欧州評議会:人権保護手段のシステム

マリヤ・ペイチノヴィッチ・ブリッチ

欧州評議会事務局長

(翻訳:福田知代)

欧州評議会はヨーロッパの協力体制確立のための研究所である。

ロベール・シューマン、フランス共和国外務大臣

1951年12月10日

 今年、ロシア連邦は欧州評議会加盟25周年を迎える。ロシアが評議会に加入したのは1996年2月28日のことで、39番目の加盟国という、新加盟国のうちの一つである。これにより、ロシアは、政治的・法的な拘束力を持つ条約やスタンダードの、安定したシステムに参加することとなった。その根本にあるのが、ヨーロッパ人権条約である。

 第二次世界大戦後の1940年代終わり、ヨーロッパの政治家と知識人たちは、過去の過ちに学ぶ決意に満ち溢れていた。大陸は、近代史上に例を見ない暴力と無秩序の目撃者となったばかりであった。戦争と、司法や私刑による殺人、そして、ホロコーストの結果、数百万の命が失われた。人権を得る代わりに、少数派や一部の人々は、しばしば困窮にあえぎ、迫害や、政権や政治の横暴な仕打ちに晒されることとなったのである。

 1948年5月にハーグで開かれたヨーロッパ会議で生み出された政治的な刺激に感化され、1949年5月5日にロンドンで欧州評議会が設立された。欧州評議会は、過去の過ちを二度と繰り返さないことの保障を呼びかける、多面的な回答となった。その主たる目的は、ヨーロッパにおいて、戦後の分裂が生み出しうるリスクを協力して根絶し、新たな線引きを回避する目的で対話のためのプラットフォームを作り出すことであった。

 「ここ、欧州評議会の機関の中に、ヨーロッパの政治的な発展にとっての大きな意義がある。我々には、ヨーロッパの代表らが定期的に顔を合わせ、自分たちの不安や心配事、願いや希望を審議するためのプラットフォームがある。このプラットフォームは、自分たちの要求を評価するための共通のスタンダードを作り出すために知恵を絞り、公平と善隣関係の精神で、お互いに全体のために協力し合う場である」――1951年12月10日にストラスブールで開かれた欧州評議会諮問会議において、欧州評議会設立の父の一人であるドイツ連邦共和国宰相兼外務大臣コンラート・アデナウアーはこのように述べた。

 欧州評議会が正式に設立された翌年、人権に関する革新的な条約である、ヨーロッパ人権条約が、1950年11月4日、ローマ(イタリア)において12の加盟国によって調印され、1953年9月3日に発効した。

 ヨーロッパ人権条約は、欧州評議会の最初の条約であり、もっとも重要なものである。これは、個人の要求と尊厳をヨーロッパ司法の中心へと据えることで、新たな視野を開いた。この条約は、生活、自由と安全、個人生活への不可侵と裁判の公平性;意見表明、集会、良心および信教の自由;拷問、奴隷制および差別からの自由の権利を法典化したものである。これらの重要な権利は、すでに世界人権宣言で明文化されていたが、ヨーロッパ人権条約は、二つの重要で補足的な立場をもたらした:個人的な訴えの権利と、条約の履行を監督するために存在する欧州人権裁判所の決定が、拘束力を持つということである。

 各国家の上位に位置する機関の、拘束力を持つ司法権に立脚したこの法的措置のメカニズムは、ヨーロッパ人権条約を、今日の8億3500万人以上のヨーロッパ人の基本的人権と基本的自由を保障する、本当の意味でのユニークな文書にしており、国際的な権利の発展における道しるべにしているのである。

 欧州評議会のすべての加盟国は、この機関の目的に対する自らの忠誠、とりわけ、人権と基本的な自由、平和および民主主義の尊重と法の支配に基づき、加盟国間でのより大きな統一の達成を再確認した上で、条約を批准しなければならない。ロシア連邦は、ヨーロッパ人権条約を、1998年5月5日に批准した。

 2020年11月、我々は、ヨーロッパ人権条約調印70周年を迎えた。70年の間、この条約は、欧州人権裁判所の判例によって進化し続けてきた。欧州人権裁判所の条約解釈は、我々の社会で生じる変化や、条約が採択された1950年代当時には予想できなかった状況に関連した権利に適応しうる、その「生きた手段」としての立ち位置を保障するものである。

