「ASEAN独自のインド太平洋構想」と急激に先鋭化する米中対立

ヴィクトル・スムスキー

ロシア外務省付属モスクワ国際関係大学 ASEANセンター長(2010年~2021年)、歴史学博士

(翻訳:青林桂)


2019年半ばに、東南アジア諸国連合の加盟10カ国首脳が「ASEAN独自のインド太平洋構想(AOIP: ASEAN Outlook on the Indo-Pacific, AOIP)」と題された文書を採択した[1]。

インド太平洋構想とは、インド洋と太平洋という2つの大洋を一体とする空間に、従来の「アジア太平洋」に代わる新たな地域秩序を形成しようとする概念である。インド太平洋構想については、AOIPが採択される10年以上も前から国際専門家会議や政府間会合の場で活発に議論されてきた。この議論には米国・日本・オーストラリア・インドが主として関与している。これらの国は、思惑の違いはありながらも中国の強大化と海軍力増強に対処するという明確な目的を掲げており、2007年から2008年にかけて4か国の協力体を築き上げようとしていた。しかし、この時は結果として確固たる協力関係を構築するには至らなかった。2010年代半ばに至るまで、4か国は互いの思惑を考慮しつつ、インド太平洋に関する非公式会談を通じて定期的に足並みを揃えながら、各々独自の新たな地域構想の創案に注力していた。

ところが、停滞していた「4か国」協力の動きは中国が「一帯一路」構想を打ち出すとすぐさま活発化した。「一帯一路」を中国の地政学的・地経学的な拡大事業とみなした4か国は、対中牽制として2017年11月に4か国戦略対話(QUAD: Quadrilateral Security Dialog)を開催し、インド太平洋地域における安全保障に関する協議を行った。実は、「インド太平洋」の地理的範囲に関して(当然ながらこの地域構造に関する他の要素に関しても)QUAD参加国の間では理解が統一されていなかったのだが、彼らは何の疑いもなくインド太平洋地域を巡る安全保障課題を「新たな現実」として語っていた。

QUADが再開されたのが、他でもなく当時マニラで開催されていた年次ASEAN首脳会議に合わせて行われた会合であったことから、この4か国の歩みは新たな意味を獲得した。そこでは、アジア太平洋地域の様々な対話枠組みにおける活動の調整役としてのASEANの「中心的役割(ASEANの中心性)」が、アジア太平洋地域主義と共に消滅する運命であるということが示唆されたのだろうか。もしASEANがそのような展開を未然に阻止したいと思うのなら、即座に行動を起こすべきであろう。もしくは、QUADが新しく将来性のあるインド太平洋構想を最初にASEANに提示したのは、ASEANの単なる正式な対話パートナーではなく戦略的パートナーであるQUAD参加国が、ASEANのいままでの実績を高く評価しており、自らの陣営にASEANを引き込みたいと思うほど信頼しているという証しなのだろうか。

このような状況下で実際的な結論を最初に提示したのはインドネシアであった。その結論は、マニラ首脳会議の表裏両方の意味を踏まえたものと現在では考えられている。2018年1月初旬には、インドネシア外務大臣ルトノ・マルスディが、インド太平洋という新たな地域空間に関するASEAN独自の共通概念を明文化する必要性を訴えている[2]。マルスディはこの取組みに尽力したものの、彼女が期待していたと思われるスピード感で求めていた成果を挙げることができなかった。AOIPを取り纏める上で、ASEAN外務大臣級・閣僚級の議論を重ねなければならなかったのである。報道機関によると、ある種の見解や立場の不一致が(特にインドネシアとシンガポールの間で)生じており、それらが完全に決着することはなかったとされている。

とはいえ、2019年6月23日にバンコクで開催された第34回ASEAN首脳会議でAOIPの最終稿が承認された。参加国は議論の結果最終的に何を合意したのだろうか。

「ASEAN独自のインド太平洋構想(AOIP)」:内容と分析

「ASEAN独自のインド太平洋構想(以下「AOIP」)はその冒頭で、アジア太平洋とインド洋・即ちインド太平洋と総称される地域の際立った経済成長ダイナミズムが、同地域の「地経学的・戦略地政学的シフト」を生み出していると述べている。このシフトには数百万もの人々の生活水準の向上に向けた協力の新たな機会があるとする一方で、「不信の高まり、誤算、ゼロ・サムゲーム的行動パターン」に向かう懸念を表明している。

更に、インド太平洋地域の平和・安定・安全・国民の繁栄は、地域の中心に位置する東南アジア諸国にとって直接的な利益であるとの記載が続く。そして、「包括的な地域構造」の確立に向けた数十年に亘るASEANの取組みを再確認した上で、今後もASEANがこのプロセスの「中心的役割」を担い、「集団のリーダーシップ」を発揮し、利害の異なるパートナー国の間を取り持つ「誠実な仲介者」であり続けなければならないとしている。

また、競争よりも協力優位のインド太平洋を創出するために何らかの新たな多国間協力枠組みを創出する必要はなく、東アジア首脳会議・ASEAN地域フォーラム・拡大ASEAN国防相会議などASEANを中心とする既存の枠組みを重視すべきであるとAOIPは主張している。

こうした対話の場は、インド太平洋地域における他の地域的・準地域的枠組みとの繋がりを強化し、広範な課題解決に向けた相互作用を促す効果が期待される。優先的重要事項として次の項目が挙げられている。 

