キラ・サゾノワ

長い家路:旧植民地の文化財の返還、重要な政治潮流として

キラ・サゾノワ ロシア大統領府付属ロシア国民経済国家公務アカデミー国家公務行政研究所准教授、政治学博士、法学博士 (翻訳:安本浩祥)


植民地時代の大きな影響は、歴史や地理、国際体制のみならず、地球上における文化財の配置にも及んでいる。植民地への拡大は、西欧を中心にして世界各地に広がったわけであるから、ヨーロッパ各国の大美術館が現在保有しているコレクションが、世界各地から持ち込まれた文化財によって充実していることは当然のことだ。


イギリスのデイヴィッド・キャメロン首相が2010年にインドを訪問した時、世界最大のダイヤモンド「コ・イ・ヌール」をインドに返還するのかどうかとの質問を受けた。首相は、そのようなことになればいつか、「大英博物館が空っぽになってしまったことに気がつくでしょう」[1]と答えている。植民地支配を受けた領土のなかでも、特に大きな被害を受けたのがアフリカである。専門家らは様々な数字を出しているが、おおよそ、アフリカの文化財の80%から90%がアフリカ大陸の外にあると試算されている[2]。

西欧の美術館コレクションから文化財を植民地に対して返還することは、かなり長い間問題になっている。1960年代、植民地体制が最終的に崩壊したときに、旧植民地は旧宗主国に対して返還要求を行っているが、当時は何の成果ももたらさなかった。長い間、西欧諸国の一致した意見は、旧植民地は植民地支配から解放されたこと、さらには国際体制に正式な参加者として迎えられたことに対して感謝するべきである、というものだった。旧宗主国が何か他の物質的な義務を負っているとか、何百年も前に西欧の美術館に世界各地から持ち出されてきた大量の文化財を返還すべきだとか、そういった話は一切聞かれなかった。

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「植民地芸術」の返還問題におけるパラダイム転換

数十万点にもおよぶ芸術品をかつての植民地に返還することについて真剣に検討されはじめたこと、それが単なる仮説的な可能性にとどまらないことについては、いくつかの原因が挙げられる。

第一に、旧宗主国と旧植民地の双方において、植民地時代についての社会的評価が世界的に見直されていることがある。西欧においては、かつての「白人の責務」といったものや、かつての植民地に対する横柄で庇護的な態度といったものの代わりに、最近では、現代の権利パラダイムの主要な価値観を破壊してしまう植民地主義のおそろしい罪について、公然と反省を表明する必要性が叫ばれ始めている。

ここでキーワードになるのが、「現代の」という言葉だ。植民地時代がひどいものに見えるというのは、現代の人権的見地から見たものであって、現代人にとっておぞましく許せないような出来事の多くは、植民地システムが機能していた当時においては、きわめて日常的で当たり前のことであった。例えばベルギーにおいては、王立中央アフリカ博物館が、5年間の改装を経て2018年にオープンした。この博物館は1897年に、レオポルド2世国王の個人コレクションの展示のために建てられ、その多くはコンゴから持ち出されたものであった。最も有名な展示物の一つであったのが、いわいる「人間動物園」であり、200人以上のコンゴ人が収容され、展示品として展示された。訪問者たちはお金やバナナを彼らに与えた。現在ふたたびオープンした博物館では、新しい説明のためのパネルが設置され、ベルギーの植民地経営の歴史を激しく非難する内容となっている。

そのほか、かつての植民地の人々の自己意識というものにも変化が見られ、「20世紀の終わりにかけて、アフリカ国家の指導者たちは、世界のパワーバランスが変化しはじめたことを理解し、自分たちが旧植民地出身者であるということを意識しなくなった」のである[3]。また、芸術品を返還する必要性を主張する根拠として、それらの芸術品が宗教的性格をもつものであり、神聖な意味を持っていることが挙げられる[4]。例えば、大英博物館所蔵のイースター島のモアイ像やスリランカのタラ像がそれにあたる。

第二に、文化遺産に関する法律や協定には、遡及力がないことがある。つまり、実際に返還の対象となるのは最近50年から70年間に起こったことについてであり、植民地時代に全世界からヨーロッパに持ち出されてきたものについては、世界史のあまりにも広大な範囲が対象となるため、沈黙するほうが好まれたのである。

そのほか、現在行われている文化財の管理に関する国際的な法基盤は、お世辞にも完璧なものだとは言い難い。例えば、1970年にユネスコが採択した、文化財の不法な輸出、輸入及び所有権譲渡の禁止及び防止に関する条約は、不法に国外に持ち出された文化財を返還することを義務付けているが、植民地時代に起こったような歴史的事件については規定していない。私法統一国際協会が1995年に採択した、盗取された又は不法に輸出された文化財に関する条約は、「植民地芸術」の返還に関する問題を解決するための中心的メカニズムになることが期待されたが、かつての宗主国の多くがその条約に参加していない。

