際の、最短ルートを保障している。これは、この地域における経済発展のための弾みとなりえる。さらに中国は、ミャンマーの鉱物資源――石油、天然ガス、スズ、金と銀、鉛、亜鉛、ニッケル、タングステン、銅――の開発にも関心を示している。この国の多金属鉱の産地は、世界でも最大規模である。

By KokusaiSeikatsu

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