  • (紛争の平和的解決から海洋資源の管理、環境汚染との闘いに至る)あらゆる海洋問題の解決に向けた複合的な協力関係の強化
  • 「ASEAN連結性マスタープラン2025」の行動目標とされている相互連結性の強化に向けたインフラ・交通運輸・その他あらゆる分野の継続的開発と補完
  • 国連が2030年までの指針として掲げる持続可能な開発目標の達成
  • ACEAN加盟10カ国と中国・日本・韓国・オーストラリア・ニュージーランド・インド間で近い将来発効される予定の多国間自由貿易協定「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定」に基づいた多様な経済プログラム及びプロジェクトの共同実現  

AOIPの提言は、多くの評論家や専門家からの熱心な反応を呼び起こした。彼らは異口同音に、激化する米中競争へのASEANの懸念と、その対立勢力のどちらに属することも拒否する心情が、この文書の形式と内容に反映されていると指摘している。

AOIPの本文には、「法に基づく秩序」や「航行の自由」などQUADがインド太平洋を語る際に用いる話法が度々借用されている。ただし、米国と異なるのは、ASEANがインド太平洋を地政学的な競争舞台ではなく各国が多様な(第一に経済的な)協力関係を築く空間であると考えている点と、包括的なアジア太平洋地域主義を否定せず堅持する方向性を目指している点である。AOIPではインフラ整備が強調されているが、これはインフラ分野における高いポテンシャルを持つ中国の顔色を伺うものだ。一方で、領海問題の平和的解決と「海洋法に関する国際連合条約」の遵守を重視する点は、中国と近隣ASEAN諸国との南シナ海問題に対するアプローチの違いを明確に想起させる。

そのように考えると、AOIPはいままでに存在してきたすべてのインド太平洋構想のハーモナイゼーションを求める声明にすぎず、それ以上でもそれ以下でもない。そのインド太平洋構想のなかには中国による構想も含まれる(ただし、地域空間的に見て「一帯一路」構想を中国版のインド太平洋構想として考えたならばの話であり、中国自身は一帯一路をそのように定義付けたことは一度もないし、今後もその可能性は極めて低い)。ASEAN諸国は、常任理事国やパートナー国のメンツを絶えず考慮し、忍耐強く、礼儀正しく、如才なく国家間の意思決定を追及する「ASEAN Way」という「独特の行動原則」を忠実に守りながら構想の取り纏めを進めた。そして、インドネシアを始めとするASEAN各国のメディアから総じて前向きな評価を獲得し、AOIPの採択が方向付けられた。

QUAD参加国の政府関係者からの反応は非常に示唆的だった。例えば米国務省は「ASEAN独自のインド太平洋構想」採択を歓迎すると発表し、米国が掲げる「自由で開かれた」インド太平洋構想や、「米国の同盟国・パートナー国・友好国が唱えるインド太平洋観」とAOIPのコンセプトとが明らかに一致している点を指摘している[3]。日本・インド・オーストラリアの主要な外交官や専門家からも同様の支持が寄せられている。恐らくこの段階では、ASEAN諸国がインド太平洋という「枠組み」で自らの将来構想を作り上げさえすれば「4か国」は満足だったのだろう。ASEAN諸国は独自のインド太平洋構想を形成することによって、好むと好まざるに拘わらずQUADの方向性へ向かう最初の一歩を踏み出したのだから。

こうした雰囲気の中、中国とロシアの政府代表はAOIPについて批判も擁護もせず詳細な言及を意味深長に差し控えていたが、両国にとって米国のインド太平洋構想は受け入れ難いという点は明確に言及していた。同時に、アジア太平洋地域におけるASEANの「中心性」を支持する中国・ロシアの立場がこれまでのASEANとの友好関係の基本要素であったし、現在もなおその位置付けは変わらないと述べた。

ルトノ・マルスディ外務大臣:「ASEANは積極的に行動せねばならない」

AOIP全体を評価するにあたり、マルスディが2019年1月にジャカルタで開催された年次ブリーフィングにおいてメディアや外交団に向けた声明を出発点としたい。彼女は、インド太平洋を天然資源管理や領海秩序など様々な課題を巡る紛争の場にしてはならないと強調し、「インドネシアにとって、ASEANとは地域の戦略的シフトと変化に応じて積極的に行動せねばならない存在だ(太字筆者)」と明言した[4]。

仮にこの積極性が、インド太平洋地域情勢の長期的な将来展望に基づき先見的且つ純粋に現実的な精神で考え行動できる能力であるとすれば、AOIPが提唱する枠組みの中で本当にそのような方向性を描けるのかどうかという点を理解することが重要であろう。

より具体的に言うと、このAOIPという文書は積極的現実主義と言えるほど現実的に地域情勢を認識・評価しているのか、AOIPで提示されている意向や目標は現実的なのか、そしてAOIPで言及されている目標達成手段は現実的なのかという点を理解すべきである。

地域における変化について – ASEANの認識と現実

上記で挙げた疑問の一点目に関して最も重要な点に着目したい。それは、インド太平洋地域で進行する変化特徴を記述する際にAOIPで用いられている表現が、明らかにASEANの本音を反映していないという点である。AOIPが2010年代と2020年代との境目に作成されたという時間的背景を考えれば、そうした言葉や表現を選択する理由が何となく理解できる。確かに、米中間において高まる緊張がASEANを不安にさせていた。しかしASEANの中では、紛争警報を鳴らすには時期尚早であり、米中関係が悪化するのは珍しいことではない、両国の経済的相互依存状態が紛争の発生を防止するだろうといった考えの方が優勢だった。

