写真:ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)首脳会合、2023年1月24日

アリーサ・カゼリコ 国際ジャーナリスト

2023年は新たな始まり?

2023年1月、ラテンアメリカ諸国の経済統合プロセスの活発化が目立った。第一に、二国間首脳会談が立て続けに実施され、その中でも、ブラジル大統領の公式訪問の際に行われたアルゼンチン大統領との共同会見は最も注目される。第二に、1月24日に開催されたラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)の首脳会合には初めて、加盟国33カ国すべての代表が参加した。

ブラジルのルーラ・ダ・シルヴァ大統領は、南米南部共同市場(メルコスール)における相殺処理に用いることができる共通通貨の導入を提案し、注目された。(1) この共通通貨に実現の可能性はあるのか?それとも実現困難なものなのだろうか?

共通通貨創設の目的

ブラジルとアルゼンチンの両大統領による記者会見の場で発表された共通通貨創設の考えは、決して新しいものではない。ユーロが非現金取引の通貨として導入された1999年(現金取引への導入は2002年以降)には、最初の議論が始まっていた。欧州統合が順調に進んだことは、ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体においても同様の共通通貨導入をめぐる議論を活発化させた。2003年から2010年までブラジルの大統領を務めたルーラ・ダ・シルヴァ氏も、この問題をかなり真剣に検討した。2023年、シルヴァ氏が再び大統領に返り咲いたことによって、ブラジルが地域の経済統合の推進役となる可能性が出てきたのだ。

共通通貨の導入は地域にとって、次のようなメリットがあると考えられる。

第一に、新しい地域間通貨を使用することによって、使用国同士の間での貿易額の増加が見込まれる。ブロック内貿易における共通通貨の使用によって、第三者による貿易関係の妨害リスクが平準化される。

第二に、共通通貨への移行は、ドル脱却のプロセスを加速させる。ドル依存がある限り、対外貿易活動はアメリカの管理下に置かれ、地域各国の経済は脆弱な立場に留め置かれる。共通通貨の導入はこの意味では地域全体にとってのブレイクスルーとなるだろう。

第三に、世界経済の中でのラテンアメリカ諸国の地位向上につながる。『フィナンシャル・タイムズ』紙の試算によれば、世界GDPの5%近くを占めることになる。ユーロ圏の成功に続く可能性もある。(2)

メルコスールの共通通貨創設への課題

上記に上げたのは、共通通貨導入のメリットであるが、幅広い世論の支持にもかかわらず、この考えが未だに議論の段階にとどまっているのはどのような理由によるものなのだろうか。

メルコスールにとっての最大の阻害要因は、加盟各国(アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ。ベネズエラは2017年に資格停止)の金融政策に大きなばらつきがあることだ。さらに、消費者物価指数や流動性の急激な変動に顕著に示されているように、メルコスールの金融システムは外部ショックに対して弱い体質を持っている。

またもう一つの要因としては、メルコスール内における、政治的対立だ。特にブラジルとアルゼンチンという主要二カ国の関係は、選挙の結果によって大きく左右される。新しく政権の座に就いた大統領が、前の政権とは全く逆の政策をとることもめずらしくなく、それはボルソナーロ大統領からルーラ・ダ・シルヴァ大統領への政権移行においても例外ではない。その点、今のブラジルはアルゼンチンとの協力に前向きであり、共通通貨の実現の可能性も高まっている。一方、アルゼンチンでは2023年に大統領選挙があり、安定した関係と言えるかどうかはまだ時期尚早だ。

メルコスール経済の非対称性

政治的要因による関係の不安定性は、解決不可能な問題ではないが、金融政策のばらつきについては、その解決は難しく、その理由として特にアルゼンチンの問題が挙げられる。

アルゼンチンの国家統計資料によれば、現在の年間インフレ率は94.8%であり、ブラジルの5.79%、パラグアイの8.1%、ウルグアイの8.29%を大きく引き離している。

アルゼンチン中央銀行はこの状況に対処するため、政策金利の大幅な引き上げを余儀なくされている。2022年12月の政策金利は75%となっており、ブラジルの13.75%、パラグアイの8.5%、ウルグアイの11.5%とかなりのひらきが見られる。

出典:DADOS ECONOMICOS DOS PAISES – ANO BASE 2022
各国のインフレ率と政策金利

そのため、もし共通通貨を導入した場合、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイは、アルゼンチン経済の状況に大きく左右されてしまう。

結論:可能性と課題

2023年、ラテンアメリカ・カリブ海諸国は、いままでにない協力へのはずみがついている。ブラジルがCELACに復帰したため、1月24日のサミットにはすべての加盟国の代表が参加した。ルーラ・ダ・シルヴァ大統領は、共通通貨創設への意気込みを再確認している。共通通貨の名称は「スル」(スペイン語で「南」の意味)と呼ばれる予定で、南南協力の方向性を象徴するものだ。

メルコスールの共通通貨導入には、アルゼンチンと他の国との非対称性をはじめとする課題が多く存在している。

しかし、アルゼンチンはその課題の克服に断固として立ち向かう姿勢だ。アルゼンチンのセルヒオ・マッサ経済大臣は、「共通通貨創設に必要となる各種パラメーターの検討を始めている」としている。(3)

ブラジルのルーラ・ダ・シルヴァ大統領も、「時間と共に、(共通通貨創設に)行きつくことになると考えている」としている。(4)

メルコスール内の非対称性の克服のために必要な時間は、約5年と見積もられる。共通通貨導入は、アルゼンチンのインフレが解消されれば、半年で可能とみられている。

※筆者の意見は編集部の意見と一致するとは限りません。

[1] Президент Бразилии предложил подумать над созданием единых валют БРИКС и МЕРКОСУР, интернет-ресурс: https://tass.ru/ekonomika/16865745

[2] Brazil and Argentina to start preparations for a common currency, интернет-ресурс: https://www.ft.com/content/5347d263-7f24-4966-8da4-79485d1287b4

[3] Там же.

[4] Президент Бразилии предложил подумать над созданием единых валют БРИКС и МЕРКОСУР, интернет-ресурс: https://tass.ru/ekonomika/16865745

https://interaffairs.ru/news/show/38754

By KokusaiSeikatsu

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