 このほか、条約に新たな権利を追加する一連の議定書も採択された。これらの議定書は、それらに調印したり批准したりした国家にのみ、拘束力を有するものである。議定書によって追加された新たな権利には、財産の平和的享有に関する権利、教育に対する権利と、秘密投票による自由選挙権(第一議定書);さらには、いかなる理由があろうとも、国家機関からの差別を禁じる、差別の一般的禁止(第十二議定書)などがある。

 もっとも重要な議定書に挙げられるのが、死刑の廃止に関する第六議定書および、その廃止を、戦時または急迫した戦争の脅威があるときになされる犯罪も含めた、あらゆる状況下に拡大する第十三議定書である。1949年に欧州評議会が設立された際には、死刑を廃止した国はごく少数であった。今日、我々の加盟国はすべて、これを形式的、あるいは事実上実行している。例外的にベラルーシは、歴史上はじめて、ここ、ヨーロッパにおいて、死刑から免れることのできるエリアを確立していた。

 ロシア連邦も例外ではない。1997年4月16日、ロシア連邦は第六議定書に調印した。ロシア憲法裁判所はかなり以前から死刑を禁止しており、すでに25年以上死刑は執行されていなかった。我々は、第六議定書の批准をきっかけとして、書面でこれを固く禁じる時期が訪れると考えている。そして、ロシアの政権がこれを行ってくれることを願っている。

 我々の機関の現行の巨大プロジェクトのうちの一つが、EUをヨーロッパ人権条約に参加させるということである。これが実現すれば、EUは条約の48番目の参加機関となる。リスボン条約の法的拘束により、EUのヨーロッパ人権条約への参加は、ヨーロッパの人権の歴史における道しるべとなることが運命づけられているのだ。これにより、原告は、欧州人権裁判所に対し、EUの法制度の機能を条約に従って検討するよう求めることができるようになる。

 ヨーロッパ人権条約で想定されている直接の訴えというユニークな権利を使えば、どんな個人、グループ、企業や非政府組織も、権利保護のためのあらゆる方策が尽きたという条件において、ストラスブールにある欧州人権裁判所に判断を求めることができる。裁判所は、条約に従って中立的な判決を下し、それぞれの加盟国はこれに自発的に従う義務がある。

 欧州人権裁判所はこれまでに、150万件以上の個人訴訟を審議し、そのうちの10万件で賠償金が支払われたり、控訴されたりした。ロシアがヨーロッパ人権条約に調印した1998年から2019年末までの期間、欧州人権裁判所は、ロシアを相手取ったおよそ17万3000件の訴訟を審議し、2700件以上の判決を下した。そのうちの2500件以上で、少なくとも一つの人権侵害が示された。公平な裁判の権利、さらには、自由と安全、そして残忍で尊厳を損なうような対応の禁止――これが、もっとも多く明るみに出た権利の侵害である。現在、欧州人権裁判所で審議されている訴訟全体のおよそ23%が、ロシア連邦に対して告発されたものである。これは、国民が欧州人権裁判所を信頼しており、国家レベルで解決されていない人権保護の課題の解決、改革の実行、変革の保障が避けられないことを裏付けている。

 実際、欧州人権裁判所によって示された違反を正すために、加盟国は、欧州評議会の閣僚委員会の監視の下で、数百もの構造改革を行った。

 ここ18年間で、閣僚委員会は、ロシア連邦に関連するおよそ3000の事例を追跡し、そのうちのおよそ1200件が最終決議で幕を閉じた。つまり、ロシア連邦が、欧州人権裁判所によって示された違反に対して、個別的および全体的な性格のあらゆる必要不可欠な方策を取ったと、閣僚委員会が判断したということである。

 判決の履行の結果として生じたプラスの変化として挙げられるのが、権利の確実性を保障する裁判手続きの改革、刑務所内の生活条件の改善、司法の遅延に対する補償の導入、移住の規則を違反したHIVに感染している外国人の自動的な強制退去の慣例の停止、良心的な顧客の財産権の保護、軍人のための新たな権利の保障と、有罪判決を受けて投票権を剝奪された服役囚の選挙権の保護である。

