パンドラの箱を開けてしまったブレグジット 分離主義者の勝利が英国と欧州にもたらすもの

ウラジーミル・ミヘエフ

国際関係専門家

(翻訳:中村有紗)

完了です!Consummatum est!2020年の暮れにかけて、英国とEUは、まるで早指しチェスのブリッツのような交渉の中で、自分たちの好戦的な叫びをなんとか抑えながら、「離婚」の条件に合意することができました。それはなめらかなものではなく、むしろざらざらしたものですが、やすりみたいに固くはない、とでも形容できる条件でした。12月24日、難産の末の協定が結ばれました。欧州連合(EU)のミシェル・バルニエ首席交渉官は、欧州委員会のウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長との共同記者会見で、「ストップウォッチは止まりました。今日で解放されたのです。」とひそやかな喜びをこめて発表しました。

フォン・デア・ライエン女史は、英国は「信頼できるパートナーであり続け」、英国人とヨーロッパ人は世界共通の目標を達成するために「相寄り添う」と、和解的雰囲気を演出しました。このような基本文書には欧州議会の承認が必要ですが、EUの特命全権大使らは全員一致で、2月28日まで離婚協定の精神と文言を「暫定的に適用する」ことを決めました。

ブレグジットをめぐる摩擦と議論に疲れ果てた英国の国会議員らは、長引く破局で慢性化した有権者の疲労を痛感していたが、12月30日に開催された議会で、特権的な夫婦関係の破局に関する法案、いわいる「欧州連合(将来の関係)法案」を承認しました。それは抄録で80ページ、すべて合わせると2,000ページに及びます。

ボリス・ジョンソン首相がブレグジットを個人的な勝利とみなしたのは理由のないことではありませんが、彼は国内で対立する2つの陣営(統合主義者と分離主義者)を和解させるために、自らの議会演説において宥和的態度をとりました。苦労して勝ち取ったこの合意は、「英国はヨーロッパ的であると同時に主権的でありうる(How Britain can be at once European and sovereign)」ことを示していると彼は言います。

三脚チェア

9ヶ月に及ぶ交渉と文言の修正作業の末に、島国と大陸は一体何に合意したのでしょうか。ブリュッセルが発表したプレスリリースによると、この文書は「EUと英国の貿易・協力協定」と呼ばれ、三脚チェアのように、三本の柱の上に立っています。

まず初めに、自由貿易地域が合意され、「新しい経済・社会的パートナーシップ」が宣言されました。ポイントとなるのは、これからも双方でやり取りされ続ける製品やサービス(もちろんそれは無料ではありませんが)に対するゼロ関税とゼロクォータ(zero tariffs and zero quotas)です。しかし、無税だからといって、すべてが勝手に行われ、公的な書類が必要ない訳ではありません。決して。

トラックやトレーラーを運転する運転手など、すべての運送業者は、貨物の詳細を記載した税関申告書の携帯が義務付けられています。英国やいくつかのEU諸国の港で、大型トラックの検査の実施に伴う過剰な行列を避けるために、すでに追加のインフラを構築し始めているのは、偶然ではなく必然なのです。

北アイルランドは独自の二重的地位を獲得したため、貨物の流れを監視するための特別な体制が構築されています。北アイルランドは、英国の一部でありながら、EU関税同盟への加盟を維持しています。つまり、モノの国境は二つのアイルランドの間に設けられるわけではないのです。

また、投資活動の規制や公正な競争ルールの遵守、そしてこの基本的なパラダイムの一環として(欧州の統合プロセスは「共通市場」という考え方から始まったわけですが)、経済主体への国家支援の事例を追跡するなど、幅広い分野での相互作用をカバーしています。

さらに、徴税の透明性、輸送(継続的で「持続可能な」航空、道路、鉄道、海上輸送を提供する)、エネルギーと「持続可能な」開発への取り組み(再生可能エネルギーを優先する国連アジェンダ2030に完全に準拠する)、漁業(後述するように最も厄介なテーマ)、個人情報保護、社会保障措置の調整など、項目はたくさんあります。

両者は、経済および社会の分野での公平な競争条件(level playing field)を確保することを約束しており、環境保護、気候変動との戦い、脱炭素化、および社会分野での人権保護、特に労使関係の調整、などを対象として含んでいます。誤解が原因で紛争が発生した場合、強制的な紛争解決メカニズムがあり、是正措置を取る機会もあります。

