COVID-19状況下におけるデジタル外交発展の新たな傾向

エゴール・レオーノフ

政治学者、歴史学博士

(翻訳:福田知代)

 2020年は、デジタル外交の発展という観点から見れば、大きな意味を持つ一年であった。これには、二つのファクターが関連している。

 第一に、2020年は、10年に渡るデジタル外交の発展における全段階が完成に至ったことについて、何らかの条件的な締めくくりを行ったり、初めての結論を出すことが可能となったりした年である。10年前の2010年9月、「デジタル外交」という概念が使われ始めた。これは、「2011年から2013年のITの発展に関する戦略的計画:デジタル外交」という題名でアメリカ国務省の文書が作成された結果として生まれたものである。この文書の中で、デジタル外交とは、アメリカ政府の外交活動においてSNSを活用することであると定義された。同じ時期に、ITやSNSの急速な発展によってもたらされた、「Twitter外交」を意味するtwiplomacyや、Twitter Revolutionなどの用語も登場した。そしてついに、アメリカ国務省によってインターネット外交の概念的枠組みと方法論的基盤が整備され、さらに、省庁内にこの方面を管理する特別な部署が作られたのである。

 確信を持って言えるのは、デジタル外交はこの10年間で、主に国家のポジティブなイメージと「ソフトパワー」のコンセプトを促進する目的と結びつけられた、まだ形のはっきりとしていない現象から、完全なる戦略へと大きく姿を変えたということである。とりわけ、デジタル外交のツールの再評価がなされた。仮に、かつては、ターゲットであるユーザーを対話や説得によって誘い込むことが基本的に重要視されていたとすれば、現在は、大規模な情報キャンペーンの実施についての話がなされている、というわけである。後者は、「シャープパワー」のコンセプトの実現や、ユーザーの詳細な分析、人々の政治的愛着に関する必要な情報の洗い出しと、人々に対するしかるべき将来的な影響を予測する目的でのビッグデータの利用を暗にほのめかすものである。

 全体として、この10年間は、デジタルテクノロジーの進化と結びついている。2000年代、SNSはまだ新たなユーザーを獲得する段階であり、ラジオ局やテレビ局がインターネット放送に移行しはじめ、そして、国家の省庁や政治家たちがアカウントを取得し、ウェブページを開設していった。それが現在では、人類は、さらに進化したコンピューター・ソフトウェアやAIといったレベルにまで到達することとなり、ビッグデータ、つまり膨大な数のユーザーから得られる情報(ハッシュタグの分析、ユーザーの反応の評価、トップブロガーの台頭と、投稿やコメントの内容分析など)を蓄積させ、分析することが可能となった。このほか、インターネットボットは、ネガティブな情報への反応のメカニズムとして、投稿の作成やメッセージのやり取りのために、より頻繁に利用されている。

 ブロガーの活動は、ますます多くの注目を集めるようになっている。ついでに言えば、現代社会において、ブロガーは、国際関係の分野でのもっとも影響力を持つ人物の一人に数えられているが、これは数年前までは考えられなかったことである。SNSで人気のあるブロガーのフォロワーは数百万に上り、これは一国の人口に匹敵する。ブロゴスフィアの分析とその援用に対する各国の関心が高まっているのは、そのためである。こういった流れの先頭に立っているのは、ワシントンであることに議論の余地はないだろう。アメリカは、外国のブロゴスフィアにおける政治的な力関係を分析するプロジェクトを、およそ10年前、世界に先駆けてハーバード大学で始動させていた。

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 これと並行して、2009年から2010年にかけて、SNSを用いた「サイバー反体制派」(アメリカ政府公式)、つまり、「信用のおけない」国々(イラン、ヴェネズエラ、コロンビア、中国など)における抗議活動の代表者である若年のアクティブなインターネットユーザーを動員し、現行の政権に対する政治的な争いを行うように仕向ける目的で、インターネットの刷新的な開発をテーマとしたさまざまな会議やその他の議論の場に彼らを引き入れるというプロセスが、ワシントンによって開始された。このように、変革を渇望している市民の間でインターネット技術を促進させることを暗にほのめかすハイテクノロジーのアプローチは、民間外交の新たな形である[1]。

