エヴゲーニー・クトヴォイ

教授、歴史学博士

(翻訳:福田知代)

 民主党のジョセフ・バイデンによるアメリカ大統領就任式の日から一年が経過したが、前アメリカ大統領の軍事政策的戦略、対外政策および外交をめぐる議論は、いまだに重要視され続けている。


 外交問題評議会のフェローであるM.ブートが指摘しているように (1)、前大統領D.トランプは、大統領選前の演説において、アメリカの軍事力を立て直し、退役軍人への配慮と、アメリカに再び世界の尊敬を集めさせることを固く約束した。これに関連して、大統領は、アメリカとNATOに加盟するそのほかの国家の軍事費の拡大に合意し、アフガニスタン、イラクおよびシリアにこれまで以上のアメリカ兵と軍備を配置し、上級指揮官に対し、彼らが指揮する軍事活動の確保において、より一層の自由を認めることを約束したのである。アメリカの軍事費は2017年の段階ですでに、D.トランプ大統領によっておよそ20%拡大されている。

 国内の社会・政治学界においては、はじめのうちは、トランプによる上級ポストの将官の任命手順が、極めて異例のものであると見なされていた。たとえば、すでに退役していたジェームス・マティス元海兵隊大将が国防長官に任命されたり、同じくすでに退役していたジョン・ケリー元海兵隊大将が、国家の安全保障を司る大臣のポストに就いたりした。マイケル・フリン元陸軍中尉は、国家安全保障問題担当大統領補佐官に任命されたが、24日でH.R.マクマスター現陸軍中将に交代させられている。ブートによれば、アメリカの評論家の中には、トランプ政権時代、民間ポストで将官が幅広い代表権を持っていたという事実に、不安を示していた者もいたという。けれども、別のアメリカ人らからは、将官がこのようなポストに任命されていることに関して、将官が民間ポストに就くことにより、国のしかるべき構造の活動に対して、より責任ある「監督」が保障されるだろうとの期待の声も聞こえた。

 これと同時に、ホワイトハウスでのある記者会見に出席したトランプ大統領は、アメリカの軍需産業の企業の利益のために戦争に踏み切ったとしてペンタゴンを非難し、将官らに対しては、「あなたたちは負け犬だ、どのようにして勝利を収めるべきかを知らないようだ。わたしはあなたたちとは戦争はしない」と面と向かって言い放った (2)。

 歯に衣着せぬ発言のD.トランプ大統領自身も、国の将官らを相手に人気取りをしようとはしなかった。ジョン・ボルトン元国家安全保障問題担当大統領補佐官は、自らの回顧録で、国家安全保障に関するトランプの決定の多くは、戦略や対外政策、あるいは国防の合理的な機能よりも、政治を拠り所としていた、と書いている (3)。


(1) Boot Max. A Few Good Men // Foreign Affairs. 2020. May/June.

(2) Ibid.

(3) Bolton John. The room where it happened. New York, 2020. P. 489.

By KokusaiSeikatsu

『国際生活』はロシア連邦外務省を発起人とする、国際政治、外交、国家安全保障の問題を取り扱う月刊誌です。創刊号は1922年、『外務人民委員部週報』として出版され、1954年に『国際生活』として、月刊誌として復刊しました。今日、ロシア国内だけでなく、世界各国においても幅広い読者を獲得しています。