考える人の外交雑誌『国際生活』主催、2020年12月10日

(翻訳:安本浩祥)

アルメン・アガネシアン、『国際生活』編集長: 一年前、ロシア、フランス、ドイツおよびウクライナの首脳がパリで会談し、ウクライナでの紛争解決を話し合いました。ウクライナ南東部の情勢が行き詰まりを見せる中、ノルマンディー・フォーマットの首脳会談が開かれたことは、状況打開を予感させる出来事でした。しかし、ウクライナ側は調印した約束を守らず、状況は再び振出しに戻ってしまいました。ウクライナの内戦は相変わらず、ロシアとヨーロッパの間で不和の種となり、欧州全体の安全保障に影響を与えています。内戦はウクライナの国家体制と経済を破壊し、国民同士の分裂をますます広げる結果となっています。ウクライナとドンバスの将来はどうなるのでしょうか?ミンスク・プロセスは、その参加者の希望に沿うものとなっているのでしょうか?

ヤロスラフ・バシタ、政治家、外交官、元駐ロシア及び駐ウクライナチェコ大使: 私はウクライナで勤務した頃から、ウクライナ情勢には関心を持ち続けています。また独立系メディア連盟の会員として、人権問題や言論の自由、自由なジャーナリズムの活動に携わっています。ですから、ウクライナ情勢をかなり批判的に見ています。ウクライナは不安定の中心地であり、近隣諸国全てにとって危険な存在です。チェコにとっても、直接の国境は接していませんが、危険であることには変わりありません。

ウラジーミル・ジャリーヒン、CIS研究所副所長: ウクライナ情勢を懸念する理由は、我々がスラヴ民族として近しい関係にあるからというだけでなく、ウクライナ情勢が、ロシアとヨーロッパとの関係に大きく影響するからであり、ヨーロッパ大陸の安定がそれにかかっているからです。そのため、ミンスク合意が締結されたとき、軍事行動の停止と状況の安定化が期待されました。しかしウクライナ指導部は、クーデターの時に自ら選択した地政学的方針を変えようとはせず、またウクライナに大きな影響力をもつアメリカも、ヨーロッパとロシアによって合意されたこの妥協案の実現に積極的ではありませんでした。アメリカはこの紛争を泥沼化させておくこと、つまり、対立、小規模な銃撃戦、ウクライナ南東部及び各地での問題、そういったことを維持し、いつでも状況をエスカレートさせる可能性を保持することを望んでいます。残念ながら、まさにこのようなシナリオ通りになってしまいました。

ミンスク合意が結ばれたとき、ウクライナ指導部は絶望的な状態でした。軍事的にいくつかの敗北を喫し、軍事行動が停止されなければ、キエフでの政権を失うことが危惧されました。そのため、決定的な軍事的打撃を回避するためなら、どんな文書にでも調印したのです。しかしその内容を守るつもりは端からありませんでした。

アメリカはウクライナのこの方針をもちろん支持しました。さらにヨーロッパ各国が国際舞台で独自の外交を展開できないことをいいことに、イニシアティブを横取りしたのです。ロシアのスルコフ大統領補佐官とアメリカのヴォルカー特使との交渉の場に、問題解決が委ねられたのも偶然ではありません。アメリカは、軍事的安全について定めた合意の始めの部分を拡大解釈する機会を逃しませんでした。つまりアメリカにとっての安全とは、ドンバスの機構の完全な解体であり、ウクライナ軍のドンバス内への進駐、ロシアとドネツク人民共和国及びルガンスク人民共和国との国境のコントロールであり、つまり、無条件降伏を求めてきたわけです。もちろん、これにより交渉は行き詰まってしまいました。

結果として、ウクライナの政権は自らの権力を強化し、体制側のプロパガンダを行うマスメディアを固めています。IMFによる融資により、経済は一定程度安定化し、軍備も近代化しました。現在のウクライナは、6年前のウクライナではありません。ミンスク合意を守ろうとする意志も毛頭ありません。さらに、当初作ろうとした国の形が実現する見込みもほとんど消えてしまいました。というのも、ドネツク人民共和国も、ルガンスク人民共和国も、現在のウクライナ国家のなかでの代表を持っていないからです。