2007年の先住民族の権利に関する国際連合宣言には、先住民族の「自由かつ意識的な事前承認なく、またはその法律、伝統、習慣に反して」奪われた「文化的、知的、宗教的、精神的文化財」[5]を返還するよう強く求める条文が盛り込まれてはいるものの、この宣言は努力規定を定めるものにとどまっている。2018年12月13日、国連総会はギリシャのイニシアティブにより、決議第73/160「文化財の原保有国への返還または回復」を採択したが、この条文も、国際法的には罰則規定のないものとなっている。

以上のように、旧宗主国への有効な法的働きかけのメカニズムは事実上欠如している。しかし、いわいる旧宗主国による「善意の返還」の枠内でも、返還は可能だ。1980年代には、一部の専門家たちが善意による返還を求めたが、大きな反響は得られず、挑発的にさえ見られた。「我々の博物館や美術館が所蔵している文化財が、直接的もしくは間接的に植民地システムによって獲得されたものであり、現在返還が要求されているのならば、安易な議論や詭弁によってその返還が先延ばしされるようなことはあってはならない」[6]。それから30年たってようやく、文化財の善意による返還というものが、国家の国際的責任を果たすうえで最重要の潮流となりつつある。

第三に、いままで植民地から持ち出された来た文化財の芸術的評価や価格的評価というものは、長らく西欧的なものの見方、つまり芸術をより完全なるものとして評価する価値観に基づいたものだった。しかし最近になって、芸術専門家や蒐集家たちの間では、いわいる「非ヨーロッパ芸術」と呼ばれるような、アフリカ、オーストラリア、オセアニア、ラテンアメリカの原住民の伝統に基づいた文化財への関心が高まっており、一種のブームともなっている。例えば、2020年春には、「サザビーズ」のオークションではアフリカ芸術への関心が記録的に高まり、当然それは価格の高騰にもつながっている[7]。

第四に、ある国がかつての植民地の文化遺産を返還するという決定をする場合、その国の政治的指導者の個人的な要因が大きな意味を持つということがある。例えば、返還に関してフランス政府は長い間、アフリカ起源の文化財はフランス国家財産の欠くべからざる部分であるとの立場を一貫して貫いてきた。

例えば、いまのベナンにあったダホメ王国の首都であるアボメイにあった宮殿から持ち出された様々な像や王笏、扉など一連の芸術品について、2016年にベナンがフランスに対して返還を求めた。オランド大統領はその要求を頑としてはねつけた。一方、マクロン大統領は、フランスの植民地時代の歴史を非常に否定的に考えていたため、ベナンの20以上に上る芸術品の返還要求に応じたのみならず、2021年までにそれを実行するとまで約束したのである。

第五に、旧植民地の文化遺産、それは他方「戦利品芸術」でもあるわけだが、国際法上の位置づけと、政治的な議論のなかでの位置づけが、長い間大きく乖離していた。それは、20世紀後半の西欧での政治的および法的立場において、「植民地主義」と「戦争」という概念に対するアプローチに違いが見られたことによって説明できる。1945年の国連憲章の採択以来、戦争は法的には許されない行為となったため、戦争の際に不法に奪われた所有物である「戦利品芸術」についても同様に、許容できないとの考え方がなされた。

その一方で、植民地主義については、1960年の国連総会において「民族を外国のくびきおよび支配におくこと、さらにそれを搾取することは、基本的人権の否定であり、国連憲章に反し、世界における協力の発展と平和の確立を妨げるものである」[8]とされたにもかかわらず、長い間、戦争に比べてかなり中立的な評価がなされ、世界史の過程の中での一段階に過ぎないという見方が強かった。また、戦後の原状回復は、文化遺産も含めて、賠償的性格を帯びており、裁判所や法廷による決定によるものとされた。かつての植民地に対する文化財の返還は、善意によるものであることが強調され、裁判所の強制力とは関係のないものとされた。

旧植民地への贖いとしての「善意による返還」

「芸術の非植民地化」ともいうべきプロセスは、かつての宗主国、つまりイギリス、フランス、ドイツ、オランダ、ベルギー、ポルトガル、スペインといった国々の国益に直接影響を与える。なかでも最も強弁な立場をとっているのがスペインとポルトガルで、自らの植民地自体の過去を歴史の恥ずべき一頁と考えることを拒否している。そのため、かつての植民地に文化財を返却するつもりもない。返還に最もオープンなのは、オランダ、ドイツ、フランスである。イギリスは、その植民地拡大が大規模であったことから、文化財の返還要求の数も最も多く、かなり複雑な立場に置かれている。

オランダ 植民地時代の文化財の「善意による返還」にいち早く応じた国として、オランダが挙げられる。アムステルダム、ライデン、ネイメーヘンの三つの民族学博物館を統合する国立世界文化博物館は2019年、文化財の返還のための指導原則を採択した[9]。その最も重要な点は、かつての植民地からの要求を受け付ける手続きを定めたことで、要求があれば、文化大臣による承認を経て、長くても1年以内に返還されることになっている。国立世界文化博物館のスホーンデルヴィルト館長は、「コレクションの一部が、権力の不公正と格差の時代であった植民地時代に獲得されたということを知っています。今日、国際的協定に則って、シリアで盗難された物品をコレクションに加えないというのであれば、同じ原則を、どうして100年前の盗難物に適用してはならないのでしょうか」[10]と話している。

