中国の対欧州政策はどのような原則に基づき推進されているのだろうか。「中国は、中国・欧州関係を戦略的且つ長期的視点で検討し、互いの関係構築において次の原則を遵守することを提唱する:

  • 中国とEUの関係性にとって最も重要な政治的基盤を強化するために、相互尊敬、対等、そして「一つの中国」の原則を堅持する;
  • 開放性、包括性、そして互恵的協力を支持し、成長理念の相互交流と開発計画の調整を強化する;
  • 正義を擁護し、困難な時には結束し、グローバル・ガバナンスの改善に向けた努力を結束させる;
  • 中国・欧州文明間の相互学習を促進するために、文明間対話と多様性の調和を支持する」[10]。

中国側は、これらの共通原則を明確にした上で、欧州が中国の領土保全(香港・マカオ・台湾・チベットを含む)を認めること、「東トルキスタンイスラム運動」のような、中国領土内のいかなる分離主義的な行動も支持しないことを求めている。[11]

勿論、中国の対欧州関係に向けたアプローチは、上記のような政治協力の共通原則のみに限られているわけではない。中国は、EUとの友好関係を自国の「一帯一路」イニシアチブ実現の機会と捉えている。中国に言わせれば、一帯一路政策は、「互いの利益獲得に向けた協議と協力の原則に基づき発展し、開放性・包括性・透明性を支持し、国際法と市場原則を遵守し、各地の条件に適合させた高い質と水準を追及する。中国は、平和・繁栄・開放性・革新を促し、文明を結び付け、環境に優しい成長を推進し、高い倫理基準を維持するための一帯一路構築に向けた共同の取組みに、EU並びに他の欧州諸国が積極的に参画することを歓迎する」のだ。[12]

中国は、欧州にとってなくてはならない最大の貿易相手国の立場にあり、欧州の友好国に対し自国の主張を突き付けることにためらいがない。「中国は、EUが開放的な投資市場を維持し、投資障壁と差別的障壁を削減および撤廃し、更に欧州へ投資する中国企業に公平・透明且つ予測可能な政治環境を保障し、中国企業の法的権利と利益を保護することを望んでいる」と主張している。[13]

中国の見解によると、「EUは中国に対するハイテク輸出規制を緩和し、WTOの義務を厳格に履行し、貿易救済措置に関するEUの法律と慣行をWTOの規則に確実に準拠させ、合理的な形で貿易救済措置を実行し、WTOの一部加盟国に関連する法的あるいは事実上の差別を防止する必要がある」、そして中国の対EU投資を妨害してはならないと考えている。[14]

これに加えて、中国は人権に関する道徳的説教あるいは内政干渉を耐え忍ぶつもりはないとの立場を明確にし、「欧州は客観的且つ公平な視点で中国の人権問題を検討し、人権という名の下に中国の内政と法主権に干渉することを慎むべきである」と主張している。[15]

なお、EU内において、当初は肯定的であった中国に対する姿勢が徐々に変わり始めている点を指摘しておく。2017年6月に開催された第19回EU・中国会談の中で、ユンケル欧州委員会委員長は、「我々の(中国との)関係は、開放性と法に基づく国際システム内での協力に向けた共通のコミットメントが基礎となっている。我々が今日この場に集い、このことを声高に表明できるのを嬉しく思う・・・。国内外の繁栄と持続可能性を共に推進しようではないか。我々は、中国の野心的な改革路線を歓迎する。我々は、改革が遂行され、そのための計画が策定されたと認識している。それでも我々は、その世界観が実現されるよう、政策の実施が加速されることを望む」と述べている。[16]

しかし、それから一年半後となる2019年3月に、欧州委員会の「EU・中国:戦略的視点」という宣言が採択された。この中では特に、「過去10年に亘り、中国の経済力と政治的影響力は、世界をリードする強国になるという野心を反映しつつ、これまでにない規模と速さで拡大した。中国はもはや開発途上国とは言えない。世界の重要なプレーヤーであり、有数の技術大国である。欧州を含む世界において益々高まる中国の存在感は、法に基づく国際秩序を守るという重大な責任感と、中国の体制における開放性・互恵主義・非差別性を伴うべきである。中国が公言する野心的改革は、中国の役割や責任と釣り合いのとれた政策と行動に現れねばならない。」と言われている。[17]

具体的に、同文書は「EUの対中農産物・食物輸出が、差別的で予測不可能で厄介な手続きや、過度な遅延および科学的根拠のない決定の被害に見舞われている」ことについて中国を非難している[18]。ブリュッセルは、(イタリアを含む)欧州内の特定の国々との間に特権的関係を築こうとする中国の試みを非常に懸念している。このような試みは、EUの統一性を蝕むものであるとEU指導部は考えている。また、中国による欧州のインフラ事業への投資にも懸念を持っている[19]。

翌年の2020年に発表された中国に関するハイレベルグループレポートは、中国を非難する色が益々濃くなっている。同文書には、「多くの同盟国にとって、中国は経済的な競争相手であると同時に重要な貿易相手国でもある。それゆえに、中国のことを単純な経済大国として見る、あるいは同国の安全保障戦略の力点はアジアのみに置かれていると考えるのではなく、あらゆる分野における体系的な競争相手と認識するのが妥当である。中国がロシアに匹敵する規模の軍事的脅威を北大西洋地域に直接与えていないとしても、中国は大西洋・地中海・北極圏における軍事的プレゼンスを拡大し、ロシアとの軍事協力関係を深め、長距離ミサイルや戦闘機、空母、そして長距離航海が可能な原子力潜水艦を開発するとともに広範な宇宙配備型能力や大規模な核兵器を保有している。NATOの同盟国は、あらゆる分野における中国の脅威を益々感じている。「一帯一路」、「北極シルクロード」、そして「デジタルシルクロード」構想は急速に進展しており、中国は情報通信やコミュニケーションに対する潜在的影響力を持つ欧州全域のインフラを獲得しつつある。多くの同盟国は、中国を発信源とするサイバーアタックの標的となり、防衛に係わる知的財産が盗み取られ、特にCOVID-19パンデミックの発生以降は中国からの偽情報キャンペーンの被害を受けている」と記載されている。[20]

By KokusaiSeikatsu

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