オレグ・パラモーノフ
歴史学博士候補、ロシア外務省モスクワ国立国際関係学大学東アジア上海協力機構研究センター上級研究員 (翻訳:安本浩祥)

ウクライナ情勢が緊迫化して以降、日本は、ロシアへの制裁措置およびウクライナへの支援供与において、西側諸国と歩調を合わせている。日本はアジアの国の中でも、ロシアの外交官を国外追放した唯一の国となった。4月20日、行進曲「プラシャーニエ・スラヴャンキ」が流れるなか、東京のロシア大使館からは、8名の外交官、通商代表部職員、およびその家族らを乗せたバスが出発した。M・ガルージン大使は、退去する人々に対して、その献身と仕事に対して感謝の気持ちを表明した。

指摘しておかなければならないのは、日本政府がウクライナに対して、軍事物資を送ることを決めたことだ。ウクライナに対する第一回支援物資には、兵士用防護具、移動式発電機、戦闘食などが含まれていた。第二回支援物資には、大量破壊兵器に対する防護具、さらにはドローンが含まれる。ドローンは、ウクライナ側によって、情報収集や目標指示などの目的で使われうる。2014年に安倍晋三内閣によって承認された「武器移動三原則」は、そのような物資を、戦闘に参加している国に対して提供することを禁止している。そのため日本政府は早急に、三原則の修正を実施せざるを得なくなった。それでも日本政府は、攻撃兵器の提供にはまだ踏み切っていない。日本ではいまだに外交に対する平和主義的アプローチが維持されており、今回のような支援だけでも、例外的で、物議をかもす決定だ。また、Quad諸国のなかで唯一、対ロシア制裁に参加していないインドに対して、日本が圧力をかけようとしたことも注目に値する。岸田文雄首相は3月19日から20日にかけてニューデリーを訪問したが、そのような「しつけ教育」はできなかったようだ。

日本がアメリカ追従の制裁外交を行う一方、アメリカのもう一つの同盟国である韓国の動きは、ワシントンおよびキエフを失望させている。ウクライナ危機の始まりは、ちょうど、韓国では大統領選のクライマックスと重なっていた。与党「共に民主党」のイ・ジェミョン氏と野党「国民の力」のユン・ソギョル氏(元検事総長)との一騎打ちとなり、世論調査でもこの二人はかなりの接戦となっていた。イ・ジェミョン氏は公約のなかで、社会経済問題を重視し、外交においては、アメリカと中国との間のバランス重視を継続する考えを示していた。同氏は、ウクライナでの武力紛争を扇動したとして、ウクライナのウラジーミル・ゼレンスキー大統領を非難する場面も見られた。

ユン・ソギョル氏は反対に、国際問題に重点を置き、ムン・ジェイン大統領の対日政策が行き詰まりを見せていることを批判。ただし、日本に対して宥和的な路線が、すべての党員によって共有されているというわけではない。

ムン・ジェイン大統領は、レームダックになってからも、ウクライナ危機を受けて、ロシアへの輸出および投資が大きな重要性を持つ韓国経済の利益を考えなくてはならない一方で、「欧米の指導的各国のように行動すべきだ」という一部からのSNS上での批判へも対処しなくてはならなかった。韓国の人気ユーチューバーで、元海兵の男性を含む10名以下のグループは、3月末、ウクライナ側で戦闘に参加するために出発した。その後、4月22日、韓国外務省は数名が死亡したとの情報を受けている。韓国政府は、そのような「義勇兵」に対して、勝手な行動に対する刑事追訴を警告している。

現在、都市部を中心に「ウクライナ寄りの機運」がみられるものの、それが反ロシア・ヒステリックを伴っているということはない。韓国にはロシアで学んだ経験もしくは働いた経験を持つ人が多く、ロシアの行動に対しても、もっとも理解が高い層となっている。

対ロシア制裁については、それを韓国が支持するのかどうか、しばらく分からない時期が続いた。韓国がしぶしぶそれを検討し出したのは、韓国からアメリカへの輸出について、アメリカが措置をとると迫ってからだ。韓国が自ら、アメリカへの輸出を規制することにより、アメリカによる制裁を回避しようとしているという情報もあったものの、3月初め、韓国は、アメリカの制裁対象であるロシア企業49社に対する制裁を発表し、ロシアの金融セクターに対する制裁も発表した。一方、韓国の食品メーカーとしてトップ3に数えられる「オリオン」は3月25日、トヴェーリ州で、ロシア国内で三つ目となる工場の稼働を発表。利益が大きいロシア市場を失いたくないとしている。