2020年初め、オランダは初めて、かつての植民地であったインドネシアに1,500の展示品を返還した。その一部は紀元前5000年にまでさかのぼるもので、コレクションの評価額は100万ユーロ以上といわれた[11]。

ドイツ もう一つ、植民地時代に獲得した芸術品の「善意による返還」を積極的に行っている国として、ドイツが挙げられる。2019年、ドイツ政府は190万ユーロのプログラムを承認し、国立博物館に所蔵されている植民地時代の芸術品について、その原保有国を調査することを命じた。資金の管理は2015年に設立された「失われた芸術財団(Lost Art Foundation」が行う。その財団の基本的使命は当初、ナチズム時代に行方不明になった芸術品を探索することであった。ドイツの文化大臣は、「長年にわたって、ドイツの植民地政策の歴史は、我々の記憶の文化における『盲点』であった」[12]と指摘している。

実際その指摘は当たっている。ドイツの植民地政策についての話が一般的な議論のなかで触れられることは稀である。基本的に、社会的な批判はナチズム時代に犯した犯罪に集中するのである。ハンブルグ大学のジマレル教授は、ドイツ植民地政策の歴史に関する指導的な専門家の一人であるが、「多くの人は、ドイツが植民地を経営していたことについて、かなりあやふやな知識しか持ち合わせていません。彼らは、ドイツ植民地主義がいかに酷いものであったかを知らないのです」[13]と指摘している。

最近になって文化財返還についての緊密な協力が進んでいるのが、ドイツとナミビアの間での協力である。現在はナミビアとなっている地域で起こったヘレロ・ナマクア虐殺についてのドイツの責任問題が取り上げられることが多くなった。2011年からドイツは、国内の博物館や病院に保管されていたヘレロ族およびナマクア族の人々の遺骨を返還するための手続を行っている。

公式の謝罪と遺骨の返還のほかに、シュトゥットガルト博物館は、19世紀末から20世紀にかけてのドイツ植民地当局に対する闘争の指導者のひとりであり、ナミビアの英雄であるヘンドリック・ヴィトボイのものであったとされる聖書と鞭を、ナミビアに返還した。この聖書と鞭は、1893年、ドイツ植民地軍の攻撃の際に奪い取られたもので、1902年、シュトゥットガルトのリンデン博物館に寄贈された。ナミビア政府は再三にわたって、それらの返還を求めていた。この出来事は、ドイツが植民地時代に奪った文化財を返還した最初の例となった。

バーデンヴュルテンベルグ州政府(州都シュトゥットガルト)の文化大臣は、「国家が自らの植民地主義の過去に正面から向きあうもの」[14]であり、この返還は重要な一歩であると指摘した。文化財の返還のほか、ドイツ側はナミビアの研究機関や博物館などとの共同プロジェクトのために120万ユーロを拠出することを決めた。

さらに注目すべきなのが、ドイツが植民地時代の文化財を返還したという行為について、ナミビア国内では世論が二分されているということだ。ナミビア政府としては、返還された聖書と鞭について、ヴィトボイの故郷での記念館建設が完了するまで、国の施設において展示したいと考えている。その一方で、ナマクア族の人々は、聖書と鞭はヴィトボイの子孫たちの所有物であって、全国民の共通遺産ではないと考えている。ナマクア族長連盟(NTLA)は、この返還行為を止めさせるための訴訟まで起こしたが、シュトゥットガルト裁判所は、ナミビア国内の意見の対立に対してドイツは責任を負うことは出来ない、と結論付けた[15]。

2019年、ドイツは「石の十字架」として知られる15世紀の文化財をナミビアに返すことを決めた。この石の十字架は、1498年にナミビアの海岸に建てられ、3.5メートルの高さをもつ。記者会見では再び、ドイツによる「自らの植民地政策の過去の反省」ということが言われた[16]。さらに同じ年には、「タンザニアとドイツ、共通の文化財の歴史」と題したプロジェクトが始動し、植民地時代に国外に持ち出された文化財の由来を共同で調査するための準備作業が始まった。

このように前例が出来たことによって、連鎖反応がおこるというのが当然予想されることであって、同じようにドイツの植民地であったカメルーンとトーゴからも、近いうちに同じような要求がなされると思われる。

フランス エマニュエル・マクロン大統領が就任早々にアルジェリアを公式訪問した際、植民地化は「人類に対する罪である」と宣言した[17]。その一年後、マクロン大統領は、アフリカの国々に対して本格的に文化財を返還する用意があることを発表、「今日から5年以内の間に、アフリカの文化遺産を一時的に、もしくは永久的に、アフリカに返すための諸条件を整備することを呼び掛ける」と宣言した[18]。

