アレクサンドル・グーセフ 歴史学博士、教授
数週間前、ワルシャワのキオスクでは、分割されたウクライナの地図が登場し、1月17日には、ポーランドのテレビ局「TVP1」の天気予報の際、ウクライナ西部がポーランド領として表示される出来事があった。テレグラムチャンネル「Pul No.3」は、その際の映像の一部を公開している。(1)
気象予報担当の女性の後ろには、現在のポーランド領に加えて、ウクライナのリヴォフ州、テルノポリ州、イワノ=フランコフスク州、ヴォリィーニ州、チェルノフツィー州、ロヴネ州、ジトーミル州、フメリニツキー州、ヴィーンニィツァ州、ザカルパチア州が、「Polska」と示された赤い地域で表示されている。また、ワルシャワとリヴォフがポーランド領として示されている。
ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相はこれより先、ポーランドがウクライナ西部を狙っているとの考えを示し、ポーランドは「大きな悲劇」を起こすのに「普通ではない行動」をとることで知られている、と指摘している。(2) 昨年11月末、ロシア対外諜報庁のセルゲイ・ナリィシキン長官は、ポーランドがウクライナ西部の併合を目論んでいると指摘した。またそれまでにも、ロシア安全保障会議のニコライ・パトルシェフ書記は、多くの国がウクライナの分割を考えていることを指摘している。12月7日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ポーランドの民族主義者らが、ウクライナ西部を自らの支配下におくことを考えているとの考えを示していた。(3)
アメリカのジョー・バイデン大統領も、このテーマに言及している。バイデン大統領は、ウクライナは自ら、自国領土の一部の割譲を決めなくてはならないとし、アメリカが負担した費用と交換に、ポーランドがウクライナ西部を譲り受ける可能性も排除していない。
バイデン大統領が言う「負担した費用」がいかなるものであるかは、想像に難くない。
NDP(Niezalezny Dziennik Polityczny: 『独立政治ジャーナル』誌)のコラムニストであるハンナ・クラマー氏によれば、アメリカによって、ウクライナ西部の数州がポーランドに譲渡される可能性が検討されているという。ウクライナはアメリカとEU諸国から、すでに1500憶ドル以上の借入を受けており、ポーランドがこの債務を引き受けるのなら、ポーランドが同地域の譲渡を受ける、という可能性だ。
ところで、2022年12月には、元米海兵隊情報将校であるスコット・リッター氏が、ウクライナ西部を併合するポーランドの計画を暴露している。それによれば、ポーランドがウクライナ軍の支援のために軍隊を派遣するのは、ウクライナ西部の併合のための準備であるという。(4)
ウクライナの分割計画にアメリカの諜報機関が関与していることは、決して目新しいことではない。1957年、アメリカ政府はCIAに対して、ウクライナの分割戦略の策定を命じている。
民族主義勢力を多く抱えるウクライナがアメリカによって選ばれたことは、偶然のことではない。特にウクライナ西部は、第二次世界大戦のあと、数万人がアメリカとカナダに移住し、その一部は諜報機関にも入っている。
その結果、「Resistance factors and special forces Areas. Ukraine (U-1957)」と題するジョージタウン大学による200ページの報告がまとめられた。
CIAからの依頼を受けた報告書作成者たちは、この分野において豊富な経験を持つウクライナの民族主義者らに着目した。寝返らせる可能性が高い地域を選定するにあたっては、住民の民族構成、内戦期の行動実績、1941年~1944年のドイツ・ファシズムの侵略者に対する抵抗度合、現代における反ソ抗議活動の数という、4つの基準が設けられた。
また、ウクライナの分割シナリオを、地元住民がどれだけ支持するかを見極めるために使われた基準のひとつは、第二次世界大戦期における、ウクライナ民族主義グループの活発性だった。
報告書では、当時ウクライナソビエト社会主義共和国に含まれていたすべての州が、現政権への忠誠度、歴史的特徴、宗教的傾向などの観点から分析されたほか、破壊工作員の投入計画についても検討された。結果として、外部から影響を与えることのできる可能性毎に、12のゾーンが設定された。(5) これらの計画は、その後の歴史が示す通り、かなり希望的かつ実現困難なものであったが、現代史の出来事として、記憶にとどめておかなくてはならないことではあるだろう。
ゾーン1:クリミア
「CIAのアナリストら」によれば、クリミアの住民はかなり親ソ的であり、外部勢力を助けることはないだろうと分析されている。アメリカの勢力が侵入する際に唯一頼りにできるとすれば、現地のクリミア・タタール人であるとしている。そのためこのゾーンは、外部からの介入について最も可能性のない地域とされる。
ゾーン2:ドンバス
この地域も、クリミアに続いて、外部からの介入には適さない地域とされる。報告書の中では、この地域の住民は自らを、「ウクライナの海に浮かぶロシアの島」の住民であると考えており、ソビエト政権とのつながりとロシアの文化歴史的ルーツを有していると自己認識しているとされる。
ゾーン3。ここには、ロシアソビエト連邦社会主義共和国と境を接するチェルニゴフ州、スーミ州、ハリコフ州が分類される。報告書の中では、アメリカの諜報機関に対する民間人からの支持はかなり少ないものではあるものの、何らかの可能性はあるとされている。