ところが、(丁度AOIPの準備期間である)2017年から2019年にかけて、ドナルド・トランプ政権がそのようなASEANの期待を極めて無遠慮に始末した。米国は国家安全保障戦略を改定し、中国とロシアを「戦略的競争国」と規定した。そしてインド太平洋地域を、「法に基づく秩序」(つまりは一極的世界秩序)の修正を目論む権威主義的レジームと民主主義とが闘う主戦場として定義した。また米国は、対ロシア制裁の発動に続いて中国に対し貿易戦争と情報戦争を仕掛けたのだった。

こうした米国による一連の措置は、米国が1970年代以降、中国を日本の例に倣って地政学的に飼いならすべく行われてきた「融和」政策が、もはや不要なものとして破棄されたことを意味する。また米国は、以前ほど協調的でなくなった中国・ロシアが参加するアジア太平洋地域の包括的経済連携プログラムも見限った。米国の世界的主導権の再構築を本来の目的とするアジア太平洋プロジェクトであるが、その主たる受益者が、事実上中国に他ならないということが明らかになったからだ。

地域の社会的・経済的振興の原動力としての協力枠組みの動きを急停止させる試みは、特に中心的立場にあったASEAN諸国を始めとする多くのパートナー国にとってまるで制裁のようなものだった。これらの国は中国との貿易総額が約5千億ドルにまで達しており、(南シナ海情勢の成り行きや「一帯一路」による「債務の罠」を懸念しつつも)中国との関係性を強化しない未来は考えられなかった。

どう見ても米国は、他国の損失を少しも考慮せず無責任に対アジア政策を180度転換したのである。

当然ながらAOIPという文書は、地域の不安定化を招く米国の行動と自国の思惑実現に向けた中国の過度な「自己主張」を直接的に非難する意図で作成されたものではない。それどころか、ASEAN Wayの行動原則に基づき、特定の国を正面から責めることなく慎重に双方の国へ自制と譲歩を求めようとしているのだ。しかしそうだとしても、AOIPの作成者たちは、例えば地域や世界が経験している時代の変化が、例外なくすべての人々に影響を与えるものであり、誰ももう「かつてのように生きる」ことができなくなったという根本的な矛盾に気付くぐらいには現実的になれなかったのだろうか。あるいは、ASEAN10カ国の共通の立場を表す決定と声明が常に全会一致方式で行われている点を踏まえ、どのみちAOIP最終稿には現実的な命題の入る余地などなかったのだと考えるべきか。

インド太平洋という文脈におけるASEANの目標とその達成手段

上述した通り、ASEANは独自の目標と意向を「インド太平洋構想」で表明しながら、将来の地域協力枠組みにおける自らの「中心的役割」の維持・強化を第一に掲げた。第二に、インド太平洋地域においては、東アジア首脳会議・ASEAN地域フォーラム・拡大ASEAN国防相会議など既存の対話メカニズムの代替あるいは補完としてのいかなる新たな枠組みも不要としている。そして第三に、同地域における全てのプレーヤーの(経済的協力を第一義とする)団結を実現する上で、多国間協力を活性化させる必要性を指摘している。

一方では、これらの提言は個別的にも全体的にも理に適い説得力があるように聞こえる。なぜならASEANは、1990年代初頭から(QUAD参加国を含む)対話・戦略パートナー国と共同で作り上げ、自らの「ソフトパワー」の基礎を形成したあらゆる最良の要素をインド太平洋構想に組み込むべきであるとAOIPで提唱しているからだ。

しかし他方で、メッセージ全体に込められた意味はかの有名な英語の言い回し「more of the same(文字通り訳すと、「同じ事が更に続く=代り映えしない」となる)」とやけに似通っていないだろうか。これは、「自分のやるべきことをこれまでやっていた通りにやれ、但しより懸命に」と言いたい時によく利用される表現方法だ。

当然、このようなASEANの現状維持的な態度は「積極的に動け」という呼びかけと符合しない。反対に、「インド太平洋構想」上の言葉を濁すような「現状」評価とは相通じている。また、AOIPが提示する地域情勢改善のために必要とされる手法を見ると、AOIPの一貫した特徴である現実感のなさが益々強く印象付けられる。AOIPの内容から判断すると、左記の目標達成のためにASEANが拠り所としているのは・・・ASEANの「中心的役割」、それが発揮される3つの主要な対話枠組み、そしてASEAN及び加盟国の利益を必要条件としたあらゆる国々の積極的協力関係の組み合わせという代り映えのない手段ではないか。

やはり問題なのは、米中の緊張という新たな地域的課題の対応策とされている一連の手段が、その課題が深刻化した2010年代初め頃には既にASEANで実行されていたという点だ。しかし、この時のASEANは米中対立の深刻化を食い止めることができなかった。米中関係が益々急激に悪化している昨今の情勢において、それほど緊迫していなかった過去の時代に上手くいかなかった手段を有効と考えるのは本当に妥当なのだろうか。

その上、米国はASEANとその「中心的役割」を仰々しく丁重に扱いつつも、現実にはその役割遂行に協力しないばかりか直接的に棄損していた。この明らかな例は誰もが知る通りである。それは言うまでもなく、ASEANの何年にも亘るパートナーである4か国が、アジアの安全保障を議論する為の独自の枠組み(QUAD)を、ASEANという機構とは全然関係なく、事実上東アジア首脳会議に代わる存在として米国主導で形成したという事実である。