 2020年12月、欧州人権裁判所の決議履行の課題に関する最終会議において、閣僚委員会は、判断能力が不十分な者の自白と精神病患者の入院手続きに関する一連の事例に関して、ロシアにおいて関連の法律が可決され、発効したこと、特に、判断能力が不十分な人物が、別の人物と同じ訴訟手続きの規則を踏まなければならないことを見越していた、2011年の市民の訴訟手続きに関する法律の改正;判断能力が不十分な者の第三の介在形態に関する2015年の法改正の実現と、さらに、あらゆる精神病患者の入院に対して裁判所の許可を命ずる、精神病支援に関する2011年の法改正により、この課題に関する審議に幕を下ろした。このほか、予定されている司法審理が当局からしかるべき形で通達されていないことや、判決の全文が公開されていないことに関する事例もあった。しかしながら、これらの問題は、司法システムに導入された新たなIT機器の助けによって解決された。ロシアの裁判所は、サイト上において判決の全文の公開を始め、それらのコピーは、裁判所の照会リストで手に入れることができる。

 ここに挙げたものは、ヨーロッパ人権条約と欧州人権裁判所の判決の履行が、人々の生活において長く待ち望まれたプラスの変革につながりうることの、ほんの一例である。

 ヨーロッパ人権条約は、欧州社会憲章とともに、今日の我々の大陸における人権の基盤をなしている。223の法的拘束力を持つ条約と、具体的な課題に条約の原則を適用するその他の一連の文書とともに、それらは、個人、団体およびヨーロッパ大陸の国家を守る、人権保護のユニークなシステムを作り出しているのである。

 このおかげで、ロシア連邦は十二分に利益を得ている。ロシアは、拷問や残忍な仕打ちの予防、少数民族の保護、テロの阻止、子どもに対する性暴力の予防と考古学的遺産の保護、さらには、欧州文化条約および欧州地方自治憲章といった、現実的に重要な分野に関するものを含む、およそ70の条約と議定書を批准している。

 ロシア人の同僚らと交流した際、筆者は、データ保護に関するアップデートされた条約(条約第108+号)、人身売買に対する行動に関する欧州評議会条約、ヨーロッパ地方言語・少数言語憲章および女性に対する暴力と家庭内暴力に関するイスタンブール条約を含め、ロシア連邦が欧州評議会の追加の条約を批准する可能性を検討してはどうかと再度提案した。

 イスタンブール条約は、女性に対する暴力と闘う「黄金のスタンダード」であるが、誤解や思い違いから、これを批准したがらない加盟国もある。2019年10月のヴェネツィア委員会において、欧州評議会の憲法専門家機関によって出された結論は、アルメニアの問題に関して、これらの社会的な誤解のうちのいくつかを晴らしたが、これはロシア大陸においても有益となり得るものである。社会的な諍いや女性に対する暴力の予防は、欧州評議会、ロシア当局および2019年から2020年の人権に関する全権委員らが合同で行った「女性のための行動国家戦略2017-2022」のプロジェクトの最大の関心事であった。

 クロアチアが条約を批准した当時、筆者はクロアチア外務・欧州統合大臣を務めていたが、自らの個人的な経験から、イスタンブール条約が有効である国家にとっては、犠牲と潜在的な犠牲――まず第一に、女性たち――がよりよい条件に置かれ、より保護されることになるが、これが原因で起こる社会的な恐怖は存在しない、と言うことができる。ロシア連邦の女性たちに対しても、同様のことを願ってやまない。

 欧州評議会の法的拘束力を持つ一連の条約は、加盟国に対して、重要と考える分野における特定の活動を擁護、融資、実現することを可能にする、部分協定のシステムによって強化され、充実したものとなっている。ロシア連邦は、9つの部分協定のアクティブな加盟国である。

 それらは、 薬物の乱用および不正取引との闘い(ポンピドゥー・グループ)、大規模な自然・技術的災害の際の救援の組織とその予防、映画およびオーディオ・ビジュアル作品の共同制作と配給のための支援(「ユーリマージュ」)、憲法(ヴェネツィア委員会)と、汚職との闘い(欧州評議会対汚職諸国グループ;GRECO)、スポーツおよびカルチュラル・ルートに関する拡大部分協定(EPAS)に関連するものである。

 2020年11月、ロシアは、ヨーロッパの歴史教育を扱う研究機関に関する新たな拡大部分協定を制定する、17の加盟国に加わった。ポピュリズムの台頭のもとで、理解の幅と批判的思考を刺激する歴史教育は、民主主義文化発展へのカギとなるものである。

