上記で紹介した、軍事的戦略、対外政策および外交に関する複合的な問題を扱ったアメリカの専門家らによる著作を背景として、元アメリカ国務長官で、2016年に民主党から大統領選に立候補したH.クリントンの論文は、興味深いものである。彼女の論文『国家の安全を見積もる。ワシントンは力に関してどのように考えるべきか(9)』には、「現在の危機」の状況におけるアメリカの安全保障の優先事項に関する、一連の比較検討が盛り込まれている。特にクリントンは、中国やロシアからの一連の脅威やさまざまな方法での挑発に対して、アメリカは、危険なほどに準備ができていないと書いている。

 それと同時に彼女は、トランプ政権下で行われたアメリカの対外政策の超軍国化は、アイゼンハワー大統領が、軍産複合体の危険性についてアメリカ社会に警告した時代に後戻りする、良くない兆候であると見なしている。現在は、挑発を受け入れることのできる、新たな世代の外交官が活躍する時代である。アメリカの不都合な安全保障の状況を克服するためにH.クリントンが提案するアイデアは、国を眠りから覚まし、防衛能力を現代化し、すでに存在しているとは言えない平和のために作られた、時代遅れの軍備システムを手放し、新たな軍備システムで軍隊の装備を開始することを要求している。

 クリントンの主張によれば、そのような施策を実現させることで、新たな国際情勢においてワシントンは、アメリカ軍に費やされている数百億ドルを節約でき、さらにはアメリカの国防力の現代化に着手することができるという。また、彼女によれば、今後30年間で核装備に支出されることが計画されている一兆ドルを使うべきではないと指摘しながら、彼女は、核兵器への新たなアプローチを構築することも、国家にとってより重要であると考えている。これに関連して、クリントンは、トランプ行政の以前の方針を批判しながら、ジョー・バイデン行政にとって、アメリカの対外政策の分野において、同盟を強化し、発展途上国におけるアメリカの影響力を強めるような新たな合意の策定に焦点を合わせることが必要不可欠である、と主張している。

 クリントンは、上院外交委員会の委員長を務めた経験があり、アメリカの国家安全保障政策分野に深い見識を持つバイデンの活動を高く評価している。また彼女は、ジョー・バイデンによって大統領就任式の日にすでに決定された、パリ協定および世界保健機関への復帰を肯定的に評価している。新たな大統領行政が優先事項として挙げているものの中には、コロナウイルス感染拡大との闘いや、国際社会におけるアメリカの立場の復活などがある。

 クリントン自身、戦争の脅威のある中国を説得し、核兵器に関する交渉に加わることが重要であると考えている。さらに彼女は、アメリカ軍が近東でコストの高い戦争を行っていた時期に、中国が、アメリカの高価な空母に深刻な危険性のある対艦弾道ミサイルのような、比較的安価な種類の兵器に投資していたことについても言及し、懸念を示している。これに続けて、核兵器の増加に対して懸念を示しながら、クリントンは、中国の挑発は現実のものであると述べている。火力の優位性や、あるいはアメリカの国防予算が中国よりもはるかに多額であるという事実から来る偽りの安全保障の感覚によって、アメリカは、眠ったままでいてはならない。彼女は、核兵器に関する交渉に踏み切るよう中国を説得し、さらには、アメリカの、中国と競争できる能力を最大化し、将来的な挑発に向けて準備することの重要性を強調している。  実際、中国の今後の発展と、そのほかの国々に対する中国の影響力の拡大は、アメリカのヘゲモニーを脅かすものである。国際社会は、経済面での二大強国による、より熾烈な対立が特徴的な、新たな歴史的段階に突入している。多くは、政治家の賢明さにかかっている。


(9) Clinton Hillary. A National Security Reckoning. How Washington Should Think About Power // Foreign Affairs. 2020. November/December.

By KokusaiSeikatsu

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