オレグ・パラモーノフ 歴史学博士ロシア外務省国際関係大学東アジアSCO研究センター主任研究員

ワシントン、ロンドン、キャンベラが9月16日に立ち上げた安全保障分野における三か国パートナーシップ(AUKUS)は、完全なる軍事同盟ではなく、むしろ「半同盟」とでもいうべきものであるが、中国の封じ込めを狙うワシントンと東京による「重なり合う同盟構想」を実現していく更なる一歩となった。アメリカ合衆国とオーストラリアはいわいる「四カ国戦略対話」(Quad)のメンバーであり、日本とインドもそれに参加している。9月、Quadとインド太平洋構想全体に関係する重要なイベントがさらに行われた。9月10日から11日、オーストラリアとインドは初めてとなる「2+2」会談を実施したのだ(外相および国防相)。[1]

ここで指摘すべきなのは、いままでインド=オーストラリアの軸が、Quadの中でも最も弱い部分だと考えられてきたことである。1960年代の「非同盟運動」にまでさかのぼるインドの「戦略的均衡原則」は、今に至るまでニューデリー政府の外交を象徴するものとなっている。オーストラリアに関してみれば、近年、中国との経済的連携の強化を支持する勢力の影響力は顕著である。キャンベラにとって、ニューデリーの軍事的核開発もセンシティブな問題として残る。

オーストラリアと中国の関係は、キャンベラが自らの勢力圏であるとみなしている国々において、北京が自らの経済的影響力を拡大させているとの疑惑から、2018年以降悪化している。キャンベラ政府がパンデミックの原因に関して「独立した調査」の実施を呼びかけたころから、両国関係の予測不可能性は、オーストラリアが許容できるレベルを超えてしまった。[2] インドの対中国外交についてみれば、中国との国境地帯であるラダック州におけるいわいる「実効支配線」での状況激化から、軍の兵士20名が死亡したところから、関係の緊張が進んでいる。

しかし、ニューデリーとキャンベラとの関係接近は、それ以前から進んでいると見なくてはならない。2014年11月にインドのモディ首相によるオーストラリア訪問が行われた際、「印豪安全保障協力枠組み」のロードマップが策定され [3]、それによって2015年以降、海軍共同演習AUSINDEX(Australia-India Exercices)が実施されているからだ。2015年、軍事評論家らは、AUSINDEXの演習に航空機や艦船のみならず、潜水艦が参加していることから、両国海軍のお互いに対する信頼性が高いことを指摘している。通常、潜水艦戦力については秘匿するのが普通だからだ。すでに四回目となるAUSINDEXが開かれるなか、両国の間では初となる「2+2」会談の準備が進められた。今回は潜水艦は参加しなかった。全体としてこの10年間、ニューデリーは、アメリカ合衆国と日本の艦船も参加する定期演習「Malabar」にオーストラリア海軍が参加することに合意したほか、2020年には印豪バーチャルサミットを開催し、両国関係を包括的戦略パートナーシップに引き上げることが発表されたのである。[4]

Malabar演習は2007年に初めて拡大フォーマット(上記4カ国とシンガポール)で開催されたが、それからオーストラリアが不参加を表明し、そのあと戻ろうとしたことも幾たびかあったものの、いつもインド側の拒否権に阻まれていた。西側の専門家らは当時、ニューデリーとキャンベラとの間の政治的・経済的問題を利用する中国の外交官らの職人芸を想像していたが、いまでは、Malabar演習は拡大フォーマットで開催され、事実上、Quadの海軍部門のような様相を呈するに至っている。ただし、参加国はそのようなことは認めていない。[5]

インドは、「2+2」会談についてはあまり積極的に使おうとはせず、いままでアメリカ合衆国と日本との間で実施したに過ぎない(ロシアとの間では実施する可能性があるとの公式情報が出ている [6] )。そのため、9月10日から11日にかけてニューデリーで実施された会談は、二カ国関係におけるルーティーンであるとみなすべきではない。会談の結果、インドとオーストラリアの外相および国防相(スブラマニヤム・ジャイシャンカル、メリス・ペイン、ラジナト・シン、ピーター・ダットン)は、2年に1回以上、同様の会談を実施することで合意した。会談のタイミングについてはおそらく、二国間関係の重要な目的がテロや他の非対称的脅威への対応であるとアピールすることによって、反中国的色合いを緩和しようとするために選ばれたものだろう。

ワシントン、およびその反北京の同盟国らにとって直接の関係を持つ問題についても、多くの時間が割かれた。共同声明 [7] から判断すると、海洋上の安全保障問題が議論されている。各閣僚たちは、自由で開かれたインクルーシブなインド太平洋という考えへの自国の「忠誠心」を確認するとともに、この問題を海洋生物資源や環境問題、エコロジーでもって「薄める」ことをした。また南シナ海行動規範についての作業も重要であることを指摘(現在、中国とASEANとの間での協議は停止したままだ)[8] 。これより先、インド政府が南シナ海での問題について、意識的に距離をとっていたことは、西側の専門家らによって、Quad内でのインドの「孤立主義」の表れであると捉えられていた。地域問題においてASEANが中心的役割を果たすべきだとの原則が確認された。安全保障上の軍事協力においては、両国は軍事演習も視野に入れて検討する。現在、インドはオーストラリア側から、アメリカ合衆国と共同で実施している「Talisman Sabre」への招待を受けている。またインド軍がオーストラリア領内にいる場合の後方支援における協力についても協議された模様。日本との間ではすでに両国ともに、兵站に関する合意に調印しているため、その経験が生かされる可能性もある。インド軍事研究開発機構とオーストラリア国防研究技術グループとの対話を含む、軍事技術協力の諸問題も話し合われた。ただし、オーストラリアが最近、潜水艦契約でフランスとの約束を反故にしたことや、日本のインドへの飛行艇供給交渉が、インド側の一貫しない立場によって長期化していることなどを考えれば、この分野における協力はあまりはっきりとしたものではない。

インドとオーストラリアには、共同声明で示された通り、インド太平洋コンセプトに対するそれぞれ自国のアプローチが存在する。特にインドによって提案されるアプローチは、ロシアにとっても興味深いものとなる可能性がある。しかし、両国ともに、日本とアメリカ合衆国による「自由で開かれたインド太平洋地域」コンセプトの方向に、ますます「流されている」ということは、認めなくてはならないだろう。


筆者の意見は必ずしも編集部の意見と一致するものではありません。

[1] https://www.financialexpress.com/defence/india-australia-22-dialogue-a-boost-to-the-comprehensive-strategic-partnership/2329102/?utm_source=pocket_mylist
[2] https://iz.ru/1067356/nataliia-portiakova/odin-za-vsekh-i-protiv-odnogo-kak-strany-quad-protivostoiat-kitaiu
[3] https://mea.gov.in/bilateral-documents.htm?dtl/24268/Framework_for_Security_Cooperation_between_India_and_Australia
[4] https://www.dfat.gov.au/geo/india/joint-statement-comprehensive-strategic-partnership-between-republic-india-and-australia
[5] https://thediplomat.com/2020/10/australia-returns-to-the-malabar-exercise/?utm_source=pocket_mylist
[6] https://tass.ru/mezhdunarodnaya-panorama/11268309
[7] https://www.foreignminister.gov.au/minister/marise-payne/media-release/joint-statement-inaugural-india-australia-22-ministerial-dialogue?utm_source=pocket_mylist
[8] https://tass.ru/mezhdunarodnaya-panorama/8776917?utm_source=pocket_mylist

By KokusaiSeikatsu

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