ウラジミール・バトゥーク

ロシア科学アカデミー アメリカ・カナダ研究所主席研究員、歴史学博士

(翻訳:青林桂)

米国・中国・ロシアからなる「ストラテジック・トライアングル」は、世界が米国とソ連という「超大国」を筆頭とする二つの軍事・政治ブロックに分断されていた冷戦時代に地政学的現実となった。米国は、社会主義超大国であるロシア・中国の二国関係が強化されぬよう、米国が各々と最適化された関係を維持しながら、自国がとりわけ有利な立場を占めることのできるトライアングルを形成しようと努めていた。

米中間の緊張緩和は、冷戦時代に米国が社会主義陣営よりも優位に立つことを促し、ソ連に2つの戦線で戦わせることを余儀なくさせ、更には中国が米国と正常な政治・経済関係を持つことを可能にした。それは、米中の貿易経済協力の著しい成長において最も重要な前提条件となった。しかしながら、冷戦終結とともに、「ストラテジック・トライアングル」の構成は新たな要素を獲得した。米中間そして露米間の関係が悪化する中、反米を軸とする接近がロシアと中国の間で生じたのである。[1]

米国・中国・ロシアの「ストラテジック・トライアングル」は閉鎖的空間ではなく、現代の多極化世界に存在している。当然ながら、「トライアングル」を構成する三国間のパワーバランスは、各国独自のポテンシャルのみならず、ほかのパワーセンターとの互恵関係を構築できるかどうかという点にも大きく左右される。

このような視点から、中国・ロシア・米国という大国にとって、欧州連合(EU)との関係は、「ストラテジック・トライアングル」における自らの立場を強化する上でも今後極めて重要な意味を持つようになるだろう。米国・ロシア・中国は、各々どのような関係を欧州と築いているのだろうか。

ロシアと欧州:近しい隣人

いつの時代も、欧州はロシアの外交政策にとって最も重要な優先事項の一つであった。安全保障上の問題や経済的関心だけでなく、鮮やかな感情に彩られた文化的・人的な結びつきは、古代から今日にいたるまでのロシア・欧州関係の重要性を決定付けている。

ロシアは、ヘッセンの王女や優秀な専門家を招き、自国民を欧州へ留学させ、言語や流行を熱心に学んだ。しかし、欧州からロシアにもたらされたものと言えば、この上なく大規模で破壊的な戦争であった。

しかし、ロシアの対欧州政策を根本から見直す時期が来たようである。元ロシア連邦大統領補佐官のV.スルコフが考えるように、我々は今、「ロシアの西欧への壮大な旅の終焉と、欧州文明の一部になり、欧州市民の『良き家族』になろうとする数々の不毛な努力の終結」を目の当たりにしているのである。このことは、スルコフ曰く偶然ではない。即ち、「ロシアと欧州の文化的モデルは外見的には似ているものの、ソフトもコネクターも極めて異なる。それらを共通のシステムに組み入れることは不可能だ」[2]。したがって、ロシアは欧州の学び舎で自由と民主主義を学ぶ学生ではなく、独立した力の主体として対欧州関係を構築せざるを得ないのだ。

スルコフの立場は彼の個人的な意見というだけではなく、ロシアの支配エリート達のアプローチを反映しているように思われる。それは、特に2016年11月30日にロシア大統領によって承認されたロシア連邦の外交政策概念に裏打ちされている。同文書では、「過去四半世紀の間に蓄積した欧州大西洋地域の体系的問題は、汎欧州的な安全保障・協力システムの形成に関する政治宣言の実現に向けた取組みに着手することを不本意とする北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)による地政学的拡大という形を取り、ロシアと西欧諸国の関係に深刻な危機をもたらした」[3]と述べられている。

By KokusaiSeikatsu

『国際生活』はロシア連邦外務省を発起人とする、国際政治、外交、国家安全保障の問題を取り扱う月刊誌です。創刊号は1922年、『外務人民委員部週報』として出版され、1954年に『国際生活』として、月刊誌として復刊しました。今日、ロシア国内だけでなく、世界各国においても幅広い読者を獲得しています。