2つ目の協定群は、EUと英国の域内安全保障と人権問題に焦点を当てています。両者は、特に国境を越えた犯罪や国境を越えたテロリズムに対抗するため、刑事事件や民事事件における法執行機関と司法当局の協力関係を維持することに合意しました。欧州人権条約に加盟し、それを忠実に実行しない限り、英国への報復を示唆する留保があるのは注目すべきでしょう。

第3グループの協定は、主に技術的な性質のもので、協定の実施状況の確認と管理、紛争解決のためのツールおよびメカニズムに焦点を当てています。公正な競争原理に反する「不当な補助金」を防止するために、国家と民間企業の関係を監視することが中心的な課題となることが明確に述べられています。個々の主権者が協定の条項を正しく解釈しているか、またどのように実行されているかをチェックするために、パートナー評議会が設立されます。

他人はここには来ない

EU加盟国でいる事に対する爆発的な不満の引き金となったのが、移民・移住問題です。今後、ヨーロッパ大陸の市民は、好きなときに自由に英国の島に来ることはできず、ましてや無制限の滞在などはもってのほかです。そのためには、一律に適用されるルールに従う必要がありますし、英仏海峡を渡って永住権を取得しようとする場合は、「ポイント制」で自身の魅力を評価されて選ばれることになります。

このようにして、デビッド・キャメロン元首相やマイケル・ゴーヴ氏(元ジャーナリストで、現在はランカスター公領大臣と内閣府担当大臣を務めている)などのブレグジッド派がかねてから約束してきたように、移民の流入を数十万人から数万人に減らすことで、英国民が築いてきた伝統的な社会が新参者を吸収する能力を高めることができるのです。

大陸側も英国民に対して同様の対応を行うことになります。短期間の出張で派遣された英国人は、1年間で連続3カ月、長期契約の場合は3年の滞在が認められますが、それ以上は認められません。また、90日を超える滞在にはビザが必要となります。また、労働許可証を取得するためには、「現地の実情」を考慮した上で、資格の証明が必要となります。

魚をめぐる争い

そして何よりも、イギリス近海で誰がどれだけ魚を獲るかということの駆け引きがありました。「魚をめぐる争い」は、交渉プロセスを大変困難なものにしました。最終的には、誰もが満足するものではありませんが、このテーマが交渉自体を壊してしまう原因(deal breaker)にならないために絶対必要な妥協点が見つかったのです。ボリス・ジョンソン首相が主張したように、現在、英国の漁師が自国の水域で獲った魚の割合が半分だとすると、5年半後には3分の2にまで上昇します。

このような予測にはにわかに信じがたい面があります。『ポリティコ』誌によると、英国が実際に受け取るのは、現在の漁獲枠の25%以下とのことです。ロンドンは、将来的には毎年(!)割当量について交渉し、合意しなければならないと考えています。

北西部に住むアイルランドの漁師たちは途方に暮れています。彼らはサバ漁を専門にしていますが、そのサバはアイルランドの大西洋岸で産卵・繁殖した後、回遊し、英国の海で水揚されるのです。

退場チケットの料金

交渉の結果、誰が得をし、誰が損したのか?最終的な会計処理はまだ終わっていません。一つはっきりしているのは、英国のEU諸国との貿易取引高(2019年統計)が金額ベースで4000億ドル以上に相当し、英国にとっては輸出の約3分の1、輸入の約38%を占めていることから、英国にとっては退場チケットはより高くついたということです。EUについては、英国との輸出/輸入はそれぞれ11%、8%でした。このことが、大陸における島の重要性を大きく左右しました。

象徴的なのは、どちらかが故意または無意識のうちに契約を守らなかった場合に、両者ともに自分たちが自由に行動できる余地を残していることです。下院での批准を目前にして、欧州懐疑派であるトーリー党のERG(欧州研究グループ)の下に集まった弁護士たちは、この文書を調査し、英国の主権が保証されているだけでなく、ERGの責任者であるマーク・フランソワの言葉を借りれば、自分たちの思うように法案を変更することができると結論づけました。また、欧州連合(EU)による対抗措置の可能性に対して、それが「受け入れられない」と判断された場合には、12ヵ月以内に協定を破棄することとしました。

片方が相手を騙して一方的に優位に立つことがないように周到に協定に組み込まれた安全弁を考えれば、崩壊しつつある「諸民族の家族」のなかでの諸価値の位置づけが分かろうというものです。

ジャン・モネやロバート・シューマンといった「一つのヨーロッパ」の設計者たちを導いた美しく精神的な理想は、法律用語を使えば、通常の損得勘定の前には「無価値」であることが判明したのです。自由、平等、友愛、社会契約、社会的調和などの理想よりも、物質的、金銭的な利益が優先されます。