2018年11月、アフリカ諸国に対する文化財の返還の必要性に関する特別報告がマクロン大統領に提出された[19]。専門家の試算によれば、1885年から1960年の間に、サハラ以南のアフリカ諸国からフランスに持ち出され、現在フランスに保管されている芸術品の数は、9万点を下らないという。報告書のなかでは、現在国有財産とされているそれらアフリカの文化遺産に関するフランスの政策を抜本的に変更することが提言されている。その際、ある芸術品が合意なく持ち出されたのであるならば、二国間での合意を締結する事によって、その原保有国に対して返還しなくてはならないという。この報告書が発表されてから、コートジボワールとセネガルが、植民地時代に持ち出された文化財の返還を求める意向を明らかにしている[20]。

「サール=サヴォイ報告」として知られているこの報告書は、「植民地芸術」の返還について、三段階での詳細な計画が提案されている。第一段階は、すでに特定のアフリカの国から再三にわたって長期にその返還が要求されてきた文化財の返還についてである。第二段階は、2019年春から2022年11月にかけての期間で、植民地由来の芸術品をリストアップするために、フランス各地の博物館および保管庫において全面的な所蔵品の目録化を進めることである。最終の第三段階においては、アフリカの国々がその返還について要求できるようにする。報告書で特に強調されているのは、この計画実施において特に期間の制限を設けないということだ。「アフリカからフランスへの文化遺産の移動は長期間にわたって行われたものであるから、その返還にかかる期間についても、時間の制限を設けるべきではない」[21]というわけだ。

指摘しておくべきは、善意による返還行為であったにせよ、一定の法的な障壁にぶつかるということである。マクロン大統領によって示された方向性の実現のためには、アフリカ由来の芸術品について、フランスの国有財産目録から除外することができるよう、フランス議会が特別の法律を制定することが不可欠である。

例えば、2019年、フランスはセネガルに対して、1850年代の反フランス解放闘争のムスリム指導者であったオマル・サイード・タルの剣を返還したことが、メディアによって広く報道された[22]。しかし、法的な観点からしてみれば、それは完全なる返還とはいいがたい。剣は従来通りパリ美術館の所蔵品であり、セネガルに対しては5年間の期限付きで預けられたにすぎないからだ。その状況を変えるためには、すでに述べたような法律の整備が必要とされている。

英国 最も大きな植民地帝国であったことから、大英帝国は世界から持ってこられた芸術品の数において世界でも最大の数を所蔵している。世界最古の公共博物館である大英博物館一つをとってみても、国外からの所蔵品は800万点におよび、その大部分が植民地時代に獲得されたものとなっている。

大英博物館に対しては、さまざまな文化遺産の原保有国から、その返還についての要求が頻繁に寄せられており、特に最近5年間ではその傾向はますます強いものとなっている。例えば、オーストラリア先住民の文化的展示物については6,000点以上を所蔵しており、オーストラリア国外では、その先住民の文化財コレクションとして最大のものだ。

2016年、オーストラリアの先住民権利擁護活動家であるロドニー・ケリーは、1770年にジェームズ・クック船長が初めて先住民と遭遇した際に奪ったという「グウィーガルの盾」を、その正当な子孫に返還するよう求めて、大英博物館で抗議活動を行った。2018年には、イースター島の首長が大英博物館に対して、イギリス人が1868年に持ち帰ったモアイ像を返還する求めている。首長によれば、それは重要で神聖なる意味を持った像だという[23]。

注目すべきなのは、いままでこのような要求が大英博物館に対してなされたところで、1962年の大英博物館法によって、大英博物館は自らその所蔵品について帰属を判断することが禁止されているため、失敗に終わるのが関の山であったという点だ。所蔵品の返還についてのいかなる判断であれ、まずはイギリス政府と調整することが必要なのである。

大英博物館のみならず、イギリス各地のの主要博物館はいままでに再三にわたって、旧植民地から文化財の返還要求を受けている。2008年、エチオピア大統領はイギリスに対して、イギリス軍が1868年に持ち帰った、エチオピア歴代国王の黄金の冠など「マグダラコレクション」と呼ばれている400点以上の芸術品の返還を求めた。イギリス側はその要請に対して何の反応も示さなかったばかりか、その10年後、ビクトリア&アルバート美術館は、エチオピアの秘宝の展覧会を企画・実施し、エチオピアからは当然のごとく怒りを招いたのである。館長はエチオピアに対して、所蔵品を一定期間貸し出すことを申し出たが、その提案は拒絶されている。エチオピア政府は、「あなた方が自らの文化財だとおっしゃっているものは、私たちの文化遺産であるのです」と声明し[24]、完全なる返還のための手続きを開始するよう求めている。

スリランカも同様に、イギリスが植民地時代に不法に持ち去った3,000点以上の芸術品が返還されていないままだとしており、その中には、「像、硬貨、象牙、装飾品、家具、箱、武器、楽器、玩具、絵画、面、手稿、織物」が含まれているという[25]。