その東アジア首脳会議において、米国は繰り返し中国代表団へ南シナ海問題を巡る論戦を仕掛けている。体裁上ほとんどASEAN諸国の為に動いているかのようだったが、その実米国は、東アジア首脳会議が多国間地域協力枠組みの新たな推進力にならぬよう計画的に妨害していた。

アジア太平洋地域におけるトランプ政権の企てが進むのに伴い、「地域の崩壊」という将来像がはっきりと見えて来るようになり、AOIPで計画されている社会経済の発展に向けた共同事業の実現性は一層危ぶまれるようになった。2019年にインドが東アジア地域包括的経済連携から離脱したのは象徴的な出来事であろう。この結果、インドに再考の機会を与える為に、重要な多国間協定への署名は1年間の見送りを余儀なくされた[5]。

なぜ「インド太平洋構想」はこのような体を成してしまったのか

結論として、AOIPは地域プロセスを評価する上でも、目標とその達成に向けた道筋を決める上でも、現実的且つ積極的な文書として成立しなかったと言えよう。更に悪いことに、ASEAN諸国はその実利主義的思考や良識が一般的に評価されているにも拘わらず、彼らのAOIP上の失敗はとても偶然とは思えないものだった。 

協力という名の殻に閉じ込められた潜在的競争意識が米中間で年々募っていく様子を見守りながら、ASEANは仮に両国の間で深刻な紛争が発生したらどう振る舞うべきかを考えあぐねていた。その答えを探すのは至極困難であった。アジア太平洋における「経済的奇跡」の前提条件である米中の繋がりが最終的に失われてしまったら、東南アジアの支配層はこれまで密接に関わっていたものとは別の成長モデルを模索し、改善していかねばならない。このプロセスはそれ自身非常に困難なだけでなく、地域安全保障問題が複雑化するリスクと、名高い「中心的役割」が棄損されるリスクを伴う。しかし、ASEANはこのようなネガティブシナリオに真剣に取り組まなかった。それは恐らく、まだ好調な数字を見せていたマクロ経済指標と、「ASEAN Way」というお気楽な行動原則が作用したからではないか。

結局、「10カ国」の主流を占める政治家や専門家は、21世紀の訪れと共に米国と中国の「離婚」が時間の問題になってしまったという事実と、自分達がこの現実に真剣に向き合い対処する機会を逸してしまったという事実を早い段階で認める勇気を持てなかったのだ。2017年から2019年にかけての米中対立の急激な悪化はASEAN諸国に動揺をもたらした。もはや時遅しで、ASEANが眼前の事象に対し積極的に働きかけることは本質的に不可能となってしまった。

米サウスカロライナ大学の教授であり、東南アジア国際関係史の権威であるドナルド・ウェザービーの「ASEAN独自のインド太平洋構想」に対する手厳しくも一理ある評価は際立った特徴を有する。ウェザービーは、この構想の採択が覇権国家に何らかの影響をもたらし、両国の関係性あるいはASEANとの関係性が変化するという期待は持てなかったという[6]。

シンガポールは何故戸惑い、インドネシアはどこに向かって急いでいるのか

ウェザービー氏の論文「インドネシア、ASEAN、そしてインド太平洋協力構想」は、上述の内容が主な結論の一つであるが、更に詳しく検討する価値がある。その理由は次の通りだ。

まず、この論文はシンガポールのシンクタンク「東南アジア研究所(ISEAS)」で作成された。同研究所は専門研究の内容の優れた質や、シンガポールの国家機関の中枢と密接な繋がりを持つことで知られている。

次に、同論文が研究所の定期刊行物「ISEAS Perspective(2019年6月7日付)」で発表された際、筆者は次回のASEAN首脳会議での「ASEAN独自のインド太平洋構想」採択に未だ懐疑的であった。この時既にバンコク首脳会議まで残すところ2週間であった。

そして最後に、ウェザービーの論文は、マスルディによるインドネシア版AOIPの推進活動に関する記述に多くの紙面を割いているが、その内容は結局シンガポールにとってこの取組みの何が満足できなかったのかを考えさせる。そして結果的に「インド太平洋構想」が採択されるまでの過程で、「悪魔は細部に宿る」と言われる類の詳細な背景事情を考えさせるのである。

シンガポールが恐らく東南アジア諸国の中で最も親米的な国として認識されているのは周知の事実である。尤も、その親米感情は「心の底から」という訳ではなく、貿易や投資がもたらす利益に関連した純粋に実利的な理由によると言うのが正しい。国際貿易収支がGDPの3倍にも上る国にとって、そのような動機付けは至極当然であろう。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)は、中国を牽制するための枠組みとして知られているが、シンガポールがTPPを積極的に支持したことや、2016年2月の同協定締結に向けて尽力したことも驚きに値しない。

しかし同時に、2017年の初めに米国がTPP離脱を表明した際、一番衝撃を受けたのがシンガポールだった理由もよく理解できる。離脱表明の直前に行われていたタイム誌のインタビュー中に、シンガポール首相リー・シェンロンが放った「もし米国がTPPを離脱したとしたら、誰がこれ以上あなた方を信じられるだろうか?」[7]という一言は、まさに同首相の心の叫びであるかのようだ。その後のドナルド・トランプの対アジア政策は、シンガポールエリート達の米国への懐疑心を強める一方であった。2018年にシンガポールがASEAN首脳会議の議長国を務めた際、同国の意見は「10カ国」の課題に特別な重みを持って響き、この雰囲気は「ASEAN独自のインド太平洋構想」の準備に際して強く反映された。