そのため、2014年に起こったような大規模な軍事衝突が再発する可能性は低いでしょう。大きな影響力を持つアメリカを含めて、どちら側もそのようなエスカレーションを望んではいないからです。私はアメリカの共和党も民主党も、ロシアと旧ソ連地域に対する立場は一緒だと考えています。唯一の違いは、トランプは、プーチンがすぐれた人物だと口では言いながらも、実際にはひどいことをしたのに対し、バイデンは、プーチンが暴君であり独裁者であると言いながら、実際にもひどいことをするだろう、ということです。

ウクライナ危機は、ロシアとヨーロッパの問題であり、我々が協力して解決すべき問題です。この急激に変化する世界のなかで、ヨーロッパの安定を最大限に保障するには、そうするしかないのです。

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ウラジーミル・プラロク、政治学者、ヤン・アモス・コメンスキ大学講師: アメリカの目的はおそらく、ウクライナをロシアから切り離すことでしょう。ロシアが負けるのは、ウクライナ、カフカス、中央アジアを失うときだけだ、と指摘したズビグネフ・ブレジンスキーの考え方に通じるものです。一方、ヨーロッパがウクライナのクーデターを支持したのは、ウクライナを西側経済に組み込むことで、ヨーロッパからロシアへウクライナ経由で商品を輸出するのが目的です。第一にヨーロッパは、ロシアが税関を制限するとは考えていませんでした。第二に、ヨーロッパは、ウクライナを失ったロシアがすぐに崩壊すると期待していました。之もブレジンスキーの考えですが、ロシア周辺で起こる民主革命はいかなるものであれ、ロシアを弱体化させるものであり、西側はそれを支援しなくてはならないのです。だからこそ、西側はウクライナのクーデターを支持したのだと私は思います。そもそも、ロシアに対する制裁を主張したのはアメリカで、西欧はそれを避けようとしました。なぜでしょうか?なぜなら、ヨーロッパとロシアの貿易は約4000億ユーロに対し、アメリカとロシアは900億ドルでヨーロッパの損失の方が多いからです。しかし最終的には、ヨーロッパも制裁を支持するよう、アメリカは影響力を行使しました。

 ロシアが自らの負けを認め、西側にウクライナを引き渡すとみられていました。しかし、ロシアの行動により、西側はこのラウンドでは負けてしまいました。問題は、現在各国の思惑がどこにあるかということ。経済においては制裁により、西欧はアメリカよりも多くを失っています。トランプが大統領になった時、彼はビジネスマンとして制裁を解除するのではと期待されました。しかし、トランプは制裁を解除しませんでした。ヨーロッパは当初、制裁を望まなかったにもかかわらず、現在のところ毎年それを支持しています。ヨーロッパは自己矛盾しているのですが、なぜなのでしょう?トランプに対してと同様、西側のエリートや政治家たちに対しても、何らかの圧力が働いているのかもしれません。彼らは面子を大事にします。最近、有名なウクライナのジャーナリストが言ったことですが、多くの人がウクライナの事件がどのように起こったのかを知ってはいるが、それを口に出すことはない、なぜなら死にたくないからだ、というのです。

ロシアの国境で不安定の温床を作り出すというのは、ロシアから西欧を切り離そうという試みです。ロシアとドイツが一緒になるというような考えは、アメリカ人を恐怖に陥れるものです。ウクライナでの出来事は、まさにドイツを中心とした西ヨーロッパとロシアを切り離すものです。この試みがうまくいかないことを望みます。

ウクライナがロシアとの協力に向かえば、制裁は解除され、西側のエリートたちは面子を失います。これは彼らにとっては許されないことです。

ウクライナ情勢の展望ですが、基本的にウクライナは対外債務を支払うことは出来ません。西側の誰かが気付かないといけないのですが、ウクライナはロシアとの貿易を通じてしか稼ぐことができないのです。しかし、西側がこれに納得することはないでしょう。それでは、とにかくあるものをすべて吐き出させて、債務を支払わせるしかありません。これはウクライナにとっては、ロシアからの介入なくして、国内政治が崩壊することです。西側はそんなことはどうでもいいのです。誰も債務を払う人がいなくなっても、です。これが私の予測です。