 第二に、2020年は、現代のリアルを完璧に変化させる出来事が起こった年であった。COVID-19のパンデミックは、国際関係や外交、国際政治といった分野も含め、デジタル化のプロセスを世界的に加速させることとなった。人類は、インターネット、SNSやそのほかのデジタルサービスのより活発な利用へと強制的に推し進められたのである。

 たとえば、Zoomを使ったビデオ会議は、ビジネスの分野だけでなく、国家レベルでも、奪うことのできない、日常のコミュニケーションの一部となった。多くの国々で、国家の省庁の官僚らはこのサービスをもとに会議を行っているし、学校や高等教育機関で教育活動が行われている、ということにも触れておこう。そのユーザーの獲得には、目を見張るものがある。The New York Timesのデータによれば、Zoomのアプリは毎日60万回近くダウンロードされている[2]。また、2020年春には、アプリの一日のユーザーは2億人に達した。このサービスの人気は、企業の株価を、これまで例を見ないほどに高騰させることにつながった。2020年3月、企業の資本金は436億ドルにまで成長したのである。けれども、Zoomのほかにも、SkypeやMicrosoft Teams、Cisco Webexなどのビデオ会議システムやメッセージングプログラムも需要が高まった。中国では、現地のプラットフォームであるWeChatやTencentの利用促進に弾みがつけられた[3]。

 しかしながら、よくあることであるが、新たなデジタルソリューションとデジタルテクノロジーの利用という形で恩恵を受けることになった人類は、その代償もまた支払うこととなった。デジタル化は、多岐にわたる「挑戦」、とりわけ、個人情報の流出、あるいは個人に関するトータルコントロールという問題と、切っても切り離せない関係にある。後者は、完全に日常的な現実である。まさに中国では、刷新的なテクノロジーの利用という形でのパンデミックへの効果的な対応が、社会にさまざまな反応を引き起こしたようであった。専門家は、事態の進行のコントロールと、検疫の遵守の保障、そして、インターネットサービスのユーザーに関する情報の収集は、単に国家システムと私企業の関心を隠蔽するものにすぎないと確信している。

 同じような状況は、カナダやイギリス、ドイツといったほかの国々でも起こっている。カナダの企業ブルードットは、新型コロナウイルスの感染拡大源となるクラスターを隔離する目的で、AIを活用している。この目的のために、ブルードットはさまざまなインターネット企業(たとえば、GoogleやFacebookのような)から、ユーザーの位置情報、検索結果と、ユーザーがアカウントを所有しているSNSにおけるやり取りやコメントなどの情報を収集している[4]。

 すでに触れたZoomのサービスに関しても、忘れてはならないことがある。コンピュータセキュリティの専門家の意見によれば、これは、「盗み聞き」と、チャット内でやり取りされるファイルにアクセスするにはもってこいのメカニズムであるという。パンデミックが発生している現代のリアルにおけるビデオ会議システムを使った会話は、「家庭の」枠を出て、仕事や機密的な局面へと移行したことを考慮すれば、Zoomや同様の手段は、恐るべき脅威となった。ドイツ外務省が、職員に対してビデオ会議システムの使用を制限したのは、偶然の成り行きではない。スペースX、テスラといった企業や、アメリカのNASAも、同じような方針を取っている[5]。

 ドイツの事例は特徴的である。伝統的に、個人情報保護の問題を慎重に扱うドイツ社会は、世界的なデジタル化の問題におけるリトマス試験紙として見なすことができる。2020年夏、ドイツテレコムとSAPが、COVID-19感染の可能性をスマートフォンの所有者に対して予告するアプリCorona-Warn-Appを開発した。開発者らは、ユーザーの機密性を100%守る、最高レベルでの個人情報保護を保障していた。特に、アプリは、位置情報や人々の移動ルートを特定せず、データの送受信はコード化して行うというものであった。

 それにも関わらず、専門家や一般市民の間で、ユーザー情報の機密性の保障をテーマとした議論が激化した。調査の結果によれば、44%の回答者が、国家が市民の監視のためにアプリを利用するのではないかと危惧していた[6]。このような状況は、アプリの公式リリースが大幅に遅れることにつながった。中国では、同様のアプリが市場に現れたのは3月、つまり、パンデミックが起こってすぐの時期であったのに対して、ドイツでアプリが利用可能となったのは6月の半ばになってからである。このように、個人情報保護の関心において、ドイツは事実上、COVID-19感染拡大を予告する分野におけるハイテクノロジーの発達の点で、後塵を拝することになった。これは、現代の根本的な問題――デジタル化と人間生活のプライバシーとの間の衝突を明るみに出す事例となった。

