大ユーラシアパートナーシップ構想は、最大限柔軟な性質を有しており、これは優位性であると同時に、潜在的な短所でもある。とは言えその短所は、大ユーラシアにおける協力メカニズムの具体化に伴い克服されていくであろう。

大ユーラシアパートナーシップ構想は、EUとその加盟国にも門戸が開かれている。但し、それは彼らが構想に参加し得る程に十分成熟した場合に限られる9

大ユーラシアの形成は、「上から下へ」だけではなく「下から上へ」という形での協力のダイナミクスに基づく「多様な速度での統合」という概念の中で、人々の言うところの「生活から」展開していくことが想定されている。汎ユーラシア的な協力に関心を持つ大陸の国々は、準備が整えば大ユーラシアパートナーシップに参加することが可能であり、そこには人為的な「期限」を設けられことも、協力の条件が課されることもない。こうした国々のビジネスや社会は、パートナーシップの有意義なダイナミクスが有する包括的な内容に参画し、貢献することが可能となるであろう。

専門家コミュニティの中では、大ユーラシアパートナーシップの構成に関する様々なオプションやアプローチについて議論が継続されている。権威ある国際討議グループ「バルダイ」では、「大ユーラシアパートナーシップあるいは大ユーラシア共同体は、10年先を見据え、ユーラシア大陸諸国の協力の方向性を定める地政学的・地経学的・地理的イデオロギー思考の概念的枠組みである。かつて後進国であった、あるいは抑圧されていた何十ものユーラシア諸国の経済的・政治的・文化的な共同復興と発展を目指し、ユーラシアを世界経済と政治の中心地に変えることを目的とすべきである」と専門家達が論じている。10

ウラジーミル・ペトロフスキーは、大ユーラシアパートナーシップを経済協力・大規模投資事業・地域統合間の連携という要素に分割し、それらは「外からの干渉や、社会から認められていない社会秩序あるいは他の構造の押しつけから守られるべきである。国際舞台では、全ての国によって例外無く遵守される、明確且つ適切に計算された共通のゲームルールが必要である」と述べた。11

一部の政治学者が考えるように、大ユーラシアパートナーシップの制度形態は、「政治と経済、『ソフトパワー』と『ハードパワー』を組み合わせた総合的且つ包括的な性格を有し、大国・中間国・小国いずれにとっても安定したものでなければならない。我々の手中には、『ユーラシア統合』、金融機関「シルクロード」、アジアインフラ投資銀行、SCOや、ASEAN他の各国が参加する多国間組織などといった、潜在性のある素晴らしい国際協力機関と更なる発展が存在する。それらを今後も改善し、補完していく必要がある。」12

「大ユーラシアパートナーシップでは、ビジネス界(専門家・学術コミュニティを含む)が、様々な国家権力機関の代表者と対等な形で、専門家へのコンサルテーションだけでなく、パートナーシップの成長と機能に関する意志決定プロセスにも関与しなければならない。(中略)最終的に、大ユーラシアパートナーシップは、管理容易性・持続性・自発的成長能力という三つの主要な性質を持つ必要がある。」13

大ユーラシアパートナーシップの形成の為に不可欠と思われる重要な課題と解決策は次の通りである:

  • 個々の国家やメガリージョン内に存在し、大部分が重複している連合体の統合推進に向けた、大ユーラシアパートナーシップの共通理解と「アンブレラブランド」の形成
  • 大ユーラシアにおける「シームレスな」統合経済空間の創出と、それによるコスト削減、紛争解決や投資の保護を含む相互プレゼンスの拡大
  • 共同事業の実現と効果的な協力制度という二つの基本方針に沿った実践的な協力の推進
  • ビジネスの調整システムやインセンティブなど、内容の確実性と安定性に重点を置いた上での優先事項に関する規制の調和
  • 地域の包括的且つ安定的な成長と集団的成長を達成に向けた、柔軟でメガリージョナルな産業チェーンの形成を目標とする、優先分野に関する潜在リソースの集約
  • 大ユーラシアの統合プロセスにおいて協力関係にある重要な参加者(国家機関、企業、社会)の努力と利害関心の包括的な一致
  • 活発な情報政策の推進と、現行の取組みや今後の可能性に関する大ユーラシアコミュニティの意識向上

大ユーラシアパートナーシップの構築による利益は、各国の経済成長戦略に要するコストを実質的に削減可能な点である。これは、クロスインダストリー並びに個々の産業分野の専門化、市場拡大によるスケールメリットの達成、そして競争力及び投資魅力の向上により達成される。

ロシア大統領や他の近隣諸国の指導者が提示する成長の統合ベクトルについて考えた時、近年人類が直面した深刻な問題の中で、大ユーラシア構想は何を示すべきかという疑問が否応無しに突き付けられる。最近のCOVID-19パンデミックによる劇的な被害に見舞われた中、ユーラシア大陸諸国や実業界にとって、大ユーラシアは重要なのだろうか。

By KokusaiSeikatsu

『国際生活』はロシア連邦外務省を発起人とする、国際政治、外交、国家安全保障の問題を取り扱う月刊誌です。創刊号は1922年、『外務人民委員部週報』として出版され、1954年に『国際生活』として、月刊誌として復刊しました。今日、ロシア国内だけでなく、世界各国においても幅広い読者を獲得しています。