 研究所の主な目的は、各参加国内でどのように歴史教育が行われているかに関する実質的な情報を収集し、これを普及させること;先進的な経験の交換と相互教育の面で協力を行うこと;さらには、歴史教育の分野で活動しているヨーロッパの専門機関や研究所のためのネットワークを創設し、専門的な発展のためのプラットフォームの役割を果たすことである。研究所は、欧州評議会の歴史教育における10年間の経験に基づき、歴史操作や歴史の歪曲に対する安定を強化することを可能にし、さらに、平和と対話の強化を可能にすることだろう。

 欧州評議会の一連の条約を通じて、スタンダードの制定とモニタリングという、もっとも重要な機能のうちの二つが実施されている。

 これらの条約に基づき、欧州評議会は、広範な分野における実質的なスタンダードを制定し、具体的な条約に関して国家がどのように義務を果たしているか、そして、制定されたスタンダードに従っているかについて、ヨーロッパ全体および国単位でのモニタリングを行っている。こういったモニタリング活動を行っている専門家機関には、人種主義と不寛容に反対する欧州委員会(ECRI)、GRECO(欧州評議会対汚職諸国グループ)、Moneyval(マネーロンダリング防止対策の評価とテロ資金供与に関する専門家委員会)、CPT(拷問及び非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰防止欧州委員会)、CEPEJ(欧州司法効率化委員会)、欧州社会権委員会および民族的マイノリティの保護に関する枠組み条約の枠内における諮問委員会が含まれる。

 モニタリング手続きの詳細はそれぞれの機関で異なるものの、一定の共通する特徴は存在する。通常、モニタリングは、国家への訪問や、政権、市民社会およびその他の主体との面会、さらには二次的資料の分析に基づいて行われる。その結果は、検討されている条約の全加盟国の代表によって審議され、承認されるのである。このモニタリングとコンサルティングのメカニズムは、加盟国に、法令を遵守するよう呼びかけるに当たっての手助けとなり、また、その忠告は文字通りに遂行されなければならない。もっとも重要なことは、加盟国に公の面前で恥をかかせることがモニタリングの最終的な目的なのではなく、不備が明らかとなった分野におけるポジティブな変革を促進するために行っているということである。これは、我々の共通のスタンダードを適用することで達成される。時として、欧州評議会がサポートすることもあるが、基本的には、しかるべき加盟国の政権と対話を行うことで遂行されるものである。

 政権や国会議員、市民社会および加盟国のマスメディアとの対話の維持は、ヨーロッパ全体にとって、協力体制のプラットフォームを保障するものである。これは、欧州評議会設立の父らによって提唱されたもので、この機関のもう一つの現実的に重要な機能である。対話は、さまざまなレベル、さまざまな集会と、さまざまな参加方法を利用することで実施されている。

 我々加盟国の政府代表は、週に一回以上の頻度で、欧州評議会閣僚委員会で顔を合わせている。閣僚委員会は、欧州評議会の政策を決定し、予算や活動計画を承認する。欧州評議会の加盟国のうちの一つが、6ヶ月の期間、閣僚委員会の代表を務めることになっている。

 人権委員は、中立・公平な非司法機関であり、47加盟国における専門性と人権尊重を向上させるために存在している。委員は、国際的および国の機関からなる広範なグループ、さらには人権モニタリングのメカニズムと協力してこれを行っている。その方法は、国家への訪問、政権および市民社会との対話、テーマに沿った報告、人権の制度的な実現の課題に関するコンサルティング、さらには、専門性の向上に関して方策を講じることである。

 議員総会は、47の加盟国の324人の議員からなっており、総会は、事務局長、人権委員と欧州人権裁判所の裁判官を選出する。また、総会は、討論のための民主主義的な集会であり、選挙を監視し、現行の課題の検討と政治的な決議の採択において、重要な役割を果たしている。ロシア代表団の欧州評議会議員総会への参加をめぐる最近の長引く危機は、深刻な制度的、財政的、政治的な結末をもたらした。筆者は、この危機が過ぎ去り、ロシア連邦が再び完全な形で総会に出席したことに満足している。

 現在、閣僚委員会と議員総会の新たな追加の共同手続き作成の準備が行われているところである。これは、加盟国が規則で定められた義務を深刻に違反した場合に適用されることになる。筆者は、この新たな手続きが、欧州評議会の活動を、より一貫性のある足並みの揃ったものにしてくれるはずだと信じている。

