ウラジスラフ・グレヴィッチ 国際政治評論家

ウクライナの流血の事件において、ポーランドはそのはじめから当事者である。2014年のキエフにおける政変は、ワルシャワによる資金的・組織的援助によって行われた。アメリカが扇動し続けている緊張の高まりは、ポーランドの国益に適っている。というのも、東欧におけるアングロサクソンの影響力基盤としてのポーランドの意義を高め、ポーランド・リトアニア共和国以来の地政学的計画の実現のチャンスを高めるからだ。(1)

アメリカはポーランドを利用して、ヨーロッパの内的協調の瓦解を目指しており、仏独露による関係改善の道を妨害している。ポーランドは外交的な機動性を発揮して、フランスとロシアの関係が良好な場合にはドイツと接近し、ドイツとロシアとの関係が良好な場合には、フランスと接近する。仏独露の三か国による協調は極めて稀なことではあるが、それが仮に実現した場合には、アメリカが欧州に圧力を加えることで、ポーランドに助太刀を行うことになるだろう。確かに今の地政学的文脈においては、それはあくまでも理論的な可能性にとどまるものではあるが。

現在ポーランド政府が目指しているものは、かつてポーランド・リトアニア共和国の領土であった地域、及び隣接地域における政治的・経済的・イデオロギー的影響力を向上させることである。その基本線は依然として、スカンジナヴィアからルーマニアに至るバルト=黒海ラインである。ウクライナをめぐる状況を、ポーランドは自国の利益に、そしてロシアの国益にダメージを与える形で、ヨーロッパにおける地政学的バランスオブパワーを再編することにより、東欧における覇権国家へ成長しようとしている。

その目標実現のため、ポーランドは欧州政治のカギを握るフランス及びドイツと等しく関係構築を進めるとともに、仏独ほどの影響力を持たないイタリア及びスペインとも、その影響力の強さに合わせて関係を築いていかなくてはならない。それはポーランド一国にとっては手に余るものであり、アメリカからの支援が必要である。これはすなわち、影響力を持った国家としてのポーランドと、アメリカの陰に隠れる影響力のない国家としてのポーランドという二つのポーランドを同時に現出させる。アメリカにとって必要なバランスは、「影響力のあるポーランド」が一定の戦略的課題を自国のリソースを使って実現できるようにする一方で、できるだけ影響力のないポーランドの比率を高めることである。

EU域内における諸国民の考え方は一貫していない。世論調査の結果によれば、フランス人の73%は欧州統合軍の創設を支持している一方で、57%がウクライナをめぐる状況にEUが効果的に対応できていないと考えている。そして61%は、ロシアとの対話を継続するというマクロン大統領の意向を支持しており、44%は、ウクライナ問題への介入によって、EUの国際舞台における立場は弱体化していると考えている。(2) これらの数字は、フランスとポーランドの間にある世界観の違いが深いものであることを示している。ポーランドでは、戦争の責任がNATO及びアメリカにあると考えているのはたった3%であり、ロシアとの友好を望む声はほぼゼロだからだ。

ヨーロッパの地政学的問題について、フランス、イタリア、スペインからの視点と、エストニア及びポーランドからの視点が違っていることは、フランス軍統合参謀総長のティエリー・ビュルカール氏も指摘している。(3) ポーランドからみれば、それはいつでも「ロシアの脅威」であり、ポーランド人はその脅威を事前に察知する特別の才能を「生まれつき」付与されている、と考える。

ヨーロッパがロシアとの関係正常化を口にするたびに、このロシアの脅威という神話が、ポーランドとアメリカによって利用されている。今でも、一部の親米的な欧州の政治家らは、ポーランド人が歴史的に嫌ロシア主義におかされているという批判があるものの、今回のウクライナ紛争の勃発によって、そのポーランド人が正しいことが示されたと主張している。これ以上に原因と結果を取り違えた間違った類推はなかなか思いつくことができない!

ポーランドの大国主義が実現した暁には、ヨーロッパはどのようなことになるのだろうか。ポーランドはヨーロッパの地政学的空間に秩序をもたらし、ヨーロッパの主権を強化することができるのだろうか。その答えは否だ。なぜならば、もしポーランドが大国としての立場を手に入れたのならば、その最初の行動は、国際政治において、欧州の利害を考えることなく、ひたすらにロシアとの関係を悪化させることに注力するだろうからだ。フランス、イタリア、スペインは、ドイツと同様、ロシアとの関係に対して、自国なりの利害を持っている。それらの指導的国家の国益が無視されるようなヨーロッパとは、どのようなことになるのだろうか。これはまったくおかしなことだ。