「そして早朝、彼らは目覚めた」

2021年1月のことです。最初に不満が爆発したのは、英国のスーパーマーケットやサプライヤーで、彼らには購買や物流のアルゴリズムを再構築するのに十分な時間がありませんでした。新しい規則は、年明けの数時間前である12月31日に公開されました。以前は大陸の顧客に貨物を送る際の書類作成に3時間かかっていましたが、現在は5日もかかっています。同様の状況は、欧州連合の関税管轄下にとどまった北アイルランドへの商品配送でも発生しました。

英国はEUとの間で4月1日までは緩和することで合意していたため、劇的な混乱はないと思われていました。第一に、北アイルランドに動物由来製品を輸出するスーパーマーケットとその「信頼できるサプライヤー」は、輸出保健証明書の記入が免除されます。第二に、EU諸国には輸出できないミンチ肉やソーセージなどの生鮮加工肉製品を、北アイルランドには支障なく出荷することができます。

エイプリルフール後に実行可能な解決策を見つけなければ、食品の配送が遅れるだけでなく、英国内の小売店の棚が欠品することは避けられません。専門家が指摘するように、「実行可能な解決策(workable solution)」を見つける必要があります。

具体的に何を解決するのか?英国に輸入されるニュージーランド産の羊肉には2〜3枚の証明書しか必要ありませんが、英国の卸倉庫からアイルランド共和国に食品を配送するトラックドライバーは、荷台の製品ごとに個別の証明書を用意しなければならず、その数は100枚以上にもなります。目的地に到着する24時間前までに書類を作成し、提出しなければなりません。時間切れが必至なのです。

呪われた3文字:VAT

付加価値税が新たな負担となっています。エンジニアリング会社Torqueflow-Sydexのマネージング・ディレクターであるディビッド・リー氏の心の叫びが、多くを説明しています。今後、イタリアの工場で生産された製品には、英国の会社であることを理由に22%のVATが課税されることになります。コストが20%アップになったことで、リー氏は「競争の激しい市場では絶対的な敗因となる( ”This is adding 22% on to our costs, which in a competitive market is an absolute killer” )」と語ります。

ディビッド・リー氏は30年以上のキャリアを持ち、オーストラリア、ロシア、中東との貿易を行っています。しかし、今起きていることは、「悪い冗談」だと考えています(「私は30年以上この業界にいて、オーストラリア、ロシア、中東と仕事をしてきましたが、これではすべてが冗談にしか思えません」)。出口は一つしかありません。というより、2つあります。英国の領土を経由して商品を届けるか、契約上の義務を負っている欧州連合各国の税務当局に登録するか。

登録手続きは、官僚制度が発達している国の習慣として、それほど複雑ではないかもしれないが、やはり時間がかかり、お金がかかります。『フィナンシャル・タイムズ』紙の報道によれば、12ポンドの大陸産ワイン1本が1.5ポンド(現在の為替レートで約160ルーブル)値上がりするという計算になります。

「企業は、このような事態に備えるための十分な時間がありませんでした」と、起業家が販売する商品の値上げ分の一部を回収するための支援を行っているVAT・IT社のマネージング・ディレクター、セルウィン・スタイン氏は訴えます。「EUを一つのブロックとして扱うことに慣れている彼らが、27の各国で違う要求事項に翻弄されているのです。」

海峡を越えた脱出

ブリストルにあるEskimo社のマネージング・ディレクター、フィル・ワード氏も同様のコメントをしています。適切な輸送会社が見つからず、1月は得意のデザイナーズ・ラジエーターを1台も売ることができなかったといいます。同様の高級品(最高4,000ポンド)は、イタリアやトルコで生産されていますが、彼らはブレグジット以降、明らかな優位性を獲得したのです。フィル・ワード氏は、競争力を維持するために、生産能力の一部をポーランドなどの大陸に移すことを考えています。

海峡を越えて逃げることが当たり前になってきました。12月から1月にかけて、オランダの物流企業の「仲人」と呼ばれる非営利団体「オランダ国際流通評議会」のビジネス開発マネージャーであるヨヒム・サンダース氏によると、毎日のように少なくとも1社の英国企業から倉庫スペースの購入やリースの相談を受けていたそうです。

