ウラジスラフ・グレヴィッチ 『国際生活』解説委員

(翻訳:安本浩祥)

インドは、インド太平洋地域における島嶼国家らとの対話を活発化させ、戦略的に重要な地政学的拠点を抑えようと躍起になっている。協力関係は主に、軍事技術協力および社会経済プログラム、そして人道援助を核としている。


インドの超音速ミサイル「BrahMos」は、ロシアの「P800 オニクス/ヤーホント」に基づいて設計されたものであるが、これをフィリピンに対して販売したことは、まず第一に、長らく他国との武器生産競争で辛酸をなめてきたインド軍需産業にとっての一種の成功事例として見ることが出来るとともに、第二に、東南アジアにおけるインドの影響力拡大の一つの事例としてみることもできる。

インドのミサイルへはタイ、インドネシア、ベトナムが関心を示している。インドとそれらの国々の軍事技術協力は加速しており、ベトナムに対しては、海軍向けの高速船の製造および潜水艦乗組員に対する技術指導のためのファイナンスも承認されている。専門家らの見立てでは、インドの戦略的課題は依然として、東南アジア問題に中国の関心をくぎ付けにしておくことで、インド洋からの関心をそらすことにあるという。そのため、インドと東南アジア諸国との間の軍事技術協力はますます拡大することが予想される。

インドにとって東南アジアは、インド太平洋地域における重要拠点だ。インドは米英豪によるブロックであるAUKUSに、同じ地政学的志向をもった新しいパートナー(like-minded partners)を加えることによって、アジア的要素を加えることを呼びかけており、インド、日本、韓国によるいわゆるAUKUS+を提案している。

インドはすでに、フランスとオーストラリアとの間で、三か国グループ(France-Australia-India trilateral)を形成しているが、オーストラリアがAUKUSへと「抜けて」しまい、そこにフランスが加わらないということになると、インドは困った状況になってしまう。オーストラリアやアメリカの協力なくして、フランスだけとの協力では、インドはインド太平洋地域における自らの地政学的目標を達成することはできない。

インド太平洋地域における米国およびその同盟国に対して、ロシアと中国、北朝鮮が手を結ぶという将来の可能性に対する答えとして、AUKUS+が存在しているという意見もある。NATOとの関連でいえば、AUKUS+はインド太平洋地域における西側の地政学的団結を維持するための手段であるとともに、インドをはじめとした同盟諸国に対して、地政学的責任の一部を移譲するためのものでもある。

インドとインド太平洋地域における島嶼国家らとの協力も重要な意味を帯びている。インドと中国との間で繰り広げられている競争の激しさを見れば、この問題の戦略的重要性が分かる。モルディブ諸国はその好例だ。スリランカから南西に位置し、26の島々からなる面積9万平方キロメートルのこの小国を、インドは地域における海上交通の要衝とみなしている。

モルディブは、インドの連邦直轄領であるラクシャディーブ諸島のミニコイ島から70海里に位置する。つまり、モルディブの主導権を握る者が、インドの西部沿岸を掌握することとなる。そのため、モルディブとの軍事政治的協力関係は、インドの外交政策の不可欠の部分となっている。両国は共同での海上演習(その一部にはスリランカも参加)を実施し、モルディブ軍はインドから、航空機、船舶などの軍事支援を受けている。

2020年モルディブは、米国との間で、防衛分野における協力合意を調印。それ以前まで、モルディブがそのような合意を結んできたのはインドだけだった。インドはこの合意を歓迎した。しかしモルディブは、インドと米国のほかに、中国とも関係を発展させている。もちろんそれは、国防分野ではなく、経済分野ではあるが。

モルディブは、米国の軍事基地がおかれている英領ディエゴ・ガルシア島から1200キロメートルの距離だ。この島は、インド亜大陸、アラビア半島、アフリカ、オーストラリアをつなぐ海上ルートが交差する形で、インド洋南部の中心に位置する。米国がモルディブに関心を抱くのも頷けよう。

一方の中国は、オセアニアの島嶼諸国家をめぐってはインドに先んじており、モルディブをめぐっても競争が続くだろう。フィジー、ソロモン諸島、パプアニューギニアとの間で、中国は関係をかなり進めている。インドと中国は、自らの地政学的影響力を確保するための領域を建設しようとしている。インドはインド洋の国々と、中国は東南アジア諸国と。

中国はインド太平洋地域における自らの目標を、自らの力で達成しようとしており、インドのように多くの同盟国の助けを必要としていない。そのため、中国外交はインド太平洋地域においても、東南アジアにおいても、自らの判断で動くことが出来る。一方のインドは、インド太平洋地域に対する同盟諸国の戦略的アプローチの足並みをまずは調整し、その上で統一したアプローチを確立しなくてはならない。インド外交にとってこれは難しい課題であり、その迅速な解決のためのリソースは有していない。インドの同盟諸国である日本、フランス、オーストラリア、米国は、それぞれに違った課題を持っている。日本は東南アジアに関心を抱き、オーストラリアとフランスはインド太平洋地域のなかでも主に太平洋部分、米国は東南アジアとインド洋の両方を自らコントロールしようとしているが、効果的に進んでいるとはいいがたい。そのためインドは自らの同盟諸国に対して、インド洋の戦略的重要性をより高めようとしているのだ。

インドとフィリピンとの協力の深化、および中国とモルディブとの協力の深化は、インドは「中国の庭」に入ろうとしており、また中国は「インドの庭」に入ろうとしていることを物語っている。インド太平洋地域の小国家らは、難しい選択に立たされている。彼らは最大限に多角化外交を追求することによって、状況を打開しようとしている。これは、地域外のプレーヤーに対して新しい機会を開くものでもある。

※筆者の意見は編集部の意見を反映したものではありません。

By KokusaiSeikatsu

『国際生活』はロシア連邦外務省を発起人とする、国際政治、外交、国家安全保障の問題を取り扱う月刊誌です。創刊号は1922年、『外務人民委員部週報』として出版され、1954年に『国際生活』として、月刊誌として復刊しました。今日、ロシア国内だけでなく、世界各国においても幅広い読者を獲得しています。