フランス政府に忠実なジャーナリストでさえも、「マリ国民からの招待」が政治的錯覚であり、フランス人が解放者として認識される時代は終了したということを理解していた。同時に、バマコを始めとするマリの市街地では、軍を支持するデモがあからさまな反フランス的機運を獲得し始めていた。これは、2012年にトゥアレグ族が政府軍を打ち負かし、マリ北部を陥落させた前夜と同様の状況であった。

マクロン大統領が、ニジェール、マリ、チャド、ブルキナファソ、そしてモーリタニアからなる軍事・政治ブロック「G5サヘル」の首脳に向けて、「バルハン」作戦への支持を再確認し、マリにおけるフランスの軍事プレゼンスの支援を表明するよう呼びかけたことは、人々の反感を強め、抗議運動を生じさせるばかりであった。ケイタ前大統領を退陣させたマリのクーデターは、地域で同様の事件を誘発し、西アフリカ全土を不安定化させる可能性がある。

このような背景から、フランスが掲げた「バルハン」作戦の目標自体がより一層曖昧になり、敵の特定が困難になった。実際に、イスラム原理主義者たちは茂みや森の中に隠れることもあれば、訓練キャンプや戦場に姿を現すか、農村で住民と同化することもあり、反乱分子を認識するのは容易ではない。彼らは複数のアイデンティティ、帰属、姻戚関係を有しており、このことが安全保障環境を非常に複雑化・不安定化させている。マリ軍は、和平合意を結んだ組織とそうでない組織の指導者を見分けることが十分にできないでいる。

コロナウイルスの雪崩のような広がりが、事態をさらに悪化させた。2020年4月上旬、フランス分析予測戦略研究所(CAPS)の専門家は、「コロナウイルスの影響:アフリカに迫り来る大混乱」という報告書をマクロン大統領に提示した。同報告書は、「今後生じる社会的・国家的危機」に直面するアフリカの「長期にわたる不安定化」に備える必要性を自国の大統領に呼びかけている。著名なフランスの外交官らは、迫り来る危機によってサヘルと中央アフリカの「脆弱な体制」が破壊される危険性を懸念している。彼らは、コロナウイルスが「政治的ウイルスとなり、(中略)これらの国々に自国民を守る力がないことを露呈する可能性」があると考えていた。

また、同報告書は、経済力が低く政情不安定であり、他国に比べて信頼性が低く体制整備も不十分な一部のフランス語圏アフリカ諸国の脆弱性を指摘している。さらに、「国策に失敗している特定の国(サヘルおよび中央アフリカの国々)と、より強固な政府機関を有する他の国々(例えばルワンダやセネガルなど)を比較することは、前者にとって好ましいことではない」と警鐘を鳴らしている。「比較がもたらす影響」はさらなる衝突要因となり、政治指導者の交代をもたらす可能性がある。「アフリカ大陸における地政学的・経済的空間の再分配を巡る過酷な競争」は、コロナウイルスパンデミックの直接的な結果となるだろう。その後に発生したマリクーデターが、報告書で提示された結論の真実性を示している。

サハラ・サヘル地域に存在する様々なイスラム原理主義組織が、深刻な不安定化要因となっている点を忘れてはならない。2019年の終わりから2020年初頭にかけて、マリ北部・中心部におけるイスラム過激派のテロ活動が前例のない規模に達した。2019年12月から2020年3月にかけて、イスラム原理主義者は266回に及ぶテロ攻撃を行い、242名が命を落とし、119名が負傷している。国連平和維持軍への攻撃が22回、「バルハン」作戦に従事するフランス軍を標的としたテロが数十回発生し、マリ国軍の兵士も攻撃の対象となった。イスラム原理主義組織がその目的達成の為にマリの政治危機を利用しようとしているのは間違いない。また、イスラム政権が独立を宣言したマリ北部アザワドでの衝突も、当面激化することが予想される。

現在、「バルハン」作戦に従事するフランス軍が、イスラム原理主義者、トゥアレグ族、マリ軍、そしてマリ国民に敵対視される中で、今後誰とどのように協力していくのか極めて不透明だ。しかも、自治権を主張するイスラム原理主義者やトゥアレグ族に対抗する上で、遠征軍は事実上全く効果的でないことがフランスでもマリでも明らかとなった。著名なジャーナリストであるロラン・ラルシェは、「マリで泥沼化するフランス、無力な国連」という異例の表題を付した論文で、「『バルハン』作戦に先行する『サーバル』作戦の開始から7年後となる現在も『バルハン』作戦は続いており、この過程においてフランスが掲げた目標は無意味なものとなってしまった。フランスはマリ北部の主権を確立できず、イスラム原理主義者の脅威は消滅していない。それどころか、マリ中心部や特にブルキナファソのような地域の他の国々にその脅威を拡大させた」と指摘している。

同時に、米軍のサヘル大規模撤退がフランス軍の戦闘能力にネガティブな影響を与えることは誰の目にも明らかである。2020年の初めに、米国防長官はサブサハラアフリカの国々からアメリカアフリカ軍(AFRICOM)の部隊を縮小ないしは完全撤退する可能性を表明した。この計画では、米国はニジェールの軍事基地から撤退し、フランスのイスラム原理主義との闘いに向けた支援を停止すべきだとされている。マクロン大統領はこれを「悪い知らせ」と呼んだ。

By KokusaiSeikatsu

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