2018年5月にASEANがAOIPの取り纏め作業に着手した際、シンガポール外務大臣ヴィヴィアン・バラクリシュナンは、シンガポールは現時点において「自由で開かれたインド太平洋構想への署名」を行う意志を持たず、「我々は意図が明確に理解できない文書に署名をすることは決してない」と公開演説の場で表明した[8]。彼は、ASEANが引き続き地域構造における中心性を維持するのかどうかをまず把握し、その上で米国や日本のインド太平洋地域戦略が東南アジア経済全般・特に地元企業の成長をどのように支援できるのかという点を理解する必要があると説明している。

実際にバラクリシュナンは、QUADの構想が生産的な経済協力関係の犠牲を前提とした地政学的視点に偏向しているとの懸念を表明している。最も重要なのは、同氏の演説内容全体が、所謂ボールは米国とQUADパートナーの側にあり、これらの国々はインド太平洋構想の支援者として当該地域に対する考えをASEANに説明する義務を負い、その逆はないのだという主張に帰結している点である。それゆえ、ASEAN版インド太平洋構想の採択に急ぐあまり、「機関車を追い越して走る」必要性は皆無であるということだ。

一方、マルスディはインドネシア大統領ジョコ・ウィドドの後押しを受けながら、何らの疑問を差しはさむ余地もなく、シンガポールとは全く異なる方向へ一貫して進んでいた。ウェザービーが指摘するように、ASEAN独自のインド太平洋構想に関する合意形成を果たすだけでなく、ASEANにおけるインドネシアのリーダーシップと「世界の中堅国家」(global middle power)[9]としての地位を確立することも同国の目的であることをマルスディは明らかにしている。

これはマルスディ自身の評価を向上させる試みであるかのようだ。というのも、2019年4月にインドネシアでは議会選挙と大統領選挙が控えていたからだ。10月の新政権発足を前に、彼女は恐らく自身の政治家としての将来に思いを馳せただろう。(自国の選挙日程に合わせるという意味において)タイムリーなAOIPの採択を確実化することで、マルスディは外務大臣のポストを維持できる可能性を高めようとしていたのではないか。

しかし、2018年の終わりに至るまで、インドネシア以外のASEAN加盟国がマルスディの努力を前向きに受け止めようとする明らかな兆候は見られなかった。

しかも、11月にシンガポールで開催された第13回東アジア首脳会議の場で、同国首相は議長演説の際に、AOIPに関する議論の進捗は思わしくなく、まだ発効できるレベルには至っていないとの見解を述べている。この演説内容をまとめた公式文書では、首脳会議が「インド太平洋構想に関して幅広く議論した」という点と、ASEAN加盟国はインド太平洋地域での「集団的協力」に関する課題全般について引き続き意見交換を行っていくという点しか言及されていない。どのような方法でいつまでにこの議論を終わらせるつもりなのだろうか。その内容に関しては同文書上に記載されていないどころか、首脳会議の場でインドネシア版のインド太平洋構想が紹介されたこと、またインドネシア大統領自身がプレゼンを実施したという点にも触れられていない[10]。

Quadが差し出す「救いの手」

2019年に入ると、インドネシアは自国が提案するインド太平洋構想の採択に向けた外交を本格化させた。まず1月にASEAN外務大臣級会合を、続いて3月に高官級会合を実施したが、その際シンガポールにとって何らかの同意し難い項目がインドネシアの提案内容に含まれていることが明らかとなった。この交渉過程を取材していたジャーナリスト達は、シンガポールの要求の真意を詮索しようと機会さえあれば関係者に質問を投げかけていたが、何ら具体的な回答を得られなかったものと思われる。

5月31日時点でも、「10カ国」首脳らがAOIP合意文書を取り纏め、タイ(2019年ASEAN首脳会議の議長国)の首都バンコクで6月に開催される首脳会議で承認するという期待は依然として薄かった。しかし、この停滞するAOIPプロジェクトに「救いの手」を差し出したのは、同日5月31日にバンコクで日米豪印協議を実施していたQUAD高官達だった。

この協議の結果を報告した米国務省のプレスリリースは2つの段落で構成されている。第一段落は非常に長文且つ大袈裟な調子で書かれており、「4か国」が共通の目標と優先事項を確認し、それに向けた取組を継続する旨が言及さている。一見、この段落はASEANと直接的な関連性がなさそうに見える。しかし実はほとんど全体に亘り、AOIP最終稿(まだ公になっていないにも拘わらず!)の記載内容に呼応する表現か、まったく同じ文章が用いられている。かの有名な「自由で開かれた地域」という命題は通常ASEAN諸国の神経を緊張させるものだが、彼らの趣向に合わせる形で「自由で開かれた包括的なインド太平洋(太字筆者)」と表現された。

冗長な「序章」は、かなり真面目な読者のみを対象にしたものであるが、その後に続く短い2段落目は完結なものだ。そこでは、「4か国」がASEANの「インド太平洋構想」の取纏めに向けた努力を歓迎し、地域課題におけるASEANの「中心的役割」と、ASEANが主導する「地域協力枠組み」に対する強固な支援を行っていくという点のみが言及されている[11]。

