トルコのマスコミが「プーチン、トルコの武器に驚く」(i) と書きたてる一方で、トルコ政府は、ウクライナ南東部の武力紛争で、自国の無人機Bayraktarが使用されたことを快く思っておらず、距離をとろうとしている。ウクライナは10月26日に同無人機を使用し、「ミンスク合意には違反していない」と主張している。しかし、実際に攻撃を受けたルガンスク人民共和国の側では、接触ラインに沿っての軍用機の使用および外国の無人機の使用が禁止されている、と非難している。

トルコのメヴリュト・チャウシオグル外相は、ローマでのG20サミットに参加した中で、ウクライナが使用した軍用無人機は、トルコで生産された可能性があるものの、その使用はウクライナの問題だとコメント。チャウシオグル外相は、トルコから入手した無人機について、ウクライナは「トルコの無人機」と呼ぶべきではないとの考えを示している。(ii)  

トルコは、反ロシアで知られる「クリミヤ・プラットフォーム」に参加しているが、外相はなににそれだけ動揺するのか。筆者の見方では、今回の「トルコの武器の成功」はトルコの国益には反しており、アメリカ政府が主導する「ウクライナ・ゲーム」にトルコ政府を巻き込むことになるとみている。フランスも、ドイツも、このゲームからは距離を置いているのだ。  

ウクライナ問題をめぐって和平への掛け声が高まる中で、ウクライナがBayraktarをドンバスで使用したことは、深刻な懸念を読んでいる。

フランス外務省も、ウクライナ軍によるトルコの無人機使用について、懸念を表明している。フランス外務省の報道官は、「東部における軍事行動の高まり、そして、ウクライナ参謀本部が攻撃無人機Bayraktarを使用したと発表したことについて、懸念している」とし、ミンスク合意への違反行為が続けば、さらに緊張がエスカレートする、との考えを示した。(iii) 

ドイツ外務省のアンドレア・ザッセ報道官は、ウクライナ軍が無人機Bayraktarを使用したことを聞いている、としたうえで、無人機の使用はOSCEの監視団のみに許されていることであり、ドイツ政府は「双方の当事者」(!)を非難する、と述べた。これは非常に奇妙な評価だといえよう。

ウクライナのドミトリー・クレバ外相は、欧州諸国に対して、客観的に状況を評価するよう呼びかけ、「ウクライナの自衛権」について言及しているが、これも、奇妙な声明であると言わざるを得ない。

アメリカの立場はどうか。在キエフ米大使館はSNS上で、「我が国は、ドンバスでの紛争の当事者双方に対し、休戦を履行するよう呼びかけ…」(v) さらに、「アメリカおよび欧州諸国は、ロシア軍の一部がウクライナ国境に迫っていることを、懸念している」としている。(vi)

またアメリカの反応は言葉ではなく、行動として立ち現れた。黒海にアメリカ艦隊が派遣されたのだ。11月4日、米海軍USS Mount Whitney は黒海に進出。(vii) 海域にはすでに米海軍駆逐艦Porterが待機しており、11月3日には米海軍補給艦John Lenthall がボスポラス海峡に入った。補給艦は黒海においては珍しい存在で、軍事行動の意図を物語っている。(viii)

ウクライナによる無人機の使用と、アメリカ海軍の黒海でのプレゼンスの強化との間の関連性については、明確なことはいえないのは確かだろう。しかし、「ロシア封じ込め」政策がすでに公にされている状況で、さまざまな行動の間には、しばしば、このような「相乗効果」が指摘できることも確かだ。無人機の使用、ウクライナ国境へのロシア軍の増強、黒海での米海軍のプレゼンス強化、という一連の情報の流れは、少なくとも、よどみのないように見える。

そしてこのような情報のよどみない流れのなかで、トルコ政府の行動は唯一、外れている。ウクライナ南東部の紛争からは距離を置こうとしているのだ。

トルコの国益は、軍艦のボスポラス海峡の通過をコントロールできること、そして黒海における軍艦の滞在時間を制限するモントルー条約により守られているが、NATO同盟国の軍艦通過を妨げることはない。しかし、黒海を自国の勢力圏と考えているトルコにとって、黒海でのNATO同盟国のプレゼンスが強化されることは、歓迎すべきことではない。トルコとNATOの間にはしばしば立場の対立が見られ、その引き金としては、双方の地中海および黒海における行動であることもあれば、トルコが、ロシアなどほかの国との軍事技術協力を行うことなどもある。シリアにおける戦争でも、NATO陣営内での利害の対立と、トルコが中東に対して持っている特殊利益が露わになった。そのような状況のなかで、トルコはロシアから武器を購入し、ウクライナに武器を販売し、シリアでは定期的にロシアと協力し、カラバフ戦争ではアゼルバイジャンを支持する、という行動をとらざるを得ないのだ。