アルメン・アガネシアン: そうですね、実際これはウクライナの分割、崩壊ですね。ヨーロッパとロシアにとっての経済的な影響について考えたいのですが、ウクライナ経済の危機的状況を示す統計があります。昨年の同じ時期に比べての下げ幅は、軽工業で17%、木材加工では12%、鉄鋼では15%、機械では23%、自動車では31%となっています。労働人口の10人に1人が失業者です。この状況はウクライナはもちろん、ロシアとヨーロッパにとっても脅威であり課題です。仕事を求めてヨーロッパ各国及びロシアにやってくる移民についても忘れてはなりません。

ロスチスラフ・イシチェンコ、政治学者: 問題はこれからどうするか、それを考えるためにはウクライナの現状を知らなくてはなりません。西側にとっても、ロシアにとっても、その状況は悲惨です。今の条件下で、ウクライナの出来事に対して、何らかの集団的措置をとること、ロシアとヨーロッパ、アメリカが協力することは、理論的にも考えにくく、実際には不可能です。

残念ながら、ウクライナは単なる分裂国家ではありません。分裂国家であっても、協力により団結させることができるならまだよいのです。ウクライナの分裂は、両者ともに全く歩み寄る余地のない、敵対する対立なのです。彼らは完全にバーチャルな世界で生きています。つまり、私たちが地図上でウクライナを見たり、ウクライナの人々と会ったりするとき、あたかも同じ惑星に同じ環境で生きている人々であるかのように思うのですが、実際には、ウクライナの政治家、さらにはその国民が生きている世界は、私たちが生きている世界と根本的に違っているのです。

問題の始まりは1990年代、クチマ政権下で、現在まで続くオリガルヒ体制が作られた時代にさかのぼります。その体制は非常にうまく作られました。今日のウクライナの政治家、オリガルヒはすべて、クチマによって、彼の時代、彼の努力によってつくられたといわれるのも偶然ではありません。ロシアの株式担保型民営化などは、クチマがウクライナで実施した民営化に比べれば、子供の遊びにすぎません。

 ウクライナの民営化のやり方では、投資家が将来の利益をもって支払いに充てることが出来ました。このやり方では、じっと座っているだけで、いくらでも億万長者になることができます。要は、どんな会社をもらったかということです。このようにウクライナでオリガルヒ(成金)が生まれ、社会では不公平感が充満しました。しかし、ウクライナは分裂国家ですから、その不満は相対する2つの闘争、相対する2つの外交政策といった形で現れたわけです。

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ウクライナでも西部と中央部の地方では、EUに加盟さえすれば、あとは何とかなる、といった考え方が主力でした。つまり、「EUは我々にルールに従うことを教えてくれる」というわけです。一方の東部地方では、ソ連とは言わないまでも、ロシアとの何らかの統一国家、若しくは少なくともロシアとの統合プロセスを強化すること、これさえあれば、あとは何とかなる、なぜなら、また元の通りソ連の頃の幸せな生活が戻ってくる、とこう考えました。繰り返しますが、西ウクライナのナショナルな考え方と、東ウクライナのインターナショナルな考え方という2つの、まったく正反対の政治的立場が存在する限り、それぞれの陣営はより過激となり、対立も深まることになるのです。

その結果、2014年にウクライナが分裂するに至った時、キエフ政権側の多くの地域では、ナショナル=オリガルヒという興味深い構造が出来上がったわけです。つまり、オリガルヒ成金の人々は基本的にはだれが政権に就こうが関心はなく、静かに搾取を続けることが出来ればそれでいいという人々ですが、明らかにナショナルな戦闘的な人々と手を組むことになったのです。

この構造のなかで、2014年のクーデターが、国家社会主義革命という触れ込みで発生しました。ヨーロッパやアメリカの意図とは関係なく、マイダンの人々は、成金を排除して、社会正義を取り戻そう、しかも民族的基盤での社会正義を、と考えました。つまり、市民社会の建設を通じた正義ではなく、民族的ウクライナ国家による正義を目指したのです。これが国家社会主義の理想です。彼らウクライナのナチストたちはしかし、いったん始めた革命を、やり切ることはありませんでした。彼らは政権には就かなかった。そして政権は二面性を持つこととなりました。ナチズム的でありながら、実際にはオリガルヒ的なものとして存在するのです。

