ウラジーミル・サージン ロシア科学アカデミー東洋学研究所主任研究員、歴史学博士

上海協力機構(SCO)の記念サミット

タジキスタンの首都ドゥシャンベでは9月16日から17日にかけて、第20回目となる上海協力機構(SCO)の記念サミットが開催された。タジキスタンのエモナリ・ラフモン大統領(議長)、カザフスタンのカシィム=ジョマルト・トカエフ大統領、キルギスタンのサディル・ジャパロフ大統領、パキスタンのイムラン・ハン首相、ウズベキスタンのシャフカト・ミルジエエフ大統領、オブザーバーとして、イランイスラム共和国のエブラヒム・ライシ大統領、来賓として、加盟国ではないトルクメニスタンのグルバングリ・ベルディムハメドフ大統領が参加した。中華人民共和国の習近平国家主席、インドのナレンドラ・モディ首相、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はオンラインで遠隔参加した。

主な議題となったは、イランをSCOの正式メンバーに迎えるための手続きの開始、サウジアラビア、エジプト、カタールの対話パートナーとしての地位の承認、COVID-19対策、アフガニスタン情勢であった。

サミットの結果として、結成20周年を記念するドゥシャンベ宣言に調印した。そのなかではSCOの政治的基本原則がうたわれているほか、国際安全保障および地域安全保障の実現のための協力が優先されることが強調されている。また、アフガニスタン情勢における協力、COVID-19に対する闘い、テロリズム、分離主義、過激主義、麻薬ビジネス、組織犯罪、汚職に対する闘い、情報分野における安全、国防分野および法務分野における相互協力についても同様である。宣言のなかでは、多くの分野における経済貿易協力、ビジネスおよび金融における協力、輸送、エネルギー分野における協力も触れられている。なかでも大きな注意が向けられているのが、人権、国家間の平等、政治経済における女性の役割、環境、教育、保健、スポーツ、観光などの人道分野における協力である。

ドゥシャンベでは合わせて30の協力に関する合意が調印された。

SCOの歴史を簡単におさらい

2001年6月15日に設立され、その前身は1996年からあった「上海ファイブ」(ロシア、中国、カザフスタン、キルギス、タジキスタン)である。上海ファイブにウズベキスタンが加盟することでSCOとなった。活動範囲は、経済、文化、安全保障におよび、特にSCOではテロリズム、分離主義、過激主義を「三つの悪」と呼んで、対策を進めた。

2017年にはインドとパキスタンが正式加盟国となった。

現在のSCOの政治的状況、地理的状況は以下の通り。

  • 正式加盟国:ロシア、中国、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、インド、パキスタン
  • オブザーバー国:アフガニスタン、バラルーシ、イラン、モンゴル
  • オブザーバー国として参加を申請している国:バングラデシュ、バーレーン、ベトナム、エジプト、イスラエル、イラク、カタール、モルディブ、サウジアラビア、シリア、ウクライナ
  • 対話パートナー:アゼルバイジャン、アルメニア、カンボジア、ネパール、トルコ、スリランカ

SCOでのすべての決定事項は、コンセンサス、全会一致で行われる。

イランとSCOとの歴史についておさらい

イランとSCOとの長い関係の歴史も興味深い。テヘランは、SCOが出来てからすぐに関心を持ち、2004年にオブザーバー国としての参加申請を行った。2005年7月のアスタナサミットにおいて申請が認められ、インドとパキスタンとともに、イランはオブザーバー国となった。

2008年、イランは正式メンバーとしての加盟申請を行った。これは、イランイスラム共和国が核プログラムを管理せず、挑発的な開発を続けているとして、国際社会、IAEA、国連と激しく対立していた時期であった。それら国際機関からの圧力を受けたイランは、迫りくる孤立状況を回避し、SCOの傘のもとに「雨宿りしよう」とした。2006年から2010年にかけて、国連安全保障理事会は10の対イラン制裁を採択し、そのうち4つはイランに対する国際的な制裁を含んでいた。

もちろん当時の状況の中で、SCOはイラン問題に懸念を表明している国際社会の機運に逆らうことはできず、イランの正式加盟に対して赤信号との回答を出した。

イランの加盟申請の却下のための法的理由を整備するため、2010年のタシケントサミットでは、参加を希望する国は「国際連合安全保障理事会による制裁措置を受けていないこと」という新しい条件が加わった。

2015年に核問題に関する合意が達成されたのち、イランはSCOへの加盟について、それほど積極的ではなくなった。それは理解できることで、国連安保理が制裁を解除し、個別の国々による一方的な制裁措置も段階的に緩和されたからだ。世界のビジネスはイランへと殺到し、民間企業、国営企業がイランでの事業展開を希望した。イランにとってSCOに緊急に加盟しなくてはならない理由はそれほどではなくなった。それでもイラン政府は十分に高いレベルの人物をサミットや閣僚級会合、国際会議やテロリズム対策演習などにオブザーバーとして参加させた。同時に、イラン加盟の議論も継続された。