 上述の事例は、個人情報へのアクセスの問題だけでなく、国際関係の非政府的なアクターが、伝統的なアクターである国家に争いを挑むという構造的な変化が、国際政治の分野において起こっているという、別の重要な事実も物語っている。すでに指摘したように、COVID-19感染拡大との闘いのためのプログラムを開発しているのは、多くの場合、多国籍企業である。こういった企業は、ほかの企業との協力を活発化し、利益の最大化、出費の最適化と、主にデータへのアクセスを目的として、巨大複合企業を形成している。まさにこの図式で協同関係にあるのが、たとえば、ブルードットとGoogleである。

 新たな開発により、企業は、知識と情報を蓄積することが可能となる。件のGoogleは、市民の検索結果から得られた情報を追跡し、抽出し、分析するという分野で独占権を持っている。国連貿易開発会議の報告書「デジタル経済-2019」のデータによれば、インターネット上の検索市場において、Googleは全体の90%を占めている[7]。専門家の意見では、パンデミックの状況下で、この数字はさらに数%増加したとみられる。このようにして、私企業のデジタル・ナレッジの将来的な利用と、それによって見込まれる収益が、一定の不安を呼び起こしているのである。

 仮に、テクノロジーの部門、つまり、新たなデジタルテクノロジーの開発という領域において、営利目的の企業が主導権を握ったとすれば、情報コンテンツの作成とインターネットユーザーへの影響という分野では、国家はそのメインプレーヤーでしかない。統計的なデータによれば、およそ2000ある現行の政治家のアカウントが、Twitter、Facebook上でおよそ10億人のインターネットユーザーを抱えている。さらに、政府の組織、国家のさまざまな省庁のプロフィールページは数え切れないほど存在しており、また、そのアフィリエイトで収入を得ているブロガーは、外交と国家の安全保障の分野で目的と課題を達成するために活動している[8]。

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 COVID-19が存在する現在の状況は、SNSのユーザーに対する政府の影響のメカニズムが、どれほどの可能性を持ち、どれほどの規模のものであるかを、かつてないほどに示してくれた。事実上、パンデミックは2020年の一年間、ターゲットとする国家に対してネガティブな投稿をするための、主要な口実として使われた。これは、「ソフトパワー」から「シャープパワー」へと移行がなされたことの、重要な兆候でもある。「シャープパワー」は、2016年のアメリカ大統領選挙キャンペーンの時期にすでに、初めて用いられたものであった。

 この観点では、アメリカと中国の例が特徴的である。たとえば、D.トランプがSNSのオフィシャルアカウントで、中国がパンデミックの発生源であると主張し、ピーク時には「中国製のウイルス」とまで言い放ち、故意にデータを隠したと思われることへの「罰」として制裁を加え、中国との貿易協定を破棄すると威嚇した一連の投稿は、国際社会を大きな不安に陥れた。同様の「情報砲撃」による効果は絶大であった。特に、ハッシュタグやトレンドの言葉、用語や、COVID-19に関するテーマにユーザーがどのような反応をしているかを、コンピューター・ソフトウェアやインターネット上のアルゴリズムによって分析すると、多くの場合、ウイルスの感染拡大という文脈で、中国に対してネガティブな言及がなされていることを突き止めることができる。

 アメリカの非難に対する中国の対応は、あからさまに弱腰であった。北京は、2019年10月に開催されたミリタリーワールドゲームズの際に、ウイルスがアメリカの軍人によって中国にもたらされた、との情報を、SNS(たとえば、中国外務省報道官である趙立堅のアカウント)を通じて広め、これに噛みつこうとした。しかし、この説は、ワシントンの一連のタイムリーな介入により、何の裏付けもないフェイクであると結論付けられ、逆に中国の苦し紛れの言い訳のように見えた。この結果、中国政府の威信はより一層損なわれることとなった。かくして、北京はこの情報戦に敗北し、インターネットユーザーの間に、コウモリを食べた中国人のイメージが深く根付くこととなったのである。