東欧におけるポーランドの覇権の拡大は、欧州内におけるかつての対立軸を再燃させ、さらなる対立軸を生み出すことになる。ポーランドの影響力拡大というのがどのようなものになるのか、それは「コシチュシュコ・ポロネーゼ」の歌詞からうかがい知ることができる。そこには、「誰がロシア人をポーランド人の兄弟だと言った?私はリヴォフの教会でロシア人の頭を撃ち抜くだろう(Kto powiedział, że Moskale są to bracia nas Lechitów, temu pierwszy w łeb wypalę, przed kościołem Karmelitów)」とある。ロシアとポーランドの善隣関係という考え方自体、ポーランド人にとっては殺人のための十分な口実となるのだ。

これと同じ考え方をポーランド人は今度、ロシア人とウクライナ人との関係にあてはめた。ロシアとウクライナの友好関係というものも、ポーランド人にとってはそれを抑圧するべきものなのだ。ポーランドがキエフ政権に対して大量の武器を供給している背景がここにある。

ゼレンスキー夫妻に対して、ゲドロイツ賞が贈られたことも象徴的だ。(4) イエジ・ゲドロイツは、ユーリー・メロシェフスキーと共に、ULBドクトリンの著者である。このドクトリンは、キエフ、ヴィリニュス、ミンスクが、表向きは独立という名のもとに、実際には完全に西側に従属することでのみ、ポーランドの安全が保障されるとする考え方である。

ゲドロイツとメロシェフスキーは、ウクライナ、ベラルーシ、リトアニア、ロシアという強力なユーラシア連合が誕生することはポーランドにとっては望ましくなく、そこからロシアを排除することによって、残る三か国の影響力を最小限に抑えることができると考えた。その三か国がロシアとの接近を図らないように、ポーランドはそれらの国々の政府を常にコントロールしなくてはならない。ゲドロイツとメロシェフスキーはそのような三カ国を「民主主義的な独立国家」と呼んだが、それは正確ではない表現である。ウクライナとベラルーシがもし、真に民主的で独立した判断を行えるとするならば、何世紀にもわたるロシアとの文化的歴史的つながりから、共通の言語、信仰を持ち、共通の家族を持つロシアとの関係接近を行うのではないだろうか。

それゆえに、常に民族主義的なプロパガンダを行い、嫌ロシア感情を広げなくてはならない。ゲドロイツはそれを実際に行動に移した。『クリトゥーラ』誌上において、ウクライナの民族主義者らの記事を発表する一方で、ウクライナ民族主義への批判は徹底的に弾圧した。ウクライナファシズムの提唱者であるドミトロ・ドンツォフ、っしてガリチナ師団のイデオローグであるウラジーミル・クビオヴィチと親交を持った。

民主主義と人権の擁護が、いかにして民族主義と民族間の対立の扇動と両立しうるのだろうか。ゲドロイツとメロシェフスキーはそれには沈黙を守る。ゲドロイツはあくまでも自らの考えが主権国家としてのウクライナの創出にあるとしているが、その目的も隠してはいない。その目的とは、ウクライナとロシアをお互いに反目させることにある。つまり、ロシアにもウクライナにも、ポーランドの国益にならないことはさせないという考えなのだ。

ウクライナにおいて、自国民に対して暴力を行使する民族主義的ネオナチ政権ができたことは、ポーランドの覇権主義が依拠する地政学的理論の現れなのだ。ゼレンスキー夫妻にゲドロイツ賞が贈られたことは、その証左でもある。

ポーランドの影響力拡大は、ヨーロッパに平和をもたらさない。ポーランドは独裁的イデオロギーと民族主義者らの手を借りて、自らの計画を実現しようとしている。ビュルカール大将は正しい。ヨーロッパの他の国が考える未来は、ポーランドの考える未来とは異なっている。


筆者の意見は編集部の意見を反映したものではありません。

1) https://inosmi.ru/20221218/polsha-258940121.html

2) https://www.radiofrance.fr/franceinter/73-des-francais-favorables-a-une-armee-de-defense-europeenne-dix-points-de-plus-qu-il-y-a-sept-mois-7404012

3) http://www.opex360.com/2022/12/17/le-general-burkhard-tord-le-cou-a-lidee-dune-armee-europeenne/

4) https://www.rp.pl/polityka/art37635111-wolodymyr-i-olena-zelenscy-laureatami-nagrody-im-jerzego-giedroycia

https://interaffairs.ru/news/show/38317

By KokusaiSeikatsu

『国際生活』はロシア連邦外務省を発起人とする、国際政治、外交、国家安全保障の問題を取り扱う月刊誌です。創刊号は1922年、『外務人民委員部週報』として出版され、1954年に『国際生活』として、月刊誌として復刊しました。今日、ロシア国内だけでなく、世界各国においても幅広い読者を獲得しています。