 地方自治体会議は、欧州評議会のもう一つの制度であり、ここでロシア連邦は伝統的にアクティブな役割を果たしている。地方自治体部会と州部会からなる会議は、20万以上の地方自治体および州の行政機関を代表する、選挙で選ばれた648名の公務員から構成されており、現在、レニングラード州のアレクサンドル・ドロズデンコ知事が副議長を務めている。その重要な機能は、地方および州の選挙の監視と、加盟国が欧州地方自治憲章を遵守しているかどうかのモニタリングである。

 このほか、およそ400の加盟組織からなる国際非政府組織会議は、政治と世論との間に現実的で重要なつながりを保障し、市民社会の声を欧州評議会に届けるという、カギとなる役割を果たしている。

 ヨーロッパ人権条約、欧州裁判所、条約や部分協定、モニタリング手続きの制度と、さらには、我々の人権委員、欧州評議会開発銀行と、憲法の課題に関して世界でもっとも尊敬される専門家グループとなり、60か国以上で中立的なコンサルティングを提供している我々のヴェネツィア委員会は、ほかの大陸では類を見ない、傑出した成果である。

 けれども、ここ数年間、我々は、欧州評議会が賛同する意義や、多面性そのものに対する大陸全体における敵愾心の増幅と、新たなリスク出現の目撃者となった。この脅威は、答えを出さずに放置しておくことのできないものである。

 我々加盟国は、目まぐるしく変化する世界で我々が直面する、新たに生じる問題に対して、ヨーロッパ人権条約の適用を保障しなければならない。言うまでもなく、2019年にヘルシンキで開かれた閣僚委員会の決定は、重要な分野における今後の活動につながるものであった。

 AIに関して言えば、閣僚たちは、その徐々に拡大する適用は、我々の共通のスタンダードを損なうのではなく、これを保護し、推し進める方向で機能しなければならないということを確認した。この原則に基づき、AIに関する専門委員会は、AIの開発、設計と適用のための基盤作りに取り掛かっており、2021年のうちに本質的な前進が見られることが期待されている。

 人身売買に関しては、閣僚たちは我々に対し、存続する、あるいはいくつかの加盟国においては拡大しているこの問題の解決に当たって、我々はどのような方向で活動に取り組めばよいかを調査するよう依頼した。筆者が「活動のロードマップ」を発表して以降、人身売買のモニタリングを行う我々の機関(人身売買に対する行動に関する専門家グループ;GRETA)は、先進的な実践例集を作成し、各国の政権に対する指導を策定した。

 同様に、ヘルシンキの決定は、男女平等の保障と、さらには女性に対する暴力および家庭内暴力との闘いに関する活動が必要不可欠であることを裏付けるものであった。我々は、ジェンダーの平等に関わる現在の戦略実現に向けて引き続き取り組み、女性の移民と難民に関する新たな提案を作成し、我々のイスタンブール条約をこれからも推し進めていく。

 我々が今後も前進を続けていくことになる、ヘルシンキで決定されたその他の優先事項には、市民社会の役割と参与の強化;マスメディアの自由を含む、意見表明の自由;差別、人種主義、外国人嫌悪、ヘイトスピーチおよび差別発言との闘い;社会権;移民に伴って生じる対応が含まれる。

 このリストに、環境に関する差し迫った問題も加えることができる。環境の衰退と気候変動の現実は、人権に対して脅威を生み出すものである。我々に委任されている枠内での活動で、我々は、ここでもヨーロッパ共通のスタンダードを適用することを保障しなければならない。各国の裁判所、欧州人権裁判所および欧州評議会で検討されている事例は、現在我々が、できる限り効果的なものになるよう努力している環境保護に関連する条約制定に寄与するものであった。欧州社会憲章もまた、保健の権利と関わりがあることから、この問題と関連を持っている。

 近年、この問題は、ジョージア、ギリシャとドイツの閣僚委員会議長らによる、2021年末までに人権と環境に関する拘束力を持つ文書を採択するよう呼びかける共同宣言のおかげもあり、機関の枠内において新たな発展を見せている。主導的な役割を果たしている人権専門委員会 (CDDH)は、すでにこの課題に取り掛かっている。