韓国の大統領選では、ユン・ソギョル氏が3月9日勝利をおさめた。その差は1%以下と、韓国の大統領選挙史上、最も僅差となった。3月28日、日本の大使との会談で、ユン・ソギョル氏は未来志向の関係構築に向けたアプローチを呼びかけた。また、両国関係の改善に向けた感触を探るため、日本に対して代表団を派遣することが明らかとなり、4月24日、チョン・ジンソク国会副議長を団長とする代表団が成田空港の到着。代表団のメンバーには、学者や専門家、元外交官(大使級)らが含まれている。アメリカにはすでにほかの代表団が派遣されており、中国にも同様の代表団が派遣される予定だ。

日韓関係の良い面を非公式な形で象徴する韓国人留学生イ・スヒョンさん(2001年、ホームに落ちた日本人を助けようと命を落とした)のモニュメントでのセレモニーの他、代表団は実業界の代表者ら、政治家らとの会談を予定しており、林芳正外務大臣、安倍晋三元首相、菅義偉前首相らとの会談も予定する。協議の主なテーマとしては、ユン・ソギョル氏の大統領就任式に、日本側が誰を派遣するかに関する調整が焦点となる。儒教国家にとっては、そのような問題(肩書、政治的見解)が大きな意味を持つ。韓国側では岸田文雄首相自身の参加を期待する声もある。2008年のイ・ミョンバク大統領の就任式には福田康夫首相が参加した。今回の五日間の代表団の訪日で、福田康夫氏との面会が実現するかも注目されており、代表団側は、ユン・ソギョル氏からの親書を手渡したい考えだ。

現在、ジョー・バイデン大統領の韓国訪問が準備されており、Quadサミットに参加する5月末の日本訪問前に実施される可能性もある。アメリカ側は、米韓日の三か国による安全保障に関する緊密な協力を実現することで、Quadを補完しようという考えもあり、韓国に新政権が生まれたことで、その実現への期待も高まるだろう。アメリカは冷戦時代から、このような構想を持ってはいるが、歴史問題をめぐる日韓関係の悪化、独島の帰属問題、日本海の名称変更要求などで、構想は実現されていない。チョン・ジンソク団長は、「新しい政権ができたからといって、すぐに韓国と日本との関係を変えることは難しい」と指摘している。

ユン・ソギョル氏の個人的ファクターのほかに、Quad強化のための前提となっているのが、韓国と中国との関係の顕著な悪化だ。この原因の一つは、2017年に韓国にアメリカの対ミサイル防衛システムであるTHAADが配備され、中国からの非難を招いたことがある。また一風変わったこととして、韓国の若者の間では、韓国料理のいくつかの料理の「著作権」を中国が奪おうとしている、という激しい非難が巻き起こっている。また韓国のSNS上では、中国の歴史ドラマにおいて、主人公たちが来ている服装が、韓国文化が大切にしてきた服装であると指摘されている。韓国では、料理にしても、テレビドラマにしても、「ソフトパワー」の一部であり、「戦略兵器」であると考えられているようだ。

 日韓関係において、今回のウクライナ情勢への対応でも、両者の立場が一致しない恐れのある問題が多くある。また議会で多数派を占める「共に民主党」は、アメリカからは距離を置いた政策で知られている。ゼレンスキー大統領が4月11日、オンラインで韓国議会で演説に臨んだ際、議場にいたのは300議席中、約60名に過ぎなかった。ゼレンスキー大統領がウクライナへの韓国製軍事物資の供給を求めたことに対しては、韓国国防省は、日本とは違って、それを拒否し、自国の安全保障への懸念を理由に挙げる。しかし、韓国は十分な武器を保有しており、今回のような立場の背景には一定の判断があると思われる。

By KokusaiSeikatsu

『国際生活』はロシア連邦外務省を発起人とする、国際政治、外交、国家安全保障の問題を取り扱う月刊誌です。創刊号は1922年、『外務人民委員部週報』として出版され、1954年に『国際生活』として、月刊誌として復刊しました。今日、ロシア国内だけでなく、世界各国においても幅広い読者を獲得しています。