にもかかわらず、イランイスラム共和国のSCO加盟における進展は見られなかった。しかも2016年からは、タジキスタンがイランの加盟に反対し始めた。イランがタジキスタン国内の反体制派を支援し、タジキスタンで禁止されているタジキスタンイスラム復興党のメンバーをかくまっているとの理由に加え、ドゥシャンベはテヘランが間接的にテロ行為にも関与していると非難した。さらに、両国の関係には財務的な問題でも意見の相違が見られた。ウズベキスタンもイランの加盟について反対した。

イランのSCO加盟についてのおさらい

2007年からSCOの正式加盟各国は、オブザーバー各国および対話パートナー各国の高官らを実務的作業に参加させるようになった。これはもちろん、中東および中央アジアにおけるSCOの活動の可能性を広げることとなった。2017年には「SCO-アフガニスタン」コンタクトグループが作られ、アフガニスタンでの集団的役割を果たしたいとの希望を表明した。

現在、中東における状況は根本的に変化している。特にアフガニスタンにおいてはSCOの正式加盟国すべての国々の潜在的な問題と利害がすべて集中している。彼らは、アフガニスタンと936キロメートルにおよぶ国境を有しているイランが、アフガニスタン国内にも歴史的および軍事政治的に深く関与しており、イラン無くしてアフガニスタン問題を解決することは不可能(もし解決を目指すならばの話だが)だと知っている。アフガニスタンでタリバン勢力が台頭することは、イランをSCOの正式加盟国として迎えることの、十分な理由となっているのだ。

アフガニスタンからアメリカ軍が撤退し、タリバン勢力(テロ組織、ロシアでは禁止されている)が政権に就いた後、タジキスタンはイランのSCO加盟への反対を撤回した。さらに、ドゥシャンベサミットのなかでエモマリ・ラフモン大統領とエブラヒム・ライシ大統領は会談を行い、その結果、さまざまな分野での協力に関する8つの文書に調印した。両国ともに、同じ言葉を話し、共通の文化を持つ両国国民が、同じ精神文化的価値を共有していることを強調した。

今回、SCOのすべての加盟国が、イランの加盟手続きを始めることに対して賛成票を投じた。

モスクワは、イランのSCO加盟に、躊躇なく賛成した。SCOサミットにビデオ参加したウラジーミル・プーチン大統領は、「ロシアはイランのSCOへの加盟申請を支持する。我々は、SCOにイランが完全な形で参加することをいつでも支持してきた。イランはユーラシア地域において重要な役割を果たしており、すでに長年にわたってSCOと実りある協力関係を築いてきた。(…)もちろん、エジプト、カタール、サウジアラビアに対して、対話パートナーとしての地位を付与することも歓迎する。ロシアはSCOの多岐にわたる活動にそれらの国々を積極的に関与させることを支持する」と述べている。

SCOに正式に加盟することによって、イランも、SCOも、利益を得ることが出来ることに疑問はない。SCOは真に地域を代表することになる。今日、SCOのほぼすべての加盟国がイランとの間で、政治的、経済的関係を有している。テヘランが加盟することによって、それらの二国間関係は、こういっていいならば、ブロック的色合いをもつことになるだろう。多くのプロジェクトが多国間支援を得ることができるかもしれない。これは南北回廊についていうことができる。この回廊の多岐にわたる支線は中央アジアを、東南アジアからインドとイランを経てペテルブルグ、ヨーロッパまで至る大陸間ルートに接続することになるのだ。インドはこの意味で、イラン南部のチェフベハル港の建設という重要な戦略プロジェクトを継続している。

イランはすでにオブザーバーとして積極的に参加しているため、正式加盟後も実務的に見れば大きな変化はないように思われる。もちろん正式加盟後は、投票や文書の作成、調印などにおいて、完全な形で意思決定に参加することが可能となる。

いずれにせよ、イランがSCOへの参加によって得るものは、立場(プレステージ)の向上だ。SCOへの加盟は、イランの国際的な正当性を向上させ、東側(イランではロシアもそこに含まれる)との関係を強化する一つの要因となるからだ。イランの新しい大統領とその政府は、東側への政策を主要な外交活動の方向性として来た(M・サナイ、J・カラミ「イランの東方政策:潜在力と課題」『グローバル政治の中のロシア』2021年(3)7月/9月号、英語)。