 もちろん、いくつかの問題は、急に湧き起こったり、予期せず発生したりすることもある。近年のヨーロッパへの移民の流入を予測できた人は少なかっただろう。欧州評議会は、移民の管理を委任されてはいないが、ヨーロッパ人権条約は、我々の共通の法空間を訪れるすべての人に拡大されるものであり、その権利は遵守されなければならない。我々は、加盟国がこの目的を達成するに当たっての活動をサポートするために、能率的に対応してきた。我々は、受入センターにおける割り当てのスタンダードを作成し、移民の過程においての最弱者である、子どもの移民および難民の保護に関する複合的な方策を採択した。

 ヨーロッパ全土における人権の尊重は、現実的に重要なものであり、かつ、法的拘束力を持つものでもある。そしてこれは、「グレー・ゾーン」と呼ばれる地域や、加盟国の間で係争中の地域の、より広い問題を明るみに出すものである。政治とは関係なく、そこに暮らす人々は、ほかのヨーロッパ人と同様の人権、民主主義と法の支配に関する権利を有している。各国の政権は、これを保障しなければならない。欧州評議会は、状況を評価し、応分の援助を行うため、これらの地域への支障のないアクセス権を持たなければならない。現在はそのようにはなっておらず、そのため筆者は、この問題の解決を、委任されているうちの優先事項の一つに据えた。

 さらにもう一つの、予期せぬ優先事項となったのが、2020年のCOVID-19のパンデミックに対する加盟国の対応が、効果的で、我々の共通のスタンダードに従ったものとなるよう、手助けすることの重要性である。パンデミック発生から間もない2020年4月、47のすべての政府に向けて、一連の問い合わせ資料を送付した。その中には、公衆衛生の必要性と個人の権利保護との間でどのようにバランスを取るべきかに関する助言も含まれていた。我々は、ヨーロッパ全土において、必要不可欠な隔離制度が導入された際の、女性に対する日常的な暴力のリスクの高まりに先手を打っただけでなく、資金やプラットフォームを提供したのである。これにより、各国の政権は、この問題解決における先進的な経験を共有することが可能となるだろう。

 機関のさまざまな構造が、差別の予防、服役囚の権利保護、データ保護と、追跡アプリ、全権の憲法的・法的枠組み、さらには公衆衛生の危機という文脈と、それを越えた範囲での公衆衛生の課題解決に関連した助言を行っている。

 コロナウイルスに直面した我々は、制定されたスタンダードと要求を遵守し、前例のない国境をまたいだ脅威との闘いにおける、多面的なアプローチの重要性を主張しながら、同情心とともに責任感を持って指揮を執ることができるのだということを、世界に示しているのである。

 ほかの多くの状況と併せて、これらは、欧州評議会が危機に対応でき、我々の経験を将来にシェアできることを示すものである。

 我々は、これを単独で成し遂げることはできない。知識の普及と欧州評議会の原則、スタンダードと条約、欧州人権裁判所の手続法の広い適用の保障のために、我々は法曹界――法律家、学者、研究者およびその他の主体に頼らなければならない。欧州評議会のプログラムであるHELP(法律家のための人権分野における教育)は、この目的達成に向けられたものである。とりわけ、COVID-19のパンデミック下におけるこれらの課程の人気と高いレベルは、このイニシアチブに需要があることの裏付けである。

 ロシア連邦において、ロシアの国家公務員向けの専門知識向上のための課程は、すでに12年間行われている。それらは、我々の機関と、およそ30の省庁や行政機関、裁判所の決定を採択し、全ヨーロッパ的な重要課題の解決に当たっている人物らの間の対話のための特別なプラットフォームとなっており、事実上、ロシアの欧州評議会における四半世紀の協力関係の中で、もっとも長く続いているプロジェクトである。

 欧州評議会の規約は、より大きな統一に立脚した平和を呼びかけるものである。批准から70年が経ったヨーロッパ人権条約は、この統一の基本的思想としての役割を果たしている。欧州評議会設立の父たちは、我々が現在享受している平和を想像することはできなかったであろうし、今日のヨーロッパ人権条約の影響力のスケールや深さを想像することはできなかったであろう。

 一緒に汗を流すことで初めて、我々は、この成功がさらに実りあるものとなり、ヨーロッパ共通のスタンダードが、我々が直面する長期的・緊急の課題の今後の解決を保障するだろうと請け合うことができる。これが、我々の共通の関心事であるのだ。

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