しかし、他国による自国の無人機の使用、その供給への自国の関与について、トルコがこれほど敏感に反応したことはいまだかつてない。カラバフ戦争の再燃においては、アゼルバイジャン政府も、トルコ政府も、トルコの無人機が効果的であることを発表している。一方のウクライナとの関係においては、軍事技術協力の合意があるにもかかわらず、トルコは一線を画そうとしている。この点、今年7月に、トルコのミュジャヒト・キュチュキルマズ大統領上級補佐官が、トルコのウクライナに対する武器供給について、ロシアは心配する必要はない、と声明したことが想起されよう。「トルコは一方に関与することで、他方に問題を作り出すことはしない。我々はリンゴと梨の区別はつく。トルコには、さまざまな国と同時に、さまざまなレベルでの関係を構築する可能性と、外交能力がある。引き続き、我々の需要と国益に基づいて、多くの国との関係構築を進める」と述べたのだ。(ix) おそらく、無人機の使用においては、梨とリンゴのはっきりとした区別をつけることができなかったのだろう。トルコ政府は、ロシアとの関係における「レッドライン」に気がついたのだ。  

今回の出来事はなにも、トルコにとって、ウクライナ関連で複雑な状況に追い込まれた最初のケースではない。ウクライナは多くの国にとって問題を起こす国であり、それは米国にとっても同じことだ。トランプにとっては、ウクライナでの所得隠しの疑いで、ポール・マナフォートが非難されたし、バイデンにとっては、ウクライナのBurisma社で勤務したことになっていた息子の問題で、問題となった。(x) ドイツとフランスは、欧州安全保障におけるウクライナの役割、ノルマンディー・フォーマットおよびミンスク合意における協力に関して、何とも言えようのない感情を持っている。ドイツ政府は、「ノルドストリーム2」の妨害について、さらには、アメリカ政府から押し付けられた、ウクライナに対するエネルギー負担について、 「感謝」の気持ちを持っていることに疑いはない。

ウクライナからの最新のニュースも、それら同盟国を安心させるものではない。新しい国防相として、元副首相のアレクセイ・レズニコフが指名されたのだ。(xi) 彼は2020年3月から、「一時的に占領された地域の再統合」問題担当相であり、またドンバス問題のコンタクトグループにおけるウクライナ代表団の第一副代表であった。

レズニコフはおおくのスキャンダラスな発言で知られている。今年8月、彼はアメリカに対して、ロシア封じ込めのためにウクライナへの対空防衛力を配備するよう求め、ロシアが、「クリミヤに核兵器を配備し、黒海およびアゾフ海の軍事化のためにクリミヤを利用しようとしている」と述べた。さらに、「クリミヤがウクライナに復帰」した際には、ロシア市民を国外退去にすることを検討している、とも述べている。

トルコの問題に話を戻そう。トルコの心配の背景には、地政学的な原因がある。ドンバスはロシアにとって「レッドライン」であり、そこで戦うことはトルコの利益にはならない。一方のウクライナにとって、無人機がトルコのものであることを強調することは、利益になる。ウクライナにとっては、定期的に「レッドライン」を犯すことが、自らの方針なのである。トルコはといえば、例えばシリアで何が起こったか、何が国益にとって重要なのか、よく理解しているのである。

※著者の意見は、編集部の意見とは関係ありません。

[i] https://inosmi.ru/politic/20211103/250839161.html
[ii] https://censor.net/ru/n3296796
[iii] https://lenta.ru/news/2021/10/28/france_cares/
[iv] https://lenta.ru/news/2021/10/28/bayraktar/
[v] https://www.gazeta.ru/politics/news/2021/10/29/n_16773673.shtml
[vi] https://eadaily.com/ru/news/2021/10/31/smi-ssha-obespokoeny-reakciey-rossii-na-primenenie-ukrainoy-bpla-bayraktar
[vii] https://iz.ru/1245347/2021-11-04/korabl-ssha-mount-whitney-voshel-v-chernoe-more
[viii] https://iz.ru/1245035/2021-11-03/voennyi-istorik-prokommentiroval-prisutstvie-v-chernom-more-tankera-vms-ssha
[ix] https://ria.ru/20210729/oruzhie-1743380935.html
[x] https://tass.ru/mezhdunarodnaya-panorama/6964280
[xi] https://crimea.ria.ru/20211104/na-ukraine-izbrali-novogo-glavu-oboronnogo-vedomstva-1121324518.html

By KokusaiSeikatsu

『国際生活』はロシア連邦外務省を発起人とする、国際政治、外交、国家安全保障の問題を取り扱う月刊誌です。創刊号は1922年、『外務人民委員部週報』として出版され、1954年に『国際生活』として、月刊誌として復刊しました。今日、ロシア国内だけでなく、世界各国においても幅広い読者を獲得しています。