2008年6月3日、EUにおいて、ヨーロッパの良心と共産主義に関するプラハ宣言が採択された。この中で初めて、共産主義とナチズムとの間にイコールの記号が置かれたのである。数か月後の2008年9月23日、欧州議会は、8月23日を、スターリニズムとナチズムの犠牲者追悼の日とする宣言を採択した。EUにおける記憶の文化の変換のクライマックスと言えるのは、2009年4月、欧州議会において、8月23日が全体主義体制の犠牲者追悼の日と決議された瞬間である。この中で、スターリニズム(共産主義)が、ナチズムと完全に同一視された。この決議に続き、欧州安全保障協力機構外相理事会が、ヴィリニュス宣言を採択する。文書の中では、2つの「強大な全体主義体制」、つまりナチス体制とスターリン体制が、ジェノサイド、法と自由の侵害、戦争犯罪と、人類に対する犯罪を行った、とはっきりと指摘されている。注目すべきは、2009年8月23日、「バルトの道」20周年に合わせ、エストニア、ラトビアとリトアニアの首相が、欧州議会と欧州安全保障協力機構のイニシアチブを歓迎する声明に署名したということである。

「ソ連の占領」に関するナラティブの格上げは、近年も続いている。これは、とりわけ、2010年に出された『ヨーロッパにおける全体主義体制の犯罪に関する記憶』という、欧州委員会の報告に顕著に表れている。この結論部分には、「過去の悲劇」に関する記憶は、すべての加盟国にとって共通のものでなければならない、と記されている。共産主義に対する非難は、2011年6月9日~10日にかけて開かれた欧州連合理事会の総括、2011年8月23日のワルシャワ宣言、2018年8月23日のEU加盟国政府代表による共同声明の中で繰り返し行われている。

このようにして、2000年代から2010年代、EUにおいて、東欧の歴史プロットの強化が始まった。この方針においては、主な犠牲者は、ホロコーストで苦しんだユダヤ人ではなく、「共産主義の押し付け」の抑圧の下にあった各国の民族だということになっている。共産主義は、特に対外的な「モスクワの悪」として描かれており、したがって、「ソ連の占領」に関するナラティブの格上げは、ロシアの対外政策を非難するコンテクストの中に、容易に入り込むことができたのであった。

2014年、クリミアのロシアへの再統合が行われた後、エストニア、ラトビアとリトアニアは、この出来事と、1940年のバルト諸国のソ連への併合を、直接に比較し始めた。そして彼らは、2018年7月に決議されたアメリカの「クリミア宣言」を支持した。これによれば、ワシントンは、ウェールズ宣言で確認された、バルト諸国のソ連への編入をアメリカが容認しなかったのと同じように、クリミアにおけるロシアの主権も認めていない。

ロシアとヨーロッパの関係悪化は、「ソ連の占領」に関するナラティブの格上げと、第二次世界大戦史に対する正反対の視点を擁護する目的でのロシア非難にとって、好都合な条件を作り出した。このプロセスにおけるもっとも重要な段階は、2019年9月19日に、欧州議会によって「将来のヨーロッパのために歴史的記憶を保持することの重要性に関して」という決議が採択された瞬間である。その中心的な要素となったのは、モロトフ=リッベントロップ協定への非難である。これによれば、ソ連とドイツは「ヨーロッパおよび独立国家の領土を分割し」、これが「第二次世界大戦開戦への道を開いた」のだという。

とりわけ、決議の中では、ソ連によるバルト諸国の「強制的な併合」、ポーランド分割と、フィンランドとの冬戦争の開戦に関して記述されている。決議の作成者は、ロシアを「共産主義的全体主義の最大の犠牲者」と呼び、その民主主義に向けた歩みは、文書の文言によれば、「政府、政治的エリートおよび政治的プロパガンダが、共産主義的犯罪を正当化し、ソ連の全体主義体制を礼賛しているうちは、前に進むことはないだろう」と結論付けている。決議の中では、「民主主義的ヨーロッパに対し、それを分裂させる目的での情報戦争」を行いながら、ロシア指導部は、歴史的事実の歪曲と「ソ連全体主義体制」の犯罪の正当化に勤しんでいる、と指摘されている。

ロシアは、真逆の視点を固守している。ロシアは、戦争を煽ったのはモロトフ=リッベントロップ協定ではなく、1938年に、ヒトラーと、イギリス、フランスおよびイタリアの首脳によって調印された、チェコスロバキアのズデーテン地方をドイツに割譲することに関する、ミュンヘン協定であると強調している。独ソ不可侵条約は、戦争直前に採択された不可侵協定の中では、順番的に最後のものである。このようにして、ロシアのこの決議に対する反応は、極めて厳しいものとなった。ロシア外務省は、欧州議会によって採択された決議は、歴史となんら関係性を持たない「一連の修正主義的主張」を含むものであるとした。ロシア大統領V.V.プーチンは、2019年12月、欧州議会の決議の中で示されているテーゼは虚偽のものであると指摘し、三度に渡ってこれを正式に非難した。

By KokusaiSeikatsu

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