オレグ・パラモノフ
歴史学博士候補・モスクワ国立国際関係大学東アジア上海協力機構研究センター上級研究員

2月、日本にトマホークミサイルの地上発射装備が配備される可能性が出てきたことで、歴史は新しい一ページを開こうとしている。『産経新聞』の紙上で、日本政府が東シナ海及び南シナ海に沿った「中国からの防衛」方針のなかで、アメリカから500発のトマホークミサイルの購入だけでなく、その発射装備の配備を検討していると報じられたことは、大きな反響を呼んだ。その情報が真実であることを浜田靖一防衛大臣はその後認めている。約2000キロの射程を持つトマホークミサイルのほかに、約2800キロの有効射程を持つ開発中の超音速ミサイルLRHWの配備もペンタゴンは考えているという。確かにトマホーク用の移動式発射装備は未だに実験段階にあることを断っておかなくてはならない。日本政府では、そのような装備の配備場所として、台湾に近い九州を有力な候補としている。(1) その場合、中国大陸の東側沿岸をも射程におさめることとなる。

日本に中距離ミサイルを配備するという考えは、ソビエトとアメリカとの軍縮の象徴であった中距離ミサイル全廃条約(INF条約)からの脱退を、ドナルド・トランプ大統領が発表してから現実的なものとなった。

ドナルド・トランプ政権は、非核弾頭のミサイルを数百発アジアに配備することで、西太平洋におけるパワー・バランスを比較的早期にかつ安価に(「たったの」数百億ドルで)アメリカに有利な形に転換できると考えた。ペンタゴンの「ミサイル計画」は、表向きにはアメリカを支持しながらも、軍事的なリスクを背負い込みたくないという本音を抱くアジアの同盟諸国との問題を「明るみに出したくない」という配慮から生まれたものだ。当時、オーストラリアとフィリピンは自国領土へのアメリカのミサイル配備を見送った。(2) しかし「安倍時代」の日本は、この問題に大きな柔軟性を見せ、予備協議が始められた。国際的安全保障にとって大きな破壊的意味を持つトランプ政権によるこのような決断に、ジョー・バイデン大統領もいまや追従する用意があるかのように見える。産経新聞によれば、新しい国家安全保障戦略のなかで、日本はアメリカとの間でより具体的な協議に入る用意があるという。

『産経新聞』の情報を100%鵜呑みにすることはできないが、日本の保守勢力との距離の近さを考えれば、そのような記事は一考に値するだろう。このようなセンシティブな問題に対する世論の反応を見るための観測気球としてのリークだとも思われる。中国もこれには反応しており、『環球時報』はアメリカの計画が、中国、北朝鮮、ロシアを含む地域諸国に深刻な脅威となる、と報じている。同紙によれば、アメリカによる潜在的な挑発行為に対して、中国政府は「戦略的な対応」を行うことができるという。実際に発射装備が九州に配備された場合、地域の特性上、機動性を十分に確保できないだけでなく、住民もろとも中国のミサイルの射程に含まれることにもなる。(3)

中国の軍事評論家である宋中平氏は、インド太平洋地域における「ウクライナ・モデル」の繰り返しになり得る可能性を指摘している。それはいずれかの国が、アメリカの覇権を支持し、中国封じ込め戦略でアメリカの水先案内人となることによって、現実のものとなる。宋氏は、「中国と日本の間には地政学的緊張のみならず、歴史論争も絡んでいる。アメリカはそれを最大限利用する。中国封じ込め戦略において日本がさらにアメリカ追従を続けるようならば、日本は『アジアのウクライナ』になる可能性もある」と指摘する。(4)

また、いままで日米同盟は、日本の保守勢力から国内外に対して、防衛的性格のものとして説明されていたが、攻撃兵器の登場によって、同盟の本質が根本から変わることになる。日米同盟とNATOとの協力も進むだろう。またロシアにとっては、ロシア極東からはまだ離れているにせよ、アメリカが主導するミサイルが日本に配備されるという危険な前例を作ることになる。

日本政府が2027年までに購入しようとしているトマホークミサイル、そしてさらには日本が自ら開発を進めるミサイルがどこに向けられるのか、昨年末にあったもう一つの報道に注目したい。日本が弾道型及び巡航型の超音速兵器の実験を20年代中ごろまでに開始する予定であることは、すでに知られている。2022年12月10日、NHKは、防衛省が将来、開発中の超音速ミサイル(射程3000キロメートル)を、九州だけでなく、北海道にも配備することを検討していると報じた。これはロシアのすぐ隣だ。(5)

これまで日本の保守勢力は、平和憲法とそぐわない計画を進めることで、野党勢力のみならず、選挙民の反対にも直面することを警戒してきた。しかし、そのような反対活動はすでに日本人のなかでも旧世代に属するものであり、政府は「分割して統治せよ」の金言通り、運動の飼いならしに成功している。一方地方自治体も、日本社会全体というよりも、アメリカ軍の駐留問題が自らの選挙民に対して影響がなければそれでいいと考えている。日本のなかでも駐留アメリカ軍による被害を最も大きく受けている沖縄県にしても、2020年トランプ大統領がミサイルの配備について公言した際、玉城デニー知事は、「私の島以外で」との立場を漏らしている。(6)

ロシア外務省のアンドレイ・ルデンコ次官は、隣接地域への超音速ミサイルの配備など、極東へのいかなる脅威に対しても、日本に対して即座に対処する、としている。またマリア・ザハロワ外務報道官は最近開かれたブリーフィングの場で、現時点において、日本との平和条約締結の可能性はロシアにとってはない、と明言している。

※筆者の意見は編集部の意見と一致するとは限りません。

[1] <独自>米が中距離ミサイル配備打診 対中バランス改善 – 産経ニュース (sankei.com)

[2] U.S. seeks to base missiles in Pacific. Some allies say no. – Los Angeles Times (latimes.com)

[3] China could ‘make strategic response’ if US deploys medium-range missiles in Japan – Global Times

[4] Японии предрекли роль «азиатской Украины»: Пресса: Интернет и СМИ: Lenta.ru

[5] Japan’s Defense Ministry to develop hypersonic missiles – The Japan News (yomiuri.co.jp)

[6] U.S. seeks to base missiles in Pacific. Some allies say no. – Los Angeles Times (latimes.com)

https://interaffairs.ru/news/show/39000

By KokusaiSeikatsu

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