イギリスの法制度の特徴により、返還をめぐる問題に最も大きな進展が見られるのは、博物館に対して要求するのみならず、直接イギリス政府に対して返還要求を行った場合である。その例として最も広く知られているのが、「ベニン・ブロンズ」と呼ばれるコレクションをめぐる論争である。現在のニジェールにあったベニン王国は、銅、青銅、象牙が豊富にあることで知られていたが、1897年、イギリス軍による攻撃を受け、約4,000点近い芸術品が国外に持ち出されたとされる。その大部分は現在、イギリス、アメリカ、ドイツの各博物館に所蔵される。2010年、イギリス、ドイツ、オランダ、オーストリア、スイス、ニジェール、ベニンの各国代表者らが参加した「Benin Dialogue Group」が立ち上がった。2023年にはニジェールのベニン・シティにおいて、ヨーロッパの10の博物館がそれぞれの所蔵する「ベニン・ブロンズ」コレクションを持ち寄って新しい博物館をつくる計画が進んでいる。それは3年の期限付きで提供されるものだが、その期間は延長できるものとされる。

2020年秋、イギリスのインスティテュート・オブ・アート・アンド・ローは、かつての植民地からの文化遺産の返還要求の結果予想される倫理的および法的諸問題について、イギリスの博物館、美術館向けに新しいガイドラインを発表する予定になっている。その一方で専門家らは、このガイドラインは「いままでの政府方針の変更を意味するものではなく、個々の返還事案はあくまでも個別に検討されるべきものだ」と指摘している[26]。全体としてイギリスは、旧植民地への文化財の返還問題において、いまだに保守的な立場をとっているといえるが、この分野における新しい動向に対応せざるを得なくなっている部分もある。

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沈没船の財宝をめぐる問題、旧植民地と旧宗主国との間の論争

文化財の返還という話題になれば、もう一つ重要な問題として挙げられるのが、数百年前に金銀財宝を輸送していた沈没船がいまはどの国の所有物なのかという問題だ。それらフリゲート船の積載貨物の価値は、その歴史的価値と合わせて、数十億ドルと見積もられている。

船舶の所有権とその貨物の所有権については、別個の問題として考えなくてはならない。現代の多くの国家は数世紀前には、スペイン、フランス、イギリスといった帝国に植民地として属していたわけで、果たして今日、独立国家としての立場で、沈没船から発見されたものに対する所有権を主張できるのかどうか、という問題が生まれる。「何世紀も経った後で、植民地は政治的独立を獲得し、それによって、いまになって発見された船の貨物の所有権について、当時沈没した時点における法制度に基づいて判断すべきものなのか、もしくは現在独立国家となった国の所有の下にあると考えるべきなのか、ということが問題になる。特にその沈没船の貨物が文化的もしくは芸術的価値を持っているものであるならば、この問題をどう解決するかは重要な問題となる」[27]。もちろんこれは、金銭的な問題のみならず、かつて植民地であった国々が、独立した主権国家としての立場を確立したいという思いをめぐる問題でもある。

海底には数万隻の沈没船があるが、法的な問題を引き起こしているケースのほとんどが、スペイン船についてのものである。「スペイン帝国は植民地時代、アンドおよびシエラ・マドレの金山銀山からの財宝を輸送していた軍艦約1,500隻を失った」[28]といわれている。

2007年、アメリカの民間企業であるオデッセイ・マリン・エクスプロレーション社は、公海上で、1804年に沈没したスペイン船「Nuestra Senora de las Mercedes」を発見した。その船では金貨と銀貨が積載されていたが、その貨物への所有権をめぐって問題が発生した。スペイン政府とアメリカの民間企業のほかに、アメリカの裁判所に訴えを出したのはペルー政府だった。というのも、数世紀前、硬貨が鋳造された場所が、まさにペルーだったという理由だ。

一般的な国際法に従えば、公海上で発見された船に対する権利は、最初にそれを発見した者が取得する。例外は軍艦で、軍艦の場合には地球のどこにあっても治外法権が適用されるからである。結果的に、フロリダ州裁判所はスペイン政府の主張を認め、2013年に硬貨が引き渡された。ペルー政府の訴えについて裁判所は、ペルーは当該船舶の沈没時点においてはスペイン帝国の一部であり、自ら硬貨の所有権を主張することはできない、と判断した。

いずれにせよ、ペルー政府の主張は、きわめて興味深い議論を巻き起こした。つまり、硬貨は植民地時代の搾取によって持ち出されたものであるから、「船籍」ではなく「原産国」に基づいて、貨物は返還されるべきだという議論である。海洋法の専門家であるムーア教授は、今回のスペイン政府の主張は、船舶が一度もスペイン領にいたことがない、ということから認められるものではないと指摘し、ペルー政府の主張を擁護している[29]。