東ウクライナも、状況は決して良くありません。ドネツク人民共和国及びルガンスク人民共和国を作った人々は、ここで社会正義を実現するのだと言っていました。我々はここドネツクとルガンスクで小さいソ連を作り上げ、それからロシアに加盟して、次はロシアを変革してやろう、社会正義を実現して、次はロシアのオリガルヒを排除しよう、と考えていたのです。表看板が変わっただけ、中身はおんなじです。西ウクライナは自らのナチズムの過去を基礎としています。脱ソビエト化、脱共産化、レーニン像の破壊とナチスへの協力者の英雄化。一方の東ウクライナはといえば、もう存在しないソ連という過去にロシアを重ねて、そこに戻ろうとしているのです。

これらの考えは、ウクライナで何百万人もの人々をとらえています。ただし西ウクライナの人は、「我々はナチストではない。そもそもナチズム自体この国に存在しない。我々の祖父たちはナチスと戦ったのだから」というでしょう。しかし実際には、民族的ナショナリズムと社会正義という組み合わせは、ヒトラーの突撃隊を駆り立てたのと同じ思想です。一方の東ウクライナの人は、「我々はコミュニストではない。ただ社会正義を目指し、福祉国家を志向しているだけだ」というでしょう。しかし、彼らはもはや失われてしまったもの、取り戻せないものを取り戻そうとしているだけなのです。

そういうわけで、いくらヨーロッパが自分の側のウクライナを支援しようが、またはロシアがいくら自分の側のウクライナを支援しようが、ウクライナ国民が真に望んでいる国家をつくること、かつての「黄金の日々」に戻るようなことは所詮不可能なのです。そのためキエフ政権側の地域においては、ヨーロッパに対する軽い反感さえ見られるようになりました。「EUはウクライナを裏切った、十分な資金援助もない、助けてくれず、救ってもくれない。NATOには入れず、EUにも加盟できず、IMFは融資もしてくれない」という風になっている。

こうなっては、キエフ政権側の政治家たちも、ロシアとのプラグマティックな関係の再開を口にし始めました。IMFもEUもアメリカも金をくれないとなれば、ロシアに出してもらおうというわけです。かつてのように、貿易で十分儲けられるようにしようというのです。しかしこれは無理な相談です、というのもウクライナ経済はダメになってしまい、復興の兆しもないからです。かつてロシアに輸出していたものは、もうロシア自身で生産しているのです。

そのうえウクライナは高度人材を失い、膨大な自国生産を復興する事が出来ません。90年代のように生きていくことは出来ないのです。たとえ、ヨーロッパやロシアが輝かしい未来をウクライナに約束したとしても、分裂する2つのウクライナが同じものを望むことはないのです。ロシアが提供できるものを受け取ろうとしない人々がいると思えば、ヨーロッパが提供するものに反発する人々もいるのです。要はそれぞれが違う方向を向いています。しかし、そのためには外からの支援が必要で、しかも毎年その依存は大きくなっていきます。

すでにウクライナでは、経済を安定させ、何らかの産業を復活させるために何百億ドル毎年必要になるかについて議論が行われています。楽観的な見方でも、5年から20年の間に毎年500億から1000億ドルが必要だと言います。しかしいったい誰がそんなお金を、そもそも実現が不可能なバーチャルな国の建設のために出すというのでしょう?西に向かうにも、東に向かうにも、そもそも不可能なのです。

以上のように、私たちはとても困難な状況にあります。ウクライナは瀕死の状態です。ウクライナは分裂し、国は国としての役割を果たしておらず、国がないのも同然で、いつかこの問題を解決しなくてはいけない時が来ます。そしてこれはチェコにとっての問題である前に、まずはロシアとポーランドの問題でもあります。なぜならウクライナと国境を接しているからです。チェコは直接の国境は接していません。しかし、何かしないといけない、というのと、何をすべきかを理解する、というのはまったく違うことです。

