つまり、欧州が近年抱く中国の印象は、将来性のある貿易相手国から潜在的な軍事的脅威へと目覚ましい変化を遂げたのである。ちなみに、中国は欧州を軍事対立の相手として見てはいない。2019年に発行された中国の「軍事白書」では、「中国は欧州各国との軍事関係を積極的に発展させている。あらゆる分野での交流と協力は大きく進展している。中国は、平和・成長・改革・文明を目的とする中国・欧州の友好関係を重視し、EUと安全保障政策対話、海賊対策共同訓練、人材育成を行っている」と述べられている。[21]

総じて中国は、欧州パートナーとの間に存在する矛盾を強調せず、EUを経済協力における最も将来性のある道筋と見なしている。また、中国と欧州の間にはいかなる軍事的・政治的衝突も存在せず、この意味において、中国・欧州の関係は米中関係とは良い意味で異なる。

2020年12月30日にEUと中国の間で締結された投資協定は、中国の欧州関係に対する建設的なアプローチが実を結んでいることを証明するものである。この協定により、欧州の車メーカーは中国の電気自動車やハイブリッドカー市場への参入が容易となった。中国の大都市にある民営診療所に関し、ジョイントベンチャーの立ち上げに係わる義務が削除された。また、中国は同国のテレコム市場を開放し、加えて、WTOが要請する、中央政府による助成金額開示に応じることを約束した。更に、強制的な技術移転が廃止されることとなった。[22]

この貿易協定は、多くの海外オブサーバーによって中国の成功であると見られた。なぜなら、中国は協定の準備過程において、公共入札の実施、WTOとの政府調達協定の締結、あるいは投資家間の紛争解決を可能とする投資裁判所制度の採択などの義務を回避することができたからだ。[23]

この協定は、EUと中国間の自由貿易圏の形成に向けた大きな一歩であることは明白である(中国EU投資協定は欧州議会及びEU加盟各国議会によって批准される必要はあるが)。本件に関連して、詳細は次項で解説するが、包括的貿易投資協定に関する米国・EU間交渉は決裂している点をここに注記しておく。

実際に、欧州議会は5月20日に、これまで中国が欧州の著名な政治家数名に対し発動した報復制裁や、中国の人権問題を理由に、投資協定の批准を延期した[24]。もちろん、これにはアメリカ側からブリュッセルに対する圧力があった。しかし、EUが自らの最大の貿易相手国に対して、どこまで政治的対立に踏み切る覚悟があるのかは分からない。

米国と欧州:積年の同盟関係

米国の外交方針にとって、欧州は常に最も重要な優先事項であった。冷戦時代、NATO加盟国内には、350,000名にも上る兵力と、7,000発もの戦術核弾頭を配備する大規模な米軍部隊が駐留していた。

しかし、米国にとっての欧州の重要性は、当該地域における米国の軍事・政治的立場のみに限定されるわけではない。今日、これら二つの最も巨大な経済力の中心地は、貿易・経済・技術面で最も緊密に結び付いている。2019年の米欧貿易額は6,160億ドルという天文学的数字に達した[25]。しかも、2017年の米国の対外直接投資額の内、西ヨーロッパ向けが占める割合は65.1%であった。当時、欧州投資家にとっても米国は資本投下先として最も魅力的な地域であった。対米直接投資額の二分の一が欧州によるものといえばそれは明らかである[26]。

そして、軍事・政治分野における米欧の関係性がいかなる様相を呈しようとも、両地域の最も緊密な経済関係は掛け替えの無いものとみなされている。米国・欧州双方にとって、それは唯一無二の関係性であり、いかなる代替も存在しない。それにも拘わらず、米欧の貿易・経済協力は昨年深刻な脅威に直面している。

言うまでも無く、米欧の貿易経済関係におけるこれらの諸問題は、まさにアメリカ合衆国第45代大統領の政策と結びついている。トランプ大統領は、2018年にEUとの関税戦争を引き起こし、欧州から輸入する鉄鋼に25%、そしてアルミニウムに10%の関税を課した。EUはその報復として、米製品の輸入関税引き上げの検討を開始した。トランプ大統領は、「EUは米国を利用するために設立された」との認識を表明している[27]。

By KokusaiSeikatsu

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