さらにペルー側は、「スペインは『スペイン』という言葉を、あたかも1804年と現在で同じ意味を持っているかのように使用している…財宝が失われたとき、ペルーとその市民たちは『スペイン人』であったというが、財宝を『スペインのもの』と主張することは、スペイン帝国は今となってはアメリカ大陸にその支配を及ぼしていないという事実を無視したものである。ペルーはいまや独立した主権国家であり、ペルー領土内で作られた財宝についてはスペインよりも多くの権利を有している(しかもペルー人の強制労働によるものである)」[30]。このように、現代の法的および政治的なプリズムを通して、何世紀も前の問題を考えるという傾向が指摘できるのだ。

また、公海上ではなく領海内で発見された場合においても問題が生じうる。例えば、スペインのガレオン船「サン・ホセ」号は、2015年にアメリカの団体である「ウッズ・ホール・オーシャングラフィック・インスティテューション」によってコロンビア沿岸で発見された。この船は300年前に、スペインの植民地から金と財宝を輸送中、イギリスによって沈められたものだ。専門家の意見によれば、「サン・ホセ」号には、「人類史上最も価値の高い沈没船」と呼ばれるほどの財宝が積まれていた[31]。コロンビア側は、この財宝が自分たちの民族的遺産であると主張した。一方でスペイン側は、この船の所有者であるがゆえに、その貨物についても所有権を有していると主張した。

残念ながら、2001年の海中文化遺産の保護に関するユネスコ憲章では、水没した都市や風景、100年以上沈んだままとなっている沈没船に関しては規定されているが、以上に触れたような論争に関しては、平和的手段で解決すべきであるということ以外、何の直接的言及もなされていない。

「芸術品の脱植民地化」:政治的および法的な問題点

植民地時代の文化財の返還をめぐる国際法上および政治上の重要な側面を挙げるとすれば、以下の点が指摘できる。

第一に、情報のグローバリゼーションによって、マスコミの報道した前例が、全世界の一貫したトレンドの火付け役となりうる状況が生まれている。文化財の善意による返還は、不可避的に、「長くくすぶっている問題」にも目を向けさせることになる。例えば、エジプトのロゼッタストーンの返還要求であったり、ギリシャの「エルギン・マーブル」の返還要求であったり、植民地時代とは関係のない問題にまで、それを煽り立てるようなことになってしまう。それはまた必ずしも古い問題だけでなく、きわめて最近の出来事にまで注目を集める可能性も秘めている。例えばウズベキスタンはすでに、海外からの文化財の回収計画を発表している[32]。2017年、ウズベキスタンの文化財でありながら海外に所蔵されている文化財について研究する特別のセンターが設立された[33]。

第二に、文化財の返還にあたっては、旧宗主国側において特別の法律を成立させる必要がある。そのためには、国内世論のみならず、エスタブリッシュメント内においても、幅広いコンセンサスを準備する必要がある。さらに、個人のコレクションとして所蔵されている植民地文化財については、また別の問題として扱わなくてはならない。もしもいくつかの国において、政府レベルで自主的返還を促すような特別法が成立すれば、コレクターたちは自らの所蔵品を没収されないように海外へと持ち出すことも考えられる。

第三に、植民地時代に持ち出された芸術品が、そのまますべて、不法に持ち出されたものであると決めつけることは、常識的に考えておかしなことだ。しかしいまの潮流の中では、まさにそのような考え方がされている。しかし、「植民地芸術」一つ一つをめぐる歴史は、それぞれに固有のものだ。例えば、イギリスとインド、パキスタンは、エリザベス二世の王冠に飾られている「コ・イ・ヌール」ダイヤモンドの所有権をめぐって、長い間議論を重ねている。1976年、イギリスは、イギリスとシーク人との和平条約の条文を理由にダイヤモンドの返還要求を拒絶した。2016年、インド最高裁判所は、イギリスがこのダイヤモンドを合法的に所有していることを認めた。それによれば、ダイヤモンドは窃盗や強制によることなく、シーク人に対する軍事援助に感謝するものとして、ランジット・シンによって、19世紀にイギリスに対して贈与されたものなのだ。

第四に、博物館・美術館のグローバルな使命は、唯一無二の芸術品を保全し、すべての人々が鑑賞できるようにすることである。旧植民地の文化と芸術の普及という観点から問題を考えてみれば、世界的に有名な博物館に所蔵されていることは、より大きな可能性を開くものといえる。もちろん、「芸術の脱植民地化」を支持する人々は、文化財がその原保有国にあってこそ「歴史を感じ、『一体感』を感じ、偉大な歴史への誇りを感じさせるものだ」と主張するだろう[35]。そのため、旧植民地による返還運動の動機というのも、十分に理解できるものだ。

第五に、植民地時代の文化財をその歴史的な故郷に返還することによって、多くの法的な問題が生まれる。なぜならば、そもそもそれら文化財は、いまでは存在していない国家から持ち出されたものであり、その法的継承権が問題になるからだ。さらに、現在政治的安定が保障されていない国家に返還することによって、所蔵品が適正に保全されるかどうかという懸念もある。