AOIP交渉の経過とその行詰まりに関する内部関係者筋の最も詳細な情報から、QUAD参加国は、交渉に臨む特定の側(当然AOIPを支持する多数派)と、言うまでもなくQUAD自身の側に有利な状況を作り上げようとしていたのだと考えざるを得ない。これが事実だとすれば、中立のように見える「ASEANのインド太平洋構想」がQUADのために効果的に機能し、逆に主要な競争相手である中国の利益を棄損するという重要な事実を4か国が見落としているわけがないだろう。「インド太平洋構想」の検討作業は、ASEAN・QUAD間の「橋渡し」を便利にカモフラージュできる道具に見えてくる。

このような状況下でシンガポールは、最終的な事の成行きである6月のバンコク首脳会議でのAOIP最終稿承認という現実の不可避性を受け入れるしかなかった。最も驚くべきことに、シンガポールは承認1週間前の段階になっても「インド太平洋構想」への反対を引き続き表明していただけでなく、承認から1か月後に開催された年次ASEAN外相会議と政府高官会合の前日にもAOIP採択に不満の色を示していた。ただし、シンガポールはこの時も具体的にAOIPの何がいけなかったのかを明らかにしていない。

こうしたシンガポールの振舞いは、もし同国の意向が公になり人々の知るところとなったら、QUADとシンガポール自身を含むASEAN諸国の双方に不都合が生じることが理由ではないだろうか。そう仮定した場合、どのような不都合が考えられるだろうか。

まず、ASEANが「インド太平洋構想」の作成段階で提示したQUAD寄りの傾向(つまりワシントン寄りの傾向)は、恐らくシンガポールの方向性と一致しなかったのだろう。シンガポールは2010年代後半の米国の振舞いに益々不信感を高めており、中国との関係性の強化を指向していた。この傾向は、地元メディアがはっきりと伝えているように、習近平が呼び掛ける保護主義との闘いを支持し南シナ海というデリケートな問題に対し自国の立場を厳格化することを不本意とするシンガポールの態度が物語っている。そして、例によってシンガポールの外交路線の曲がり角には、貿易収支の上昇と中国本土からの資本流入と、投資家がオフショアとして香港を見限りシンガポールへ資金を移動することによって火が付いた経済的利害が潜んでいる。

しかし、シンガポール政府のトップが「ASEAN独自のインド太平洋構想」の作成そのものに難色を示し、問題の本質とは直接関係のない理由から構想の取纏めを加速させようとする動きに反対し、そして最終的に仕上がった文書の質を認めない気配があったことをどうして思い出さずにいられるだろうか。確かにウェザービーだけでなく他の分析家(例えば、シンガポール国際戦略研究所(IISS)のアーロン・コーネル)もAOIPの中身の薄さを指摘している[15]。実際に彼らは、たとえASEANが米国と中国という2つの覇権国家の間で上手く立ち回ることを意図してAOIPを作成したとしても、ASEANに対する米中の評価は決して向上しないだろうと警告している。

それでも、このような「些事」がASEAN諸国のリーダー達にAOIPの採択を思い留まらせることはなく、結果的にマルスディは外務大臣のポストを守った。2019年終わりから2020年初めにかけてのマルスディの会合や外交訪問の予定から、彼女は短期的目標として、米国のQUADパートナーであるオーストラリア・インド・日本とインドネシアとの関係性の強化に注力しようとしていたものと見られる。

しかし丁度その時、新型コロナウイルスが世界を襲った。

新型コロナウイルス時代の新たな体制:QUAD+

コロナウイルスパンデミックは、純粋に医学的な問題を生じさせただけでなく、国境を越え相互に作用する東南アジアの(この地域のみに限らないが)経済活動に関係するあらゆるセクター・事業体・事業領域を一挙に逼迫させてしまった。輸出製品生産・国際通商・バリューチェーン機能・国際旅客輸送・中小企業が極めて広く参入する巨大なサービス業界(数百万人もの顧客を対象とする旅行業も含まれる)など、数々の経済活動がコロナの被害を受けた。端的に言えば、これらは全てASEAN「10カ国」がグローバリゼーションとリージョナリゼーションのプロセスに上手く接続したことで作られ獲得された成果なのだ。これらのプロセスは、まだ穏やかだった四半世紀に亘り、アジア太平洋という枠組みの中で米国と中国が共同で「推進していた」。

今や米国は、中国への圧力を急激に強めると同時にその方法を体系化させる為の口実としてコロナウイルスの問題を利用している。そして、一方では無責任にパンデミックの破壊的影響を増大させ、他方では中国に対し所謂独自の疑問を持つという地域政治の主体に向けて、自身を「混沌への水先案内人」として執拗に売り込んでいた。

2020年3月21日付の「The Times of India」紙には、この報道前日の20日に米国務副長官スティーブン・ビーガンの提案で電話会議が実施され、QUAD参加国の政府関係者に加えて韓国・ニュージーランド・ベトナムの代表が出席し、コロナウイルスの共同対応に関する協議を行ったとの情報爆弾が投下された[16]。

このニュースの重大性と米政府主導の歩みに込められた意味を検討するためには、有名な米国企業「Rand」の職員デレク・グロスマンの論説を参照するのが良い。この記事は、QUAD協議の再開から約1年後の2018年10月に発表された[17]。筆者によれば、このような米国主導の動きは重要ではあるが十分とは言えない。なぜなら「4か国」が独力のみに頼るのならばQUADは有効に機能し続けることができないからだ(とは言え、QUADが中国の動きを抑止するという主要ミッション達成に向けた行動に踏み切らないまま2008年に破綻した時のように、再び離散することもないだろうとされている)。グロスマンは、QUADにはインド太平洋地域におけるより広範な協力関係が不可欠であり、その協力をASEAN諸国全てから得ることはまだ現実的ではないが、まずはせめて1カ国からの支援が必要だと述べている。

