ウラジスラフ・グレヴィチ 国際政治評論家

イタリアは近年、主に地中海、バルカン諸国、EU内といった、伝統的に重要視している地域において、積極的な外交を展開している。それら地域の真ん中に位置するイタリアは、自らの地政学的ステータスの向上を狙っており、その方針は今年も維持されるだろう。

イタリアにとって、ウクライナ危機が焦点となることは疑いない。イタリアのジョルジャ・メローニ首相が最近、ゼレンスキー政権への対空防衛システムの供与と1000万ユーロ支援を表明したこともそれを裏付けている(1)。2014年以前には、対ウクライナ政策はイタリアにとっては主要な課題ではなかったが、ウクライナ問題で仲介役を買って出ているフランスとドイツの動きを受けて、イタリアもこの問題においてより積極的な外交を求められている。

しかし、イタリアがウクライナを支援しているのは、ロシアの特別軍事作戦によるのではなく、フランスとドイツの行動が、欧州政治におけるイタリアの「中心性(la centralità)を脅かしているからだ(2)。冷戦時代、社会主義ユーゴスラヴィアと国境を接するイタリアは、アメリカにとってはなくてはならない同盟国だった。ソ連邦及びユーゴスラヴィア崩壊後、イタリアの地政学的重要性は低下し、EU内及びNATO東翼におけるフランスとドイツの活発化によって、イタリアの役割は地域的なものへと変化した。イタリアの立場は、地中海及びバルカン諸国の一部の文脈において意味を持った。しかしこの地域においても、アメリカ、EU及びフランス・ドイツの陰で、イタリアの声はかき消されがちとなった。

EU内に仏独の二頭体制が出来上がることは、イタリアがEU内の政策決定プロセスから除外されることを意味し、イタリアにとって望ましいことではない。フランスとドイツは、EUをさらに自立的なものとし、さらにはその中でフランスとドイツがより自立的な存在になることを目指している。仏独という地政学的軸が出来上がることによって、欧州政治におけるイタリアの「中心性」は失われてしまう。現在イタリアが、アメリカと同調する政策に舵を切ったのは、欧州内におけるアングロサクソンの影響力を強化することで、仏独の影響力に対抗することを狙ったものだ。

この点、外交は経済的利害とも絡んでいる。ヨーロッパにおいて豊かな北側は、イタリアをいわゆる「PIGS(ポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペイン)」として、EUからの恒常的な財政支援が必要な国としている。フランスとドイツ、さらにオーストリア、オランダ、ベルギーは、イタリアの「中心性」が、欧州財政にとっての負担だと考えている。2014年のウクライナ危機は、イタリアが、不法移民問題やコソボ問題、リビア問題という狭い範囲から抜け出し、欧州政治のメインストリームへと復帰するためのチャンスを提供した。

イタリアの報道では、フランスとドイツが、軍事力と経済力という、いわば国家の機能性に基づいた「欧州主義」によって、EUを支配しようとしていることへの批判が声高に叫ばれ、イタリア的欧州主義とは、物質的なものではない、文化的な欧州的アイデンティティーに基づいたものだとの主張が行われている(2)。

今年、イタリア外交が直面する課題は簡単なものではないものの、それは達成可能な課題である。まず第一に、ウクライナ情勢に関連する政治プロセスに参加し続けることだ。東欧は現在、ロシア封じ込めにおける西側の拠点となっており、さらにハンガリーなどの東欧諸国とロシアとの結びつきを破壊しようという試みも行われている。

そのプロセスへの関与を続けることで、イタリアはアメリカ及びNATOにとっての自らの重要性を維持することができる。ウクライナへのイタリアによる武器支援は2023年も継続され、それは欧州政治内において、イタリアが仏独と対等な立場を獲得できるまで続くと考えられる。このイタリアの方向性が変わるとすれば、それはイタリア国内における政治情勢の変化、もしくは山積する社会経済問題の深刻化しかない。

しかしそのような問題を解決するためには、イタリア全体の経済状況の改善が求められる。そのためには、欧州経済の構造を変える必要がある。現在、スカンジナヴィアをはじめとする豊かな資源が、ドイツ、オランダ、オーストリアの工業生産を支えている。欧州経済の「動脈」はイタリアとはつながっておらず、残されたものと言えば、不法移民や不安定なリビア情勢などの問題だけなのだ。

イタリアがそのようなスパイラルから脱出するためには、NATO東翼における積極的な外交を展開することしかない。ルーマニア及びハンガリーにおけるイタリア軍の駐留、ブルガリアにおける戦闘指揮の引き受けは、NATO内における地政学的ステータスを向上させるための布石と言える。深刻な危機の解決に貢献する能力のある「欧州の大国」としての自国の権威を高めることなくして、イタリアが、EU内における既存の経済的・財政的・政治軍事的な資源配分の仕組みに食い込んでいくことはできない。

アメリカの欧州政策を支持することによってイタリアは、黒海地域におけるアメリカの同盟国であるルーマニア及びブルガリアとの協力を拡大することができる。イタリアにとって地中海は不可欠な重要地域であり、サルディニアからクリミアに至る地中海=黒海ラインへの直接・関節の影響力の維持を狙う。

イタリアの東方政策においてポイントとなるのが、黒海地域に大きな野心を抱くルーマニアだ。ルーマニアにはフランスも接近しており、これはイタリアとフランスの接近を、一定程度促すことにもなる。フランスとイタリアにとって、ルーマニアとの軍事協力は、黒海から地中海に至るルートにおけるロシア封じ込めのメカニズムとなる。またブルガリアはイタリアにとって、黒海におけるプレゼンスを強化し、ギリシャ・トルコの関係が緊張化した際に有利なポジションを獲得するために必要だ。

またイタリアは、バルカン問題においても積極的な役割を果たそうとするだろう(3)。それによってイタリアは、冷戦時代のように親米的な仲介者としての立場を再び獲得することができる。ここで重要なのが、アルバニアとの政治的関係の強化だ。イタリアの西方政策においては、アメリカとの接近が、外交政策の柱になるだろう。ドイツとの関係は冷却化する可能性が高いが、フランスとの間では協力強化に関する二国間条約(Trattato del Quirinale)がある。フランスにとっては、ドイツの影響力を抑制するためのものであることが明らかだ。イタリアは歴史的に、ドイツよりもフランスとの間でより緊密な関係を結んできた。仏伊の接近が継続するかどうかは、不法移民問題の解決と、地中海をめぐるその他の問題がうまく解決されるかどうかにかかっている。


筆者の意見は編集部の意見を反映したものではありません。

1) https://rusvesna.su/news/1672171077

2) https://www.geopop.it/limportanza-geopolitica-e-il-ruolo-dellitalia-e-gli-interessi-strategici-del-nostro-paese/

3) https://insideover.ilgiornale.it/senza-categoria/perche-governo-italiano-balcani.html

https://interaffairs.ru/news/show/38476

By KokusaiSeikatsu

『国際生活』はロシア連邦外務省を発起人とする、国際政治、外交、国家安全保障の問題を取り扱う月刊誌です。創刊号は1922年、『外務人民委員部週報』として出版され、1954年に『国際生活』として、月刊誌として復刊しました。今日、ロシア国内だけでなく、世界各国においても幅広い読者を獲得しています。