さらに、イランの核問題をめぐる新しい交渉ラウンドは、イランにとっても重要なものであり、このなかでもSCOに加盟していることは意味のあることだとみられる。

全体としてみれば、イランのライシ大統領にとって、これはプレゼントとなる。

イランがSCOに加盟することは、その活動に革命的な変革を産むものではないが、イランのみならず、SCOの立場向上にとっても、重要なファクターである。

SCOをとりまく状況について

SCOの加盟国同士の関係について、これは客観性の確保のために触れておかなくてはならないが、決して問題なしとは言えない。中国は地域的にも世界的にもインドと競合関係にあり、またインドはパキスタンと競合関係にある。

中央アジアの各共和国も、政治的、経済的不満をお互いに対して持っている。ウズベキスタンはタジキスタンのログン水力発電所の建設に反対している。それがアムダリア川の水位の低下につながり、綿花栽培に影響を与えることを懸念しているのだ。また、ウズベキスタン側によれば、水力発電所の建設地域は地震の可能性のある地盤であり、それが破壊された際、ウズベキスタン側でも洪水が発生するとしている。またウズベキスタンとタジキスタンの間では、ファルハド水力発電所をめぐっても領土問題が存在している。キルギスとウズベキスタンの間では、領土や飛び地の問題があり、双方の民族が入り組んでいる。

ソビエト連邦の崩壊後、フェルガナ盆地は、中央アジアのすべての国々が反目し合う土地となった。このフェルガナでの国家間および民族間の問題の解決というのも、1996年の上海ファイブの設立の理由となった。

一部のアナリストたちは、ロシア、中国、さらにイランという、ある種の反アメリカブロックにSCOがなろうとしていると指摘する。しかし、これは正しい見方ではない。インドとパキスタンは(それぞれに)アメリカとの緊密な関係を有しており、彼らのアメリカとの関係は発展している。カザフスタン、ウズベキスタン、そしてその諸隣国は、確かにあまり親アメリカ的とは言えない。指摘しておくべきなのは、SCOでの中国の影響力の大きさであり、SCO内での経済的な中国の優越であり、SCOを自らの国益のために利用しているという部分だが、これは理解できるところでもある。

アフガニスタンについてのSCO各国の立場は多少ばらつきがある。タリバン勢力によるカブールの新政権とは、中国は協力の準備がある一方で、インドはそれに反対しており、すべての民族グループが参加したインクルーシブな政府の設立を主張している。一部の政治学者の見るところでは、習近平国家主席とナレンドラ・モディ首相がドゥシャンベに来なかったのは、アフガン問題のためであるともいわれている。アフガニスタン問題についての立場はまったく両国で逆のものであり、余計ないさかいを避けるため、実際の会合を回避した可能性がある。(ヴィクトリア・パンフィロワ、独立新聞、2021年9月14日)

中国の立場を支持しているのは、パキスタン、ウズベキスタン、カザフスタンである。インドとタジキスタンはそれに反対している。ラフモン大統領の考えは理解できる。というのも、アフガニスタンの人口の約4分の1はタジク人であり、いままでタリバンには反対してきたからである。そのため、ラフモン大統領がアフガニスタンにおけるタジク人の立場を心配する姿勢は、国内的にも支持を得ている。ロシアはイランとともに、アフガニスタン問題においてはドゥシャンベの側に立っている。

SCO加盟各国のアフガン問題についての姿勢を近づけるためには、多くの仕事が必要であり、もちろん、最重要なのは、アフガニスタンにおける状況を前進させることだ。その意味でも、イランの正式加盟が有意義なものとなることは疑いない。

まとめ

SCOは、内部での立場の違いも抱えた複雑な組織であるが、加盟国にとっては非常に重要な組織であるとともに、中近東(中央アジアを含む)地域における安全保障政策のためにも非常に重要な組織である。もちろん、いくつかの政治経済問題(二国間であれ地域レベルであれ)に対するアプローチの違いは、SCOの可能性を制限するものではある。組織が厳格な全会一致原則によることが、個別具体的な協力の規模を制限しているということもあるだろう。また、SCOの常任機関(北京の事務局、タシケントの地域テロ対策組織)が、課題遂行のための法的な裏付けを持たないことも一因だ。

そのため、SCOはまず第一に、議論、協力、そして可能な場合には一致した政治路線の策定のためのフォーラムの場であり、何らかの公式的で官僚的な経済同盟、軍事政治同盟(EUやNATOのような)ではない。この点に、おそらくSCOの強みもあるのであり、自立し独立した国家の統合体であり、意見やアプローチの相違はあれども、地域の安定と安全をともに志向していける組織である。

この意味で、イランの正式加盟への道は、この組織が有効な組織であることを示している。もちろん、その加盟手続きには時間がかかるだろう。SCOが採択したすべての文書にイラン政府が参加しなくてはならないからだ。またこの一つ一つにイラン議会(マジリス)の承認が必要となる。これは1年で済むものではない(インドとパキスタンの場合には2年かかった)。しかし、イランがSCOの正式加盟国となり、自らの貢献をしてくれることをほとんど確信している。


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By KokusaiSeikatsu

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