ウクライナの問題はいずれにしても、行くところまで行ってしまわないといけません。そうすれば、新しい段階に行くことができるでしょう。危機はその最後まで行き切ってしまわないといけません。まだ最後まで行っていないのです。繰り返しますが、ウクライナの政治家も、国民も、西側なり東側なりが提案するコンセプトのいずれをも受け入れる準備がありません。それについては残念ながら、私たちではどうすることもできないのです。

マクシム・グリゴリエフ、ロシア連邦社会院メンバー、民主主義問題研究基金代表: 今回のテーマは、2019年12月9日にパリで開かれたノルマンディー・フォーマット首脳会合からの一年を振り返るとのことですが、首脳会合での合意事項の一つに、完全かつ包括的な停戦の確保がありました。一年後の姿はどうでしょうか。ここ数日の様子を見てみましょう。ウクライナ軍海兵隊第35旅団はゴルロフカに対して、82㎜迫撃砲弾18発を発射しました。第36旅団はレンスコエに対して24発発射しましたが、これはウクライナ南東部の町で、民間人しかいないのです。第36旅団は新しい陣地の増強も行っています。そのようにウクライナ側からの砲撃はほぼ毎日報告されています。こうなると停戦どころではありません。しかもこれは、合意事項に対する意図的で、あからさまな違反です。

ウクライナによる合意違反の例をさらに挙げてみましょう。ミンスク合意には、ドンバスの特殊的地位を定めるためのウクライナ憲法の改正が含まれていました。しかし改憲は行われていませんし、ウクライナ政府は改憲するつもりもないとの立場をとっています。2019年9月の時点で、ウクライナ代表団の副団長は、ウクライナ大統領がドンバスの特殊的地位に関する改憲がないことを明確にしたことに言及しています。これはもうはっきりとしたことです。ウクライナは約束を守らないだけでなく、そのことを堂々と表明してはばからない。

同じようなことは前にもありました。例えば2018年、ウクライナ議会はミンスク合意で定められたドンバスとの対話を禁止する法案を可決しました。ウクライナ政府は、ドネツク及びルガンスクにいる人々の特赦に関する合意も守っていません。包囲は逆に強化されています。さらに例を挙げましょう。2020年ウクライナでは地方自治体選挙が行われました。ミンスク合意ではこの選挙はドネツク及びルガンスクでも行われるはずでした。しかし今年ウクライナ議会は、南東部での選挙を禁止する法案を可決しました。このような例はたくさんあります。つまり首脳会合での合意事項をウクライナが守るつもりは一切ないということは明らかなのです。

ウクライナの大統領府は声明のなかで、ドネツク及びルガンスクの代表が出席する交渉には参加しないとしています。一方、私たちからしてみれば、両者が話し合うこと無しにウクライナでの内戦を終わらせることは不可能です。

ウクライナが約束を守ったためしはありません。ですから残念ながらウクライナでの内戦を終わらせる可能性はありませんし、その責任はすべてウクライナ大統領とキエフ政権にあるのです。

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ヤン・キャンプベル、チェコスロバキア海外研究所理事: ウクライナについては、今日のうちに笑っておこう、明日はもっと悪くなるから、というような状況ですね。

ルガンスク、ドネツク、ハリコフシナ、ヘルソンが加わるノヴォロシア構想についていえば、もしこの構想が実現すれば、もうウクライナなんてものはなくなってしまうでしょう。キエフ政権の高官のなかでもそう考えている人たちはいます。

ウクライナの経済指標は世界的に最も低い国の一つで、リビアよりも下です。ポーランドをはじめとする労働ビザを出してくれる国への出稼ぎの人数は多く、今日チェコでの犯罪者のなかで最も割合の大きいのがウクライナ人です。思うにウクライナ人は、たとえ国内の状況が悪くても、自分の国で働く方がいいと思います。ゼレンスキー大統領は住宅公共サービス問題で戦っていますね。住宅公共サービスに関する法律はIMFによるものです。ウクライナ人は自分の家、部屋、土地を愛しています。しかし現在、彼らは19世紀型の奴隷です。もう少し我慢しないといけません。何も戦う必要はないのです。

ウクライナはこれ以上ヨーロッパから金をもらえませんし、バイデンからの支援も期待できないでしょう。ポーランドを経由したヨーロッパへの窓も、それほど確実なものではありません。