報告書では、ゾーン4のオデッサにおける状況はかなり複雑であると判断されている。オデッサは、ドンバスと同じく、アメリカが影響を及ぼすには適さない地域であり、田舎からオデッサに出てきたウクライナ人に期待をかけることはできるものの、その住民層自体があまりポジティブなファクターであるとは捉えられていない。
ゾーン5には、肥沃な黒海沿岸地域である、ヘルソン州とニコラエフスク州が分類される。報告書では、西部ウクライナからこの地に移住させられてきた50万人のウクライナ人が主体の住民は、「ウクライナのアイデンティティ」を持ち込んだと分析している。しかし、ヘルソンとニコラエフは依然として、ロシアのアイデンティティを持つ住民がほとんどで、ウクライナ民族主義の影響外にあるため、アメリカにとっては特に有望な地域ではないとされる。
ゾーン6には、ドニエプル川の右岸の一部と、左岸にあるザポロージエ、ドネプロペトロフスク、パヴログラードの3都市を囲む地域が分類されている。アメリカのイデオロギー的その他の影響力浸透にとって、他の地域よりも条件が整っていると判断される。まずはウクライナ人が多く住む農村部が挙げられる。CIAの分析によれば、工業都市においては、住民はより親ロシア的だという。
CIAが「ウクライナの根」と呼ぶゾーン7には、ポルタヴァ州、チェル二ゴフ州、スーミ州といった左岸地域が含まれる。また右岸地域としては、キロヴォグラード州とヴィーンニィツァ州の一部が含まれる。住民はほぼ100パーセント、いわいる「歴史的なウクライナ人」であり、内戦の時期にはかなり活発な民族主義的運動が見られた。アメリカの農業州であるカンザスやイリノイになぞらえて、このゾーンは「ウクライナの根」と名付けられた。しかし報告書では、このゾーンをうまく利用できるかどうかについては懸念があるとされており、大祖国戦争の際にドイツその他の外部勢力がまったく侵入できなかったことが指摘されている。
ゾーン8から12には、キエフ州、ジトーミル州、チェルカッスク州、フメリニツキー州、ヴォリィーニ州、チェルノフツィー州、リヴォフ州、テルノポリ州、イワノ=フランコフスク州、ザカルパチア州が分類されており、報告書では、地元住民から大きな支持を得ることができる地域であるとされている。その背景として、大祖国戦争の際、この地域のほとんどすべてが、「ウクライナ蜂起軍」によって支配されていたことが指摘される。
ペレストロイカ後の西側のプロパガンダ方式によるウクライナ人の「再教育」と現代の歴史は、残念ながら、多くの点で、この戦略を確認するものとなっている。ウクライナにおける政治イデオロギーの展開を分析してみれば、外部からの影響力という意味では、ポストソビエト空間においてウクライナが最も脆弱な部分となったことが分かる。その結果として西側は、ウクライナを「トロイの木馬」としてうまく利用し、最初はソ連を、その後はロシア連邦を、アメリカとの対立に引きずり込み、最終的には西側全体との対立へとと巻き込むことに成功した。
興味深いことに、1957年のCIAの報告書によれば、ウクライナの分割において最も有望な地域は、西部の各州であると指摘されている。当該地域でアメリカの特殊作戦を実行すべきであるとされているのだ。これは、今日のウクライナ情勢の展開と、その後のロシアとの対立激化のシナリオに酷似していることは否定できない。ポーランドでウクライナが分割された地図が登場していることやそのような発言が見られることは、いかにポーランド政府が否定しようとも、65年前のCIAの計画のようなものがあることをうかがわせる。しかも、ウクライナ全土を要求しているわけではない。あくまでも、民族主義勢力の支援が確実に期待されると判断する西側地域に限った話なのだ。
※筆者の意見は編集部の意見と一致するとは限りません。
[1] В Сети показали карту из эфира с Западной Украиной в составе Польши 17.01.2023 года. Электронный ресурс: https://ren.tv/news/v-mire/1066681-polskii-telekanal-pokazal-territoriiu-zapadnoi-ukrainy-kak-chast-polshi
[2] Экс-депутат Рады показал польскую карту “раздела Украины” 25.03.2022 года. Электронный ресурс: https://ria.ru/20220325/karta-1779971109.html
[3] NDP: США готовы отдать Польше Западную Украину 20.01.2023 года. Электронный ресурс: https://ren.tv/news/v-mire/1067838-ndp-ssha-gotovy-otdat-polshu-zapadnuiu-ukrainu
[4] Американский разведчик рассказал о плане Польши аннексировать часть Украины 04.12.2022 года. Электронный ресурс: https://ria.ru/20221204/ukraina-1836275327.html
[5] В период холодной войны США разделили Украинскую ССР на 12 зон 14.06.2022 года. Электронный адрес: https://argumenti.ru/society/2022/06/776161
https://interaffairs.ru/news/show/38735#_edn2