また、別の現象にも注目です。統計的に見ても、チューリップの国(オランダ)に進出しようとする企業の半数は英国で登録されています。しかし、残りの半分は米国やアジアの企業で、以前は5億人の消費者を抱える大きな市場に進出するために英国を選択していましたが、現在ではより確実性の高いEUの管轄区域を好むようになっています。

大陸人を吸収する準備万端の島民

トーリー内閣が暗黙のうちに進めてきた英国の「英国化」政策という「ケーキ」を最後に飾るサクランボとなったのが、大陸からの移民への居住登録制度であり、同時に、そのなかでも故郷への帰還を希望する者に対する「帰還準備金」の割当でした。

欧州大陸への移住を希望する者は、2021年6月30日まで「帰還準備金(resettlement money)」制度に登録し、受け取ることができます。2,000ポンドを受け取ることができるようになっています。ジョンソン政府の提案は、建設、工業生産、社会サービス分野(看護、病人や高齢者のケア)で就労している外国からのゲスト・ワーカーを対象としています。

重要なのは、新しい規則に基づいて適切に居住登録手続きを行わなければ、「ゲスト・ワーカー」は以前の法的地位を失い、権利を喪失し、その結果、国外追放される可能性ががあります。

大陸人の多くはイギリスでの居住権を選択しているようです。ケビン・フォスター移民相は、ヨーロッパ人を吸収するための登録センターが72カ所あり、帰化を希望する人の数はすでに490万人に達していると指摘しています。彼らがネイティブの市民/国民と完全に対等になるかどうかは、今後明らかになっていくでしょう。

英国の遺産の相続

欧州委員会のジャン・クロード・ユンカー前委員長が打ち出した「資本市場連合(CMU)」構想が一歩一歩実行に移されていく様子を見て、シティの金融関係者が不安を抱くのも無理はありません。その目的は明確で、「EUの国際競争力と自律性に不可欠」な「輸入金融サービス」への依存度を下げることにあります。

ポリティコによると、欧州委員会は「ロンドンなどの金融ハブへの資金調達の依存度を下げることを目的とした資本市場連合の構築」を目指しています。このプロジェクトは1999年に開始されましたが、イギリス(以前はスペイン)の遺産への権利を主張する多くのプレーヤー(フランクフルト、パリ、ミラノ、マドリッド、アムステルダム、ダブリンなど、さまざまなレベルの金融ハブ)の野望がこの分野で衝突しているため、実施のペースは非常に緩やかなものです。

CMUへの取り組みは、英国の国民投票のずっと前から始まっていましたが、ブレグジットによってCMUの取り組みの優先度が高まったという専門家の指摘は的を得ています。

大陸側が自分たちの金融機能に蓋をしてしまおうとしている動きを見たシティはかなり動揺しています。絡み合う利害はいままでになく大きなものとなっているのです。公式統計を分析したCityUKの専門家によると、金融・アドバイザリーサービス部門は労働人口の7%を占め、GDPの10分の1を占めています。2019年、英国の貿易黒字への同セクターの貢献は400億ポンドでした。

一方、Institute of Directors というロビー活動組織の責任者の一人であるエリー・レニソン氏が言うように、EUはこの状況を自分たちの権益拡大のためのレンズを通して見ており(そうでないことがあるでしょうか?!)、「市場活動の一部を自分たちの側に移転させる機会として捉えている」ことがうかがえます。同様の結論は、ポリティコが書いているように、イングランド銀行のアンドリュー・ベイリー総裁も導き出しており、ブリュッセルは「市場をオープンにするよりも、ロンドンからビジネスを奪うことに関心がある」と非難しています。

ブレグジット後の風向きは、明らかにロンドンの銀行家にとっては不利なようです。しかし、このプロセスは、世界最大のアドバイザリー会社であるアーンスト・アンド・ヤング(以下、EY)の金融サービス規制担当責任者であるジョン・リーバー氏によれば、「少なくとも18カ月から2年はかかるだろう」と予測されています。大手銀行らは「場所を変える」ことへより強い必要性を感じているようです。彼らはさらに約1,000億ポンドの資産をEUの管轄下に移す準備ができており、2016年の国民投票以降の資本逃避の総額は1兆3,000億ポンドという莫大な金額にのぼることになります。

逃亡者の中には、金融コングロマリットのゴールドマン・サックスも含まれており、2020年後半に約290~430億ポンド相当の資産をフランクフルトのオペレーションセンターに移しました。米国の金融持株会社であるJPモルガン・チェースは、英国から1,730億ポンド相当の資産を撤退させる方針です。カネがカネを生み出すことに研ぎ澄まされた感覚をもつ英国の銀行家にとって、この傾向は憂慮すべき事態です。

