アンドレイ・トリン、『国際生活』編集委員

コソボでの紛争が続いている。象徴的な事件となったのは2022年12月14日、コソボ人グループがセーヴェルナヤ・コソヴスカ・ミトロヴィツァの市役所の建物を占拠し、今までの合意を無視する形で、セルビア人を排除した行政体制を敷いた事件だ。ブリュッセルでの合意はいつものように無視された。市長にはアルバニア人のネジャト・ウグリャニン氏が就任した (1) 。一方、12月20日、NATOのナポリ統連合軍司令官であるスチュアート・ムンシュ海軍大将と会談したセルビアのアレクサンドル・ヴチッチ大統領は、コソボ・メトヒヤにおけるセルビア人住民の保護への支援を訴えた。

現在のコソボにおける情勢の緊迫化は、紛争の激化から交渉へ、そしてベオグラードとプリシュティナの間の新たな妥協へという、いつものパターンに従っているように見える。2000年代からその基本的なアルゴリズムは変わっていない。問題なのは、そのようなパターンが繰り返された結果、コソボ北部におけるセルビア人にとっての状況は一貫して悪化してきたということだ。セルビア側の専門家も (2) 、海外の専門家も、ベオグラード政府にとって重要なのは、セルビア人住民の立場を守ることではなく、新しい妥協策を外交的成果として宣伝することで自らの評判を守り、世論をなだめることなのではないかとさえ指摘している。アレクサンドル・ヴチッチ大統領とその周辺には、EU・アメリカに関わりの深い人物が多く、EU加盟を目指す路線を維持している。EUへの加盟を果たすために、コソボ問題においても譲歩を続けているのではないかと思われる。セルビア政府は、経済発展のためには投資の誘致が必要であり、そのためにはEUを含めた緊密な連携が不可欠だとしている。

遅くとも2025年から2026年にはEU加盟を目指すセルビア政府にとって、コソボ問題はのど元に刺さった骨となっている。ウクライナ危機より以前、ロシアによる特別軍事作戦の開始前まで、西側各国はセルビアが内政においても外交においても一定の均衡を維持するのを容認していた。しかしいまや状況は変化している。

第一に、「コソボ問題」の早期解決(つまりはコソボを自立した政府として認めること)は、アメリカもEUも共に望むところであるということだ。EUもアメリカも、国際問題では他の問題が山積している中で、バルカン半島においては身動きがとりにくくなっている。というのも、バルカン半島には、ロシア、中国、トルコが利害を有しており、いずれの国もアメリカ及びEUとはかなり複雑な関係を持っているからだ。そのため、アメリカ及びEUは、プリシュティナの立場に基づいた条件での「コソボ問題」の解決を急いでいる。

第二に、そもそも今のセルビア人住民をめぐる問題の原因は、2011年にこの問題を国連の管理からEUの管理に移したベオグラード政府自身にあるということだ。それによって、コソボ側の立場が強くなった。この決定は、セルビア国内においても大きな議論を巻き起こした。コソボが一方的に独立を宣言してから、状況は特に変わっておらず、プリシュティナには、セルビア人住民の立場に配慮する姿勢は見られない。いずれにせよ、セルビアとコソボとの関係正常化に向けた交渉が始まったものの、すでに実際の出来事が示す通り、コソボにおけるセルビア人住民の状況はますます複雑化している。

セルビア政府は、ウクライナにおけるロシアの特別軍事作戦を背景に、表向きは「中立」を表明しているが、実際には「西側寄り」の立場に近づいている。セルビアはロシアを最も近しいパートナーとしているものの、2022年を通じてセルビア政府のロシアに対する行動は、友好的とはとても言えないようなものもあり、中立的でさえないような行動もあった。特に2022年3月、国連において特別軍事作戦を非難する決議の採決が行われた際、セルビアは、領土一体性の原則及びコソボ問題における立場を理由に、支持に回った。4月には、セルビアに対する制裁を回避するという理由で、国連人権理事会におけるロシアの資格停止を支持。さらに10月12日には、ドネツク・ルガンスク両人民共和国、ザポロージエ州、ヘルソン州のロシア連邦への加盟を問う住民投票の結果を認めないとする国連総会決議を支持した (3)。

12月2月、ヴチッチ大統領は、EUによる対ロシア制裁における迂回ルートにセルビアが使われることはない、と声明 (4) 。すでにロシアへの再輸出を行っていた企業を摘発したとしたほか、EUからセルビアに対して1億6500万ユーロに上る支援が行われた事実についても特に言及した。

ベオグラードは、ロシアから優遇価格でガスを購入しており、EUからの支援よりもかなり多くの金額をそこで節約しているということを忘れているようだ。2022年のガスの平均価格は1000立方メートル当たり1600ドルであったのに対して、セルビアは1000立方メートル当たり400ドルの値段で、年間約20憶立方メートル消費している。つまり単純にガスの購入だけで20憶ドル以上の利益を上げており、これはEUからの支援の14倍の金額にあたる。確かにセルビアは、ロシア産ガスへの依存を減らそうとしている。12月17日、「親米派」と言われるジュブラフカ・ジェドヴィッチ=ネグレ鉱物エネルギー大臣 (5) は、ロシア産ガスへの依存減少はセルビア政府にとって重要な課題であるとの考えを示し、「アゼルバイジャンからのエネルギー輸入やギリシャのターミナルとの接続など、数億ユーロに上るプロジェクトがある」と強調した。

そのような動きにロシアはどう反応してくのか?外交面においてはロシアは引き続き、セルビアの一地域であるコソボの独立は認めず、セルビアの領土一体性を一貫して主張していく。両国の関係には、ロシア正教会とセルビア正教会の交流も大きな役割を果たしている。しかし、ヴチッチ大統領の政策に関するロシア政府の立場は今のところ明確に定義することはできない。ロシア側は、セルビアの置かれた厳しい地理的状況を理解している。NATO加盟国に囲まれ、その隣国のいくつかは、国境線の変更にまで関与している。さらにセルビアは海への出口を奪われており、NATO及びEUからの圧力を含め、様々な譲歩に応じざるを得ない。ただし、セルビアがいくら地政学的に難しい立場に置かれているとはいえ、ロシアとの信頼関係を標榜するセルビア政府においては、遅かれ早かれ、ロシアとの関係をより明確なものにする必要が出てくるだろう。

[1] https://iz.ru/1440804/2022-12-14/balkanist-obiasnil-zakhvat-vlasti-albantcami-v-munitcipalitete-kosovo

[2] Яркий пример такой критики см. https://regnum.ru/news/3342236.html

[3] https://www.rbc.ru/politics/25/09/2022/63303f279a794787b57079f6

[4] https://tanjug.rs/english/politics/967/varhelyi-eu-to-continue-support-to-serbia/vest

[5] https://balkanist.ru/amerikanskaya-mechta-novogo-ministra-energetiki-serbii/

https://interaffairs.ru/news/show/38375

By KokusaiSeikatsu

『国際生活』はロシア連邦外務省を発起人とする、国際政治、外交、国家安全保障の問題を取り扱う月刊誌です。創刊号は1922年、『外務人民委員部週報』として出版され、1954年に『国際生活』として、月刊誌として復刊しました。今日、ロシア国内だけでなく、世界各国においても幅広い読者を獲得しています。