そのような支援がない限り、中国はQUADの努力を単純に西側によるいつもの反中政策と同一視するだけだろうとグロスマンは警告する。彼はまた、「4か国」に与すると考えられる候補国としてインドネシア・フィリピン・マレーシアを各々評価した後、ベトナムとの協業に注目すべきと提言している。ベトナムは、南シナ海における中国の行動に強い懸念を持つと同時に、QUADメンバー全てとの軍事協力関係を強化しようとしている。なお参画方法に関しては、ASEANが設けているような対話パートナー制度か、ASEAN諸国の代表が参加するQUAD+の枠組みでの専門家会合を検討すべきだとしている。

グロスマンは、ASEANを弱体化させることでQUADを強化するという構想を唱えている。この驚くほど

率直な態度そのものが、アジアに本当の新時代が訪れることを物語っている。これと同じ位重要なのは、彼の提言が認められ、機会があれば即座に行動に移すべきだとされている点である。QUAD+の枠組みで初めて実施された電話会合は週次で行われるようになり、間を置かずに次回会合が開催された。彼らのアジェンダが拡大しているのは知られているが、議論の結果に関する詳細な報告は何も公にされていない。

まとめと結論

米大統領選終了後の2020年暮れ、インド太平洋という「鉱脈」の採掘を専門とする海外評論家の間でかつての議論が再開した。それは自然と新たな活気を取り戻したかのような再開のしかただった。以前この議論は、QUADの形成が初めて試みられた時と同じ位の時期から突如発生し、火が消えるように静かになっていた。論じられているのはQUADという協力体の将来だけではない。QUADを北大西洋条約機構に似せた姿で再構築すべき時ではないかという問いも議論の焦点である。こうした意見交換には、QUADという大規模な企ての実現に貢献できる主体はなにも「4か国」に限らないのだという言外の意味が込められているものと考えられる。

評論家の意見によれば、軍事力の相互運用性の強化、通信や兵站分野における相互協力、テロリズムへの共同対策、インテリジェンス協力、サイバーセキュリティ、AIの軍事利用などといった課題を「アジアのNATO」に取り組ませるのが良いと考えられている。

しかし、中国への全面的対抗というトランプ大統領が描いた方向性を、バイデン大統領も維持するということに確信を持てない人々が、このような遠大な計画を進めることなどあり得るだろうか。また、もしこの方向性が変化したとしても、それは戦術的なものに留まり国家戦略は根本的に変わらないのだろうか。個人的にはそのようなことは信じがたい。

中国の同胞が、ホワイトハウスの新たな主人の「なだめるような」言動に影響されて、米国務長官マイク・ポンペオによる2020年7月24日の「歴史的演説」をすっかり忘れてしまうだろうと我々は考えるべきなのか。ポンペオは、新たな冷戦の始まりを事実上宣言し、中国の体制変更をちらつかせて脅迫した。中国がこれを忘却すると考えるのはお人よしの発想である。

私は、米中関係が過去5年間の間に「取返しのつかないところ」まで来てしまったという考えを今後も堅持するつもりだ。そのようなことはないという確証を私自身が得るまで、この主張は変わらないだろう。米中の間柄は、相互依存と生産的協力という分厚い殻の下に潜む対立要素が徐々に蓄積される関係性から、鬱積した対立感情が他の全てを圧倒するほど強烈で決定的となる関係性に変わった。これこそ、マルクス主義者が言うところの量から質への飛躍的転化の典型例である。

以上を踏まえて本考察の主題に話を戻す。結論として以下の項目を提示する:

  • ロシア連邦の戦略的パートナーとしての地位を享受するASEANは、現在の地域情勢において、前時代に確立した国際的立場を今後どのように保持すればよいのかという問いに対し、10カ国の間で明確に統一された解を有していない。
  • 「ASEAN独自のインド太平洋構想」は、迅速に変化する世界においての行動指針として作成されたが、そのような性格は2019年6月の採択時点で既に薄れていた。現在に至っては益々本来の機能を失っている。
  • 今日、アジア太平洋の多国間協力枠組みは過去の遺物となりつつある。それは、米国と中国の戦略的利益が大きく異なることに起因するが、大部分は不安定化をもたらす米国の大規模な行動に責任がある。他方でインド太平洋という枠組みが、アジア太平洋の生産性に比肩する新たな協力枠組みとして機能するとも考えられない。なぜなら、インド太平洋構想を支持する国同士でさえ異なる概念や戦略を提唱している上に、米国が強硬な中国封じ込め路線を取っているからだ。

以上を総合しながら、私はこの意見に共鳴するかのようなシンガポール首相の論説を思い出さずにはいられない。この記事は、昨年夏に米国の雑誌『Foreign Affairs』で発表されたものである。その要旨は「脅威にさらされるアジアの世紀」[19]というタイトルに集約されている。米中衝突によって生じるリスクは、ただアジアを揺るがすだけでなく、将来の経済成長をも困難にするという点を筆者は強調する。現在の情勢は、すでに歴史の地平線上に姿を現したかのように言われる「アジアの世紀」の到来が、全く必然的でも運命的でもないということを我々に考えさせる。

実際に、リー・クアン・ユーは「アジアの世紀」を夢見て共感する人々全てに対し、次のように警告している。「真に重要な目標へ向かう途上では、昨日より困難な数々の障害が今日という日に生じるものだ」。

私はこの警告に次の言葉を付け足したい。「このような障害が発生するという事実こそ、現代世界で繰り広げられる『日の当たる場所』を巡る争いが、極めて深刻に悪化する兆候なのである」と。 

最後に、この世界をあるがままに見る能力と、新たなアジアの現実を十分に理解する能力こそが、ロシアのアジア政策を成功させる上で欠かせない条件であると強調し本稿の結びとする。

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1ASEAN Outlook on the Indo-Pacific // URL: https://asean.org/asean-outlook-indo-pacific/  (accessed 21.11.2020).