2月には、アムステルダムがロンドンを抜いてヨーロッパ最大の株式取引の中心地になったことが報じられました。それは、EUのルールでは、ユーロでの取引はEU加盟国の取引所か、それと同等の地位を持つ国(equivalence status)でのみ行われることになっているからです。

シティ・オブ・ロンドンは最終的にどの岸に上陸するのか?霧が立ち込めています。ブレグジット派は、英国がEUから離脱すると、「ヨーロッパのシンガポール」になると繰り返し主張してきました。アングロサクソン諸国との特権的な貿易・経済関係の恩恵を受けることができるはずでした。

しかし、ここで1つ目の残念なことが起こります。米新政権の財務長官に指名されたジャネット・イエレン氏は1月、ジョー・バイデン大統領は国内に多くの問題を抱えており、国際貿易協定の締結は優先事項ではないと発表しました。

このニュースを受けて、影の労働党政権におけるランカスター公領大臣および国務担当大臣であるレイチェル・リーブス氏は、「またしても、この政府の無能さと計画性のなさが、英国企業を後退させ、経済の回復を遅らせている。」と述べました。

圧縮段階

英国経済の減速は、EUとの決別後、ほぼ最初の数ヶ月から顕在化し始めました。2021年1月の大陸への輸出は40.7%減、輸入は28.8%減となりました。最大のパートナーとの決別は、何世紀にもわたってその商才により繁栄を享受してきた根っからの貿易国にとって、生産や投資活動の停滞、時には倒産、雇用の喪失、所得の低下、社会福祉予算の負担増を約束するものなのです。

その結果、1月の国内総生産(GDP)は、12月に比べて2.9%減少しました。しかし、比較対象となるのは2020年であり、当時、英国のGDPは9.9%縮小しましたが、これは1920年以来最大の縮小であり、過去300年で最大の縮小であるとの試算もあります。

ブレグジットによって、英国はEUの4倍のコストがかかると予測されています。大陸人がGDPの0.5%を失うのに対し、島民はGDPの2.25%を失うことになります。この予測の裏には、欧州統合派と英国分離派の双方の変わらぬ「歴史的楽観主義」が「縫い付け」られているかもしれません。

“ゴロゴロ “し始めたブリュッセル

2021年3月15日、欧州連合は英国が分離協定の精神、さらにはその文字さえも遵守していないと非難し、法的手続きを開始しました(ツイントラック法的措置)。この対立は、ボリス・ジョンソン内閣が、北アイルランドの他の地域から北アイルランドに入る商品の税関規制の「猶予期間」を延長したことによって引き起こされました。ロンドンは、「技術的な手順の不備」により地域への配送に支障をきたす可能性が高いことを指摘して、自主的な行動を正当化したのです。

猶予期間を3月末から10月1日に延長するという決定は、ロンドンが一方的に下したもので、もちろん当初の合意には含まれていませんでした。

欧州委員会の公式声明でも言われているように、「6カ月間ですでに2回、英国政府は意図的に国際法を破っている。国際法違反は英政府の既定路線だ。」と非難するブリュッセルは、交渉で解決できない場合は報復を行うと脅しました。

紛争時の行動の自由

ブレグジット協定のテキストの内容分析で同じように重要なのは、そこには何が目立って欠けているかということです。取決めがされていない分野として、外交政策や防衛政策にも言及されていません。ブリュッセルは、ロンドンがもともとこの喫緊の問題を議論するつもりがなかったからだと説明しています。

その結果、「英国とEUの間には、第三国の国民や経済に対する制裁措置など、外交政策上の課題に共同で対応するための枠組みが存在しないことになる」と指摘されています。EUはもちろんのこと、英国も、一方的に制裁戦争の火付け役になることを妨げるものはなにもないのです。

逆の公理も成り立ちます。大陸内外の政治状況が悪化したとしましょう。異教徒の移民の反乱。都市における移民ゲットーの反乱。このような環境下では、1960年代の米国のように、ブラック・パンサーのような準軍事的なギャングが出現します。最右翼の白人主義者が活性化し、増殖すること。過激派の暴力が近隣諸国に流出し、国境を越えた紛争になること。保守派か、ネオナチ的なラディカル派か、どちらかが権力を握る可能性があります。英国はかつて、欧州情勢に対して静観を決め込み、第一次世界対戦を誘発しましたが、この場合も、英国はゆっくりと対岸の火事を見物できるでしょう。