ドンバスでの戦闘は、キエフ側の主張によれば、戦闘開始以来最長の133日間という休戦が続いているそうです。にもかかわらず、ウクライナ軍はドローンを使った演習などを続けています。ウクライナ軍は装備をルガンスク及びドネツクとの境界に集め、トルコのドローンも投入しようとしています。

印象としては、現在のウクライナの政権は一時的なものであり、何も解決しません。時間が来れば、ロシアと米国が話し合うでしょう。プーチンの冷静な判断に期待しましょう。いかなる挑発も行われないことを願います。

エヴゲーニ・バクラノフ、人文経済協力基金代表: 私たちの基金は人権侵害や少数民族の権利侵害などの分野において、ウクライナの状況を調査しています。ドンバスでの武力衝突やミンスク合意、さらには一年前のパリで調印された合意などには直接関係ないように思われる問題をここでお話したいと思います。ミンスク合意では、ドンバスのウクライナへの返還が定められています。そのため、ウクライナ国内の状況は非常に重要なのです。ドンバス返還はなにも領土的問題だけでなく、むしろ人道的問題だからです。ウクライナにおける人権問題はとても大切なのです。

残念ながら、2014年のマイダンが起こる前と比べて、今のウクライナはまったく違う国になってしまいました。ウクライナでは反ロシア、ロシア嫌悪の政策がとられており、例えば、ウクライナ語を国家語とする法律では、完全なウクライナ化の推進と、メディアや教育、医療など社会生活全般からロシア語を締め出すということが行われており、ドンバスの住民が果たしてこのような国に戻りたいのかどうか、はなはだ疑問なのです。また教育に関する法律では、2020年9月1日以降、全てのロシア語学校はウクライナ語に移行するとのことです。正統派ウクライナ正教会の信者の権利が圧迫されています。歴史の歪曲、ナチズムへの協力者の英雄視、右翼過激主義の横行、これが今のウクライナなのです。

この問題は象徴的なものです。ロシア及びロシア語話者に限ったものではないからです。例えば11月30日、ウクライナ保安庁はザカルパチア・ハンガリー党のワシリ・ブレゾヴィッチ党首の家宅捜索を行いました。ハンガリー人の各種団体には、ウクライナから退去するようにとの文書が大量に届きました。最悪の場合には、身体的な暴力を脅迫するものまでありました。このような例はたくさんあります。

今年私たちの基金では、ウクライナの仲間たちと協力して、『2019-2020ウクライナでの少数民族の権利侵害』、『ウクライナにおけるナチズム、ネオナチズム、国粋主義の台頭』、『ヨーロッパの国際的観点から見たウクライナにおける政治的及び市民的人権の遵守状況』などの報告書を作成しました。

現在問題となっているのは、ミンスク合意とその実施です。それが完全な形で実施されるためには、一つの条件が必須です。それは議会の解散と統一選挙の実施です。そして、中道左派を中心とした、ロシアとの協力に積極的な政党が多数派になることです。

もしこれがうまくいかないのであれば、ウクライナのテレビでも報道されているような「代替案」がありうるかもしれません。もしかすると、ミンスク合意からウクライナが脱退するかもしれません。ロシアとの制裁解除はどうなるのか、休戦は続くのか。残る問題は、ドンバスの住民が合意から何を得たのか、という点です。

私の意見は、ミンスク合意の完全なる実施のためには、ウクライナの政権の再起動を行って、南東部での紛争を止める覚悟のある政党が議会で多数を占めることが必須条件であるということです。

アガネシアン: 福音書には、「人をその父に、娘を母に、嫁をしゅうとめに。こうして、自分の家族の者が敵となる」と書かれています。ウクライナでの状況は残念ながらまさにこのようなことになっています。内戦が続き、状況がさらに深刻化しています。

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By KokusaiSeikatsu

『国際生活』はロシア連邦外務省を発起人とする、国際政治、外交、国家安全保障の問題を取り扱う月刊誌です。創刊号は1922年、『外務人民委員部週報』として出版され、1954年に『国際生活』として、月刊誌として復刊しました。今日、ロシア国内だけでなく、世界各国においても幅広い読者を獲得しています。