22018 Annual press statement of the Minister of Foreign Affairs of the Republic of Indonesia H.E. Retno L.P. Marsudi. Jakarta. 09.01.2018. P. 13 (accessed 21.11.2020).

3The United States welcomes the «ASEAN Outlook on the Indo-Pacific» / U.S. Department of State. Press Statement. 02.07.2019 (accessed 21.11.2020). 

42019 Annual press statement of the Minister of Foreign Affairs of the Republic of Indonesia. Jakarta. 09.01.2019. P. 16 (accessed 21.11.2020).

5Однако Индия (имевшая в 2018-2019 гг. совокупный дефицит в торговле с 11 из 15 потенциальных партнеров по РВЭП в размере 105 млрд. долл., из которых на Китай приходилось 53 млрд.) не изменила свою позицию, ввиду чего данное соглашение пришлось подписывать в ноябре 2020 г. без нее. Это обстоятельство прямо отразилось на расстановке сил внутри новой группировки. Ведь АСЕАН, заботясь, как всегда, о поддержании в ней своей центральной позиции, на этапе переговоров исходила из того, что экономическую мощь Китая будет уравновешивать тандем Япония – Индия. Теперь эта возможность отпала – притом что внутри РВЭП отношениями свободной торговли оказались связаны, впервые в своей истории, три экономических колосса Северо-Восточной Азии – Китай, Япония и Южная Корея. Понятно, почему проект, инициированный асеановцами, воспринимается многими комментаторами как победа Пекина. См.: Сделка прошла онлайн. 15 стран Азии договорились о зоне свободной торговли // Российская газета. 15.11.2020 // URL: https://rg.ru/2020/11/15/v-azii-podpisano-besprecedentnoe-ekonomicheskoe-soglashenie.html (дата обращения: 21.11.2020); India withdraws from RCEP // GKToday. 06.11.2019 // URL: https://www.gktoday.in/topics/rcep/ (accessed 05.12.2020).

6Weatherbee D.E. Indonesia, ASEAN, and the Indo-Pacific cooperation concept // ISEAS Perspective. Singapore. №47. 07.07.2019. P. 1.

7Singapore’s Lee Hsien Loong on the U.S. election, free trade and why government isn’t a startup // Time. 26.10.2016 (accessed 21.11.2020). 

8Yong Ch. Singapore not joining US, Japan-led free and open Indo-Pacific for now: Vivian Balakrishnan // The Straits Times. 14.05.2018 (accessed 21.11.2020).

9Цит. по: Weatherbee D.E. Op. cit. P. 6.

10Chairman’s statement of the 13th East Asia Summit. Singapore. 15 November 2018; 2019 Annual press statement of the Minister of Foreign Affairs of the Republic of Indonesia. Jakarta. 09.01.2019. Р. 16 (accessed 21.11.2020).

11U.S.-Australia-India-Japan Consultations («The Quad») / U.S. Department of State. Media Note. 31.05.2019 (accessed 21.11.2020).

12Resty Woro Yuniar. Indonesia reveals frustration with Singapore over delay in ASEAN adopting President Joko Widodo’s Indo-Pacific concept // South China Morning Post. 16.06.2019 (accessed 21.11.2020); Marwaan Macan-Markar. Indonesia and Singapore feud over ASEAN engagement in Indo-Pacific // Nikkei ASEAN Review. 19.07.2019 (accessed 21.11.2020).

13Heydarian R.J. Singapore-led ASEAN favors China over US // Asia Times. 30.04.2018 (accessed 21.11.2020).

14Ушаков С. Сингапур становится ближе к Поднебесной // Независимая газета. 17.06.2020 (дата обращения: 21.11.2020).

15Resty Woro Yuniar. Op. cit.

16Indrani Bagchi. India joins hands with NZ, Vietnam, S Korea to combat pandemic // The Times of India. 21.03.2020 (accessed 21.11.2020).

17Grossman D. The Quad is not enough // Foreign Policy. 19.10.2018. В краткой биографической справке об авторе сообщается, что до перехода в «Рэнд» на должность старшего аналитика он служил в Пентагоне, где в его обязанности входило ежедневное представление разведывательной информации помощнику министра обороны США по делам азиатской и тихоокеанской безопасности. 

18Manoj Rawat. Quad 2.0 is off to a good start – it must keep going // The Diplomat. 23.11.2020 (accessed 05.12.2020); Babones S. The Quad’s Malabar exercises point the way to an Asian NATO // The Diplomat. 25.11.2020 (accessed 05.12.2020); Abhijinan Rei. Artificial Intelligence for the Indo-Pacific: a blueprint for 2030 // The Diplomat. 27.11.2020 (accessed 05.12.2020). 19Lee Hsien Loong. The endangered Asian Century: America, China, and the perils of confrontation // Foreign Affairs. Vol. 99. №4. July/August 2020.