 中国のデジタル外交の説得力のなさの原因を理解するにあたっては、次のファクターを考慮することが必要である。「シャープパワー」が最大の効果を発揮するのは、ある情報を出す際に、すでに述べたような、ビッグデータを用いたコンピュータアルゴリズムを活用して複合的なあらゆる分析(感情分析、ネット分析など)をもとに準備したときだけであるのだ。

 今日、人類はビッグデータ外交の時代に移行していると断言することができる。この移行の裏付けとして、5Gネットワークのための設備をめぐる情報キャンペーンについて言及することができよう。ハッシュタグや、SNS上のコメント、文章のトーン、COVID-19感染拡大への恐怖と5Gに対するネガティブな姿勢、さらには陰謀論を信じがちなインターネットユーザーの気運を詳細に分析した結果、コンピュータアルゴリズムは、5Gネットワークの導入と低酸素症(体内に酸素が欠乏する症状)、つまり、新型コロナウイルスの典型的な症状との間に、直接的な関係性があるようだ、とする情報を拡散していたのである。ある関心を持った特定のグループの目的が達成されたというわけだ。多くの国々で、無秩序、大混乱、インフラの崩壊と、5Gに関連したプロジェクト実現の中断が起こったのである。この黒幕が誰であるかを、推察することができる。

 一言で言えば、人類はデジタル外交の発展という新たな時代に突入した。COVID-19がデジタルテクノロジーの将来的な発展の指標となり、さらにはビッグデータ外交への移行プロセスを加速したことが、その背景にある。

 2021年、情報の測定は、新型コロナウイルスの問題の影響下にあり続けるだろう。ワクチン接種のテーマが、前面に出てくることになる。ワクチン開発の分野における最先進国は、おそらく、自国の製品の利用を促進させ、同時に、「他国製品」のイメージを下げるようなキャンペーンを展開してくるだろう。これはまず、西側諸国で起こると予想される。西側諸国は、「新型コロナウイルス同盟」と呼ばれるグループによって、国際的な経済競争の主権争いに積極的に参加する力を持っている。世界経済フォーラムの専門家の意見では、西側のサンプルのみを接種したというしかるべき証明書がない外国人の入国のために要求を厳格化することに関する決定の、アクティブな情報のバックライトが、ヨーロッパの「シャープパワー」のツールの一つとなりうるというのだ。このような事態が起こった場合、安全なワクチンを接種する国民が暮らす「正統の」国々と、それ以外の国々が区分されることになるだろう。

 このほか、2021年は、国際関係、とくにソーシャルメディアにおいて、私的なアクターの役割が増大する傾向がさらに推し進められるだろう。Twitter、Facebook、InstagramとSnapchat、さらにはD.トランプの支持者の間で人気のあるアプリParlerが、次々と彼のアカウントの凍結を決定した最近の動きは、その分かりやすい裏付けである。言論の自由が、法律ではなく、ソーシャルメディアの上層部による一方的な決定で制限されたことから、現在の国際関係法の根本的な見直しが始まっている。つまり、国家や官僚は、SNSのアカウントへのアクセス権――現代における、政府の影響力の主要なメカニズム――を、個人や企業の決定の結果、ふいに失う可能性があるのだ。

 いずれにせよ、2021年にデジタル外交の分野でさまざまな出来事が起こるのは、間違いない。

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[1] Цветкова Н.А. Программы WEB 2.0 в публичной дипломатии США // США и Канада: экономика, политика, культура. 2011. №3. С. 109-122.

[2] https://www.nytimes.com/2020/03/20/style/zoombombing-zoom-trolling.html

[3] https://ach.gov.ru/upload/pdf/Covid-19-digital.pdf

[4] https://www.vedomosti.ru/technology/articles/2020/04/01/826813-kak-iskusstvennii-ranshe

[5] https://www.handelsblatt.com/technik/it-internet/it-sicherheit-auswaertiges-amt-untersagt-nutzung-von-zoom-auf-dienstlichen-geraeten/25726922.html

[6] https://www.dw.com/ru/naskolko-jeffektivno-mobilnoe-prilozhenie-protiv-covid-19-opyt-frg/a-54979144

[7] https://unctad.org/system/files/official-document/der2019_overview_ru.pdf

[8] Цветкова Н.А. Феномен цифровой дипломатии в международных отношениях и методология его изучения // Вестник РГГУ. Серия «Политология. История. Международные отношения». 2020. №2. С. 37-47.