いずれにせよ、今年は、旧植民地による返還要求をめぐる問題について、多国間または二国間での話し合いを再開するために、非常によい歴史的タイミングである。2020年5月25日のミネアポリスでの事件をきっかけに欧米を包み込んだ「Black Lives Matter」運動は、植民地主義や奴隷貿易に直接関与してきた国々が、自らの反省を内外に示すのに最適な情報環境を提供している。また我々は今、「新しい倫理観」という現象の目撃者でもある。それは、植民地時代に持ち出された文化財を保有し、展示するという行為が、ネオコロニアリズム(新植民地主義)の表れであるという考え方、さらには、植民地主義自体が、その不法性において、戦争と同様であり、人権と自由の明白な侵害にあたるという考え方である。

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1David Cameron refuses to return Koh i Noor diamond to India // The Telegraph. 29 June 2010 // URL: https://www.telegraph.co.uk/news/politics/david-cameron/7915424/David-Cameron-refuses-to-return-Koh-i-Noor-diamond-to-India.html

2«Ненормально, что 80% африканского искусства находится в Европе» // Коммерсантъ. 05.12.2018 // URL: https://www.kommersant.ru/doc/3819627?from=doc_vrez

3Гончаров В. Франция и Африка: вчера и сегодня. 30.09.2019 // Сайт журнала «Международная жизнь» // URL: https://interaffairs.ru/news/show/23966

4Bailey J., Ogbechie S. How to bring Africa’s artifacts back home from Europe’s museums // Quartz Africa.15 June 2020 // URL: https://qz.com/africa/1868754/how-to-bring-africas-artifacts-back-home-from-europes-museums/

5Декларация Организации Объединенных Наций о правах коренных народов. Принята резолюцией 61/295 Генеральной Ассамблеи от 13 сентября 2007 г. // URL: https://www.un.org/ru/documents/decl_conv/declarations/indigenous_rights.shtml

6Paczensky G., Ganslmayr H. Nofretete will nach Hause, C.Bertelsmann, München, 1984. P. 185.

7Kimeria C. Sotheby’s has had its biggest jump in bidders for African art, thanks to a stay home lockdown. 3 April 2020 // Quartz Africa // URL: https://qz.com/africa/1831786/sothebys-african-art-bidding-sees-a-big-jump-in-bids-sales/

8Декларация о предоставлении независимости колониальным странам и народам. Принята резолюцией 1514 (XV) Генеральной Ассамблеи от 14 декабря 1960 г. // URL: https://www.un.org/ru/documents/decl_conv/declarations/colonial.shtml

9Return of Cultural Objects: Principles and Process Nationaal Museum van Wereldculturen. 2019 // URL: https://www.volkenkunde.nl/sites/default/files/2019-05/Claims%20for%20Return%20of%20Cultural%20Objects%20NMVW%20Principles%20and%20Process.pdf

10Цит. по: Hickley C. Dutch museums take initiative to repatriate colonial-era artefacts //The Art Newspaper. 14 March 2019 // URL: https://www.theartnewspaper.com/news/dutch-museums-take-initiative-to-repatriate-colonial-era-artefacts

11Dafoe T. For the First Time in Its History, the Netherlands Is Returning an Enormous Trove of Artifacts to Its Former Colonial Territory of Indonesia // Artnet News. 8 January 2020 // URL: https://news.artnet.com/art-world/netherlands-returns-indonesia-artifacts-1748376

12Press Release «Confronting colonial history – the German Lost Art Foundation launches a new funding programme». The Federal Government Commissioner for Culture and the Media. 04.02.2019 // URL: https://www.bundesregierung.de/breg-de/impressum/confronting-colonial-history-the-german-lost-art-foundation-launches-a-new-funding-programme-1588408

13Цит. по: After Namibia, could other former German colonies demand reparations? // Deutsche Welle. 02.08.2017 // URL: https://www.dw.com/en/after-namibia-could-other-former-german-colonies-demand-reparations/a-39924695

14Namibia: Dispute over return of the Witbooi Bible // Deutsche Welle. 27.02.2019 // URL: https://www.dw.com/en/namibia-dispute-over-return-of-the-witbooi-bible/a-47712784

15VerfGH Baden-Württemberg: Rückgabe der Witbooi-Bibel und -Peitsche nicht an Volksgruppe der Nama zu VerfGH BW, Beschluss vom 21.02.2019 – 1 VB 14/19 // URL: https://rsw.beck.de/aktuell/meldung/verfgh-baden-wuerttemberg-nama-vertretung-muss-rueckgabe-der-witbooi-bibel-und–peitsche-an-namibia-hinnehmen

16Adebayo B. Germany to return 500-year-old monument to Namibia // CNN. 17 May 2019 // URL: https://edition.cnn.com/2019/05/17/africa/germany-to-return-namibia-art-scli-intl/index.html

