アンドレイ・イサエフ、国際ジャーナリスト 歴史学博士


アフガニスタン国家の強化およびアフガニスタンでのテロリズムの克服を目指した、アメリカとその同盟諸国による長年にわたる努力は、皮肉な形で幕を閉じることとなった。国連のテロリスト・リストに掲載されている組織が、アフガニスタンの政権の座に就くことによって、幕を閉じることとなったのだ。8月15日、タリバンはカブールに入り、その後2週間で、最後のアメリカ軍がアフガニスタンからの撤退を完了した。しかしそのことは、平和も、経済的な安定も、もたらすものではなかった。タリバンは多くの声明を発表しているが、それとは裏腹に、人道的な危機が迫っているというのが、専門家や政治家らの一致した意見だ。ロシアのワシリー・ネベンジャ国連代表は、「タリバンは国際社会および地域諸国との間で、実務的な協力に入る準備がある。アフガニスタンは、秩序の回復、長年の紛争からの復興という第一の課題に直面している」と指摘する [i] 。

しかし残念なことに、それらの課題はいまだに解決する様子がない。チンギスハンの言葉通り、馬に乗って世界を征服することはできても、鞍の上から世界を統治することはできないのだ。タリバンには行政統治経験が欠如しており、海外資産の凍結と、武装反対派勢力への対策がのしかかる。

ロシア連邦安全保障会議のニコライ・パトルシェフ書記の情報によれば、現在、アフガニスタンでは20以上のテロ組織が活動しており、その戦闘員の数は、2万3千人を超える。

そのなかでも最も激しい活動を見せているのが、イスラム国だ。その勢力範囲には、アフガニスタン、パキスタン、イラン、中央アジアが含まれる。設立当初から、イスラム国とタリバンとの相性は悪く、イデオロギー的にも対立している。その両者の衝突は、日々報告されている。最近の国連の発表によれば、ほぼすべてのアフガニスタンの地域において、イスラム国の代表や戦闘員が存在しているという。

主にウイグルのイスラム主義者からなる「東トルキスタンイスラム運動」については、さまざまな情報が報告されている。長年、タリバンとの共闘を行ってきたと考えられているものの、中国政府がタリバンに対し、経済協力と引き換えに、同組織との関係を断ち切るよう求めたことによって、タリバンは、ウイグルの戦闘員らに対し、アフガニスタンを出国するよう説得したとしている。しかし、内部に詳しい情報筋からの報告では、トルキスタンの戦闘員らは、イスラム国などの他のテロリスト組織に流入しただけ、との見方もある。

ヌリスタンに本拠地を置くアルカイダとの協力についても、タリバンはその声明にもかかわらず、協力を継続しているとみられる。カリ州の知事として、タリバン政府から任命されたアブドゥル・ハキム氏自身が、アルカイダのメンバーである。この両組織の連携は、タリバン寄りの「ハッカニ・ネットワーク」を通じて行われているとみられる。  

またタリバン政権に対して、多くの民族グループも抵抗を続けている。パンジシェールでは、すでに数カ月にわたって、タジク人の民族抵抗戦線が、タリバンに対する闘いを続けている。同戦線のアフマド・マスド司令官はワシントンポストへの寄稿のなかで、「我々はタリバンと戦う準備がある。この日が来るということを予想していた。長年にわたって我慢強く武器も弾薬も集めてきたのだ」と書いている。またかつてアフガニスタンで副大統領を務めたモハマド・カリム・ハリリは、ハザーラ人を代表し、さらには「タジク人とウズベク人」を代表し、タリバンに対して、「約束を守らず、暴政を放棄しないようであれば、武装抵抗を再開する」としている。

当初の勝利の歓喜が醒める中、タリバンのムッラー・ヤクブとハッカニ・ネットワークのシラジュッディン・ハッカニは、お互いに対する警戒心を隠していない。また個人崇拝的な指導がいまだ健在であるこの国において、「穏健派」とされるムッラー・バラダルと、ハッカニ・ネットワークとの対立も指摘される。いまだに全面的な抗争は起きていないが、すでに小競り合いは報告されている。

アルカイダの立場の強化(タリバンのおかげか?)と、イスラム国の立場の強化(タリバンにもかかわらず)、さらにはタリバン内部での対立といった現状では、「アフガニスタン首長国」における軍事政治的混乱、経済的カオスが近づいている。ロシアが最近、数百人の自国民(他国民も含め)を避難させたのも、偶然ではない。

このようななかで、近隣諸国は、最悪の事態に備えている。つまり、難民の流出(さらには過激主義者、麻薬ディーラーたち)、さらには、イスラム原理主義者らによる直接の武力圧力だ。アフガニスタンから旧ソ連地域への不安定の輸出は、中央アジア各国による軍事演習の実施、治安機関同士の連携強化に見られるように、現実味を増している。

11月18日に行われたロシア外務省での会議でプーチン大統領は、「アフガニスタン情勢を受けて、ロシアはその南部国境における安全確保のための追加措置をとる必要があり、さらには、ロシアに地域の安定の保証人を期待する中央アジア各国への支援を行う必要がある」と指摘 [ii]。ロシアはアフガニスタン国内のパワーバランスにおいて、「近い将来の何らかの別の選択肢」(ラヴロフ外相)はないと考えており、何らかの軍事的シナリオを準備しているわけではない。ロシアもアフガニスタンも、二国間協議という選択肢を視野には入れているものの、何らかの政治的協力もいまのところ俎上にのぼっていない。

ネベンジャ国連代表は現状において、「すべての主要な民族政治グループの利害を代表する 真にインクルーシヴな政府の樹立」しかないとみている。そのために、ロシア外務省は、「アフガニスタンのすべての民族グループ、政治グループが、軍事的手段を放棄し、和平プロセスの完了に向けて全力を尽くさなくてはならない」と考えている [iii]。

タリバンはすでにそのような路線を約束している。アフガニスタンの将来は、タリバンが自らの約束を守り、実行する意思があるかどうかにかかっている。その希望は確かに、風前の灯ではあるが。

筆者の意見は編集部とは関係ありません

[i] Постпред РФ при ООН заявил, что ситуация в Афганистане не стабилизировалась (interfax.ru)

[ii] Путин: ситуация в Афганистане требует дополнительных мер безопасности на южных рубежах РФ – Политика – ТАСС (tass.ru)

[iii] https://newizv.ru/news/world/02-11-2021/afganskie-partizany-gotovy-srazhatsya-s-talibami-i-prosyat-pomoschi-u-rossii

By KokusaiSeikatsu

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