先見の明のある(あるいは情報通の)英国の支配層が、未知の海に向かうEUの船団から自国の船を外したのは偶然のことではない、との見方も存在しています。ブレグジットの根本的な動機は、異質な移民の流入に対する恐怖というよりも、行き詰まった新自由主義経済とその恩恵を受けている人々の存続を目的とした、新たな全欧州的な紛争に巻き込まれたくないという懸念であるかもしれません。

そうなのでしょうか?ロシア人を含むすべてのヨーロッパ人にとって、このような不快な憶測の妥当性を確かめるためのリトマス試験紙となりうるのは、ワシントンとロンドンが、二国間の軍事戦略的パートナーシップを高め、暗黙裡にNATOの位置づけを落とすかもしれないという動きです。この2つの首都から、アメリカ/イギリスとNATOの「切り離し」の可能性を示唆するシグナルが出てきた場合、また、ドイツの過激な新保守主義者を微妙に励ました場合(2021年1月、ジョー・バイデン米大統領は就任直後に、ワシントンがベルリンに特別な注意を払っていることを発表した)、意味するところは1つ。ブレグジットは、ヨーロッパ大陸とアングロサクソン(旧帝国と現帝国)を切り離す最初の段階にすぎないということなのです。

ブレグジットによって開始されたプロセスの隠された意味は、これまで同盟国に対して行われてきた米英による「安全の保障」が徐々に放棄されていくこと、つまり、NATO加盟国への攻撃は同盟全体への攻撃に等しいというワシントン条約第5条の精神と文言からの離脱ということかもしれないのです。つまり、ヨーロッパ大陸で武力紛争が発生した場合の交戦義務を解除することになります。

もし北大西洋条約が崩壊しても、英国は現在獲得した行動の自由によって、安心して欧州から離れることができるのです。

今日、このような陰謀的シナリオはあり得ないと思われたとしても、明日、明後日の潜在的なリスクを評価する上で無視することはできません。特に、2008年に始まったグローバルな新自由主義経済の構造的、システム的な失敗を修正するための分かりやすい処方箋がない今の状況では。

地政学的な文脈では、ブレグジットは偶然の事故ではなく、「ある特定の国家における」ナショナリズムの勝利でもなく、地域的な規模で短期的な利益を得るためのカードの再分配でもありません。それは、新しい世界秩序を構築するための多元的なチェーンの鎖の一つです。しかし、その戦術的・戦略的な特性はまだ分かってはいません。

次はどうなるのか?いずれも悪い2つのシナリオ

スコットランド人であり、元BBCのクリエイティブ・コントリビューターであるギャビン・エスラー氏は、『メール・オン・サンデー(Mail on Sunday)』紙で、「英国は今や名だけの統一」という大胆な判断を下しました。このジャーナリストは、2021年1月に起こりうる2つのシナリオを予測し、英国の終焉を生み出す「怒りで煮えたぎる英国ナショナリズム」と呼ばれるものに、不吉な予兆を感じています(「私たちは、英国がどのように終焉を迎えるかという最初の囁きを目撃している」)。

エスラーの言う「楽観的悲劇」とは、現在の現実に対する不満が、未来に対する「再発明のきっかけ」となり、「新たな再連合王国」が誕生するというものです。

とはいえ、彼が言うところの真のスコットランド人の終末論的ムードが支配的です。英国統合プロジェクトの「真の再活性化」が達成されなければ、スコットランドや、場合によっては北アイルランドがイングランドから分離し、「本格的な政治的危機につながる」といいます。そして、G.エスラー氏は、「英国のフィナーレは、ブレグジットよりもはるかに複雑で、厄介で、コストがかかり、苦しいものになるだろう」とまとめています。

「イギリスのEU離脱を主張した我々は、決して諸隣国との関係断絶を求めたことはない」と、今回の「離婚」について、トーリー党首のボリス・ジョンソンは説明しました。オスマン帝国の大臣の子孫である彼は、「私たちが求めたのは断絶ではなく、英国の戦後史を悩ませてきたヨーロッパとの政治的関係という古くて厄介な問題の解決でした」と主張します。

ある意味では、「ヨーロッパの選択」を発展のベクトルとしながらも、イスラムの宗教的・文化的伝統に深く根ざした正真正銘のアジアの地域大国であり続けたケマル時代のトルコの立場に、今日の英国は置かれているかもしれません。ブレグジット後のイギリスは、ヨーロッパという幹線道路の脇で、独自の道を歩こうとしたオスマン帝国崩壊後のトルコに似ているのです。

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