アンドレイ・イサエフ(国際政治評論家)

昨年末に最高潮を迎えたトルコと欧州との対立は下火になっている。トルコ外交の専門家であるイルハン・ウズゲルによれば、「戦略的自立性」への挑戦が失敗し、「戦略的撤退」の道のりが始まり、トルコ政府はNATOの「協調的同盟国」としての立場に収まりつつある。

昨年10月、レジェップ・タイイプ・エルドアンは、フランス大統領に対して精神科を受診するように面と向かって発言し、アメリカ政府に対しては「我々は部族国家ではなく、トルコなのですよ。誰を相手にしているか注意するように」と発言するほどの勢いがあった。その翌月にトルコを訪問したアメリカのマイク・ポンペオ国防長官に対しても、「会う時間がない」として面会を断っている。一方で、トルコは背水の陣というわけではなく、常に逃げ道を用意し、例えば対立の火種となっていたロシアからの地対空ミサイルの購入については、アメリカからパトリオットミサイルを調達できなかった結果、「やむにやまれぬ」判断であったと説明している。ヨーロッパ(そしてアメリカ)によるトルコの軍需産業に対する制裁措置と、昨年末にトルコに対して同じく強硬姿勢をとるアメリカ大統領が誕生したことによって、さらなる追加的制裁措置が課される可能性もある。ワシントンとブリュッセルがどのような判断を下すかは、おそらく3月のEUサミットにかかっている。そのような理由から、トルコは態度を軟化させている。

EUに対する態度の軟化は、地中海での係争海域からの調査船の撤退から始まった。ギリシャとフランスとの対話が再開され(それに対してフランス外務省は満足の意を表明した)、EUとトルコが依然として問題の解決に対して前向きであること、EUはトルコの最大貿易相手国であること、中近東からの数百万人(!)にのぼる移民を食い止めるという重要な役割をトルコが担っていることが声明された。さらにアメリカに対してもトルコは態度を軟化させている。2月20日、エルドアンは声明を発表し、トルコとアメリカの間には強固で包括的な戦略的同盟関係が存在しており、「時として両国の間には問題もあるが、今に至るまで我々のパートナーシップはいかなる問題をも克服してきた」としている。

その一週間後、トルコ国防大臣のフルシ・アカルは米国に対して、ロシアの地対空システムを配備しないこと、「必要不可欠な場合」のみの使用に限定することを約束した。アメリカはそれに満足しなかったため、トルコ大統領府報道官のイブラギム・カリンは「大臣はそのようなつもりはなく、発言は誤解によるもの」と必死の言い訳をするしかなかった。

いまのところアメリカの新政権はエルドアンとの直接対話を控えており、エルドアンをやきもきさせている。それに耐えきれなくなったエルドアンは3月15日、ブルームバーグへの寄稿のなかで、アメリカ(そしてヨーロッパ)に対して、アサド政権およびクルドのテロリストとの戦いのためにシリアでの一致団結を呼びかけた。エルドアンの意見では、「地域における平和と安定の再開は、欧米がトルコを真に強力に支援することによってなされる」という。エルドアンが提案する欧米の行動シナリオは三つある。シリアで何の罪もない人々が殺されている状況を手をこまねいてみていること。問題の長期的解決に必要な軍事的、経済的、外交的手段をとること。そして、トルコのシリア政策を支持することによって、最小限の努力で、最大限の効果を上げること。

エルドアンはその際、トルコの重荷を分担できない場合には、EUへの新たな難民の流入が見込まれるということにいみじくも言及しなかった。ワシントンとブリュッセルはいまのところ、エルドアンの呼びかけには沈黙している。

アメリカの立場は明確だ。ロシアの地対空ミサイルC-400は、NATOのシステムと共存できるものではなく、NATO諸国の安全を脅かすものであって、NATO加盟国としてのトルコの義務に反するものである、という立場だ。一方で、アメリカのネッド・プライス国務報道官は、トルコの協力なくしてアメリカのシリア政策は成り立たないということを認めており、トルコとの関係断絶は望んでいない。テロ組織「イスラム国」との戦いにおける国際協力についてのアメリカ特使であるウイリアム・ロバクは2月、シリア政策においてバイデンがトルコと「緊密に協力する」用意があることを明らかにしている。

問題は、トルコをまっとうな道に戻すということのほかに、ロシアから取り戻すということにある。なぜなら、ほかならないシリアにおける協調こそが、時には問題を抱えつつも、アンカラとモスクワとの政治協力の基本であるからだ。ロシア大統領府報道官のドミトリー・ぺスコフは、「(ロシアとトルコとの)協力が行われている地域における情勢は依然として不透明である。テロリストの存在が状況の正常化を妨げてはいるが、協力は続いている」と指摘する。ロシア国防相のセルゲイ・ショイグは、ロシアとトルコとの軍事協力の調整は「きわめて困難」と指摘しつつも、「妥協の道は、一見不可能に思えるところにも見出せる」と強調している。

トルコは最近、シリア和平プロセスに、友好国であるカタールを引き入れようとしている。トルコ外相のチャウショグルによれば、アンカラ、モスクワ、テヘランとともに、ドーハはシリアにおける「いかなる分離主義も認めない」という。指摘すべきは、カタールには地域でも最大の米軍基地があるということだ。ロシア外相のセルゲイ・ラヴロフは、ロシア、カタール、トルコによるシリア対話は、アスタナフォーマットを代替するのではなく、それを補うものだという。

我々の意見では、トルコと欧米との対立は強調すべきものではない。矛盾するようであるが、「神経戦」はさらなる協力のための準備という面もある。アメリカとNATOがアンカラに期待するのは、自らの中東政策におけるツールという役割であるが、一方のトルコは、自らの地域における国際政治の自主的な主体として位置付けたいという思惑がある。思うに、何らかの形での妥協はいずれ見つかるだろう。しかしその際にも、重要な方向性としてのユーラシアというベクトルは残る。トルコがロシアとの協力をやめることは考えられない。この方向性において、トルコの将来的な地政学的運命が決まることになるだろう。

By KokusaiSeikatsu

『国際生活』はロシア連邦外務省を発起人とする、国際政治、外交、国家安全保障の問題を取り扱う月刊誌です。創刊号は1922年、『外務人民委員部週報』として出版され、1954年に『国際生活』として、月刊誌として復刊しました。今日、ロシア国内だけでなく、世界各国においても幅広い読者を獲得しています。