17En Algérie Macron qualifie la colonisation de «crime contre l’humanité», tollé à droite // Le Monde. 15 février 2017 // URL: https://www.lemonde.fr/election-presidentielle-2017/article/2017/02/15/macron-qualifie-la-colonisation-de-crime-contre-l-humanite-tolle-a-droite-et-au-front-national_5080331_4854003.html

18Speech made by the President of the French Republic Emmanuel Macron at the Université Ouaga. 28 November 2017 // URL: https://www.elysee.fr/emmanuel-macron/2017/11/28/emmanuel-macrons-speech-at-the-university-of-ouagadougou.en

19Sarr F., Savoy B. The Restitution of African Cultural Heritage. Toward a New Relational Ethics. 2018 // URL:http://restitutionreport2018.com/sarr_savoy_en.pdf

20La Côte-d’Ivoire réclame 148 objets spoliés à la France // Liberation. 20 décembre 2018 // URL: https://www.liberation.fr/planete/2018/12/20/la-cote-d-ivoire-reclame-148-objets-spolies-a-la-france_1699066

21Sarr F., Savoy B. The Restitution of African Cultural Heritage. Toward a New Relational Ethics. 2018 // URL: http://restitutionreport2018.com/sarr_savoy_en.pdf

22Salaudeen A. France returns historical sword stolen in the 19th century back to Senegal // CNN. 18 November 2019 // URL:https://edition.cnn.com/2019/11/18/africa/france-returns-stolen-sword-to-senegal/index.html

23Easter Island governor begs British Museum to return Moai: «You have our soul» // The Guardian. 18.11.2018 // URL: https://www.theguardian.com/world/2018/nov/20/easter-island-british-museum-return-moai-statue

24Эфиопия потребовала вернуть сокровища из Музея Виктории и Альберта // МК Лондон. 25.04.2018 // URL: https://mk-london.co.uk/news/u489/2018/04/25/20065

25Kamardeen N. The Protection of Cultural Property: Post-Colonial and Post-Conflict Perspectives from Sri Lanka // International Journal of Cultural Property. Volume 24. Issue 4. 2017 // URL: https://www.cambridge.org/core/journals/international-journal-of-cultural-property/article/protection-of-cultural-property-postcolonial-and-postconflict-perspectives-from-sri-lanka/7409E56C030FDFB8CABAF34AE4FFBFA1

26Harris G. New guidelines for UK museums will kickstart nation’s long-overdue restitution debate // The Art Newspaper. 20 March 2020 // URL: https://www.theartnewspaper.com/news/arts-council-england-wades-into-restitution-debate-with-pledge-to-publish-guidance

27Vigni P. Historic Shipwrecks and the Limits of the Flag State Exclusive Rights // Cultural Heritage, Cultural Rights, Cultural Diversity: New Developments in International Law / Edited by Silvia Borelli and Federico Lenzerini. 2012. P. 281.

28Gurmendi A. Spain’s Sunken Warships and the Underwater Heritage of Latin America. 02.01.2019 // URL: http://opiniojuris.org/2019/01/02/spains-sunken-warships-and-the-underwater-heritage-of-latin-america/

29Alderman K. High Seas Shipwreck Pits Treasure Hunters Against a Sovereign Nation: The Black Swan Case. June 1, 2010 // American Society of International Law Cultural Heritage and Arts Review. Spring 2010 // URL: https://ssrn.com/abstract=1619330

30The Republic of Peru’s Response to the Kingdom of Spain’s Motion to Dismiss or for Summary Judgment. United States District Court. 2007 // https://cases.justia.com/federal/district-courts/florida/flmdce/8:2007cv00614/197978/141/0.pdf?ts=1227034416

31Золотое дно. Как ищут сокровища в морях и океанах // Коммерсантъ. 11.08. 2018 // URL: https://www.kommersant.ru/doc/3707137

32«Деколонизация искусства», или можно ли вернуть в Узбекистан культурные ценности, хранящиеся за рубежом? 29.06.2017 // URL: https://www.fergananews.com/articles/9463

33О создании Центра изучения хранящихся за рубежом и относящихся к Узбекистану культурных ценностей при Кабинете министров Республики Узбекистан. 2017 // URL: https://www.norma.uz/novoe_v_zakonodatelstve/vozvrashcheniem_v_stranu_kulturnyh_cennostey_zaymetsya_specialnyy_centr

34Koh-i-Noor Diamond Belongs to Britain and Was Not Stolen, India Says // Time. 18 April 2016 // URL: https://time.com/4297347/koh-i-noor-diamond-india-britain/

35Kamardeen N. The Protection of Cultural Property: Post-Colonial and Post-Conflict Perspectives from Sri Lanka//International Journal of Cultural Property, Volume 24, Issue 4. 2017 // URL: https://www.cambridge.org/core/journals/international-journal-of-cultural-property/article/protection-of-cultural-property-postcolonial-and-postconflict-perspectives-from-sri-lanka/7409E56C030FDFB8CABAF34AE4FFBFA1