アレクサンドル・パンキン

ロシア連邦外務副大臣

(翻訳:青林桂)

旧ソ連圏でのパンデミック初期段階から、我が国は人間的な理解に基づいた連帯と団結を示してきました。我々は直ちにCIS諸国、ウクライナのルガンスク州及びドネツク州へ医療検査システムの支援を開始しました。それよりも以前、パンデミックが発生するよりも前の段階で、我々はこれら地域へ疫学調査を目的とする衛生疫学研究所の支援を行いましたが、このお陰で新規感染者を迅速に特定することができています。感染状況の深刻化に伴い、支援内容には人工呼吸器、個人用感染対策グッズ、医薬品なども追加されました。「スプートニクV」が承認された今、我々にはワクチンを供給し、生産能力を確立する用意ができています。以上が我々のパートナーである諸外国に対する具体的な医療支援の全体像です。

更に、CISには効果的な法的基盤が存在します。これは、衛生状態の保全、モニタリング等の分野までカバーする取り決めや仕組みであり、課題の有効的解決に向けて活用されました。我々は法的合意に加えて、移民の流入、国外への移住労働、そして文化的・社会的交流によって結び付いた共同空間に生きています。何と言っても、この空間は我々の共通の安全地帯なのです。だからこそ旧ソ連諸国との協力関係は我が国にとっての優先事項であります。総じてCISはこの様なパンデミックに対処し、コロナウイルスと闘う体制が整っていたのです。

ここで、新しい生活様式に関してお話します。メディアは往々にしてコロナパンデミックを第二次世界大戦と比較して語ります。我々が新型コロナウイルスを克服した暁には、世界経済や国際関係に重大な変化が訪れると言うのは、必ずしも正しくありません。

とは言え、いくつかの修正は生じるでしょう。パンデミックにより世界各国の経済成長にブレーキがかかり、経済的繋がりが崩壊しています。自己隔離は国家レベルで行われ、ナショナリズムの機運はますます顕在化し、国による前例の無い支援政策が不可欠です。この様な状況下では、パートナーや同盟国としての義務は二の次となってしまいます。事態は厭わしく、そして多くの点で歪んだ様相を帯び始めてしまいました。

我々のパートナーであるCIS諸国もこのことを実感しました。どの国の経済も様々なレベルで「落ち込み」を迎えましたが、我々が生きる平時という観点から見ると、その度合いは甚だ深刻です。

現在の状況下で進行する産業のリージョナライゼーションは、国際的なバリューチェーンの崩壊、即ち交通網の途絶、生産活動の停止、そしてあらゆる禁止措置に起因します。リージョナライゼーションは第一段階、ローカライゼーションは第二段階です。どの国も独力で、国際条約にそぐわない障壁を築いています。つまり、国家は全てが終息すれば事態は通常化するのだと約束しながら、戦時法に従い動いているのです。しかし、いつ全てが終わるのかは誰にもわかりません。

新型コロナウイルスによって多くの国々は健全な作物収穫と食料生産の機会が奪われ、世界市場に間隙が生じました。このことは、我々のパートナー諸国に統合の見直しを促しました。確立された関係性と農作物や食料輸出の潜在力が備わっていることから、我々の元には益々多くの協力提案が届くようになりました。需要が増加した医薬品ほか諸製品は、パンデミックへのこの上無い恐怖心から今後も安定したニーズが見込まれており、その生産は大変重要な位置付けとなりました。こうして人々の意識は環境に適応していきます。これはプラスの側面であると言えます。

マイナス面は、旧ソ連諸国からの移民の流れが強制的に止められたために、パートナーであるCIS諸国の信頼が損なわれたことに起因するかもしれません。しかし、我々は移民向け一時救済措置期間の延長や、予算と法が許す範囲での規制緩和を毅然と実行しました。この点については我々も幸いに感じています。

更に、市民の避難に関する問題も指摘したいと思います。これは非常に複雑なプロセスです。外務省は、感染症対策という条件下において、これ程の規模の国境をまたぐ避難の実施、ロシアを通過する避難ルートの確保を経験したことがありませんでした。それにも拘わらず、我が国は本課題に上手く対処することができました。

ポストコロナの世は完全にデジタル化された、安全で友好的な世界になるでしょうか。疑問です。変わりゆく環境の下、競争は激化していきます。経済面で人々の生活はより一層厳しくなるでしょう。伝統的なエネルギー市場が衰退していく中で、再生可能エネルギーや脱炭素化を始めとする様々な新しい経済活動が台頭してきます。これらは全て資本投入や新規投資の対象領域であり、その背後には誰かの実利的な思惑が潜んでいます。

私は、世界は結局のところ環境に適応した姿で元の道筋に戻り、コロナに起因する文明の大転換が生じることは無いだろうと思います。これ程大きなスケールのパンデミックではありますが、文明のパラダイムシフトのトリガーにはなり得ません。

CIS空間に関して言えば、我々のパートナー諸国には、彼らが誰と共にあり、そして彼らにとってロシアとは何かを理解するのに良い機会が生じました。新型コロナウイルスは可能性の扉を開きましたが、各国が力を合わせなければバタンと音を立てて閉じてしまうかもしれません。

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By KokusaiSeikatsu

『国際生活』はロシア連邦外務省を発起人とする、国際政治、外交、国家安全保障の問題を取り扱う月刊誌です。創刊号は1922年、『外務人民委員部週報』として出版され、1954年に『国際生活』として、月刊誌として復刊しました。今日、ロシア国内だけでなく、世界各国においても幅広い読者を獲得しています。