グレブ・イワシェンツォフ 特命全権大使

(翻訳:福田知代)

歴史はらせん状に発展する――そう主張したのは、古代ギリシアの著述家・歴史家であったクセノポンである。この言説が生まれてから、約2500年。この言葉は、ミャンマー連邦共和国の現在の状況にも当てはまるだろうか。

数十年間に渡り、ミャンマーでは軍事政権が行われてきた。2008年に可決された憲法は、国内で複数政党選挙制度への道を開いたが、同時に、ミャンマーで「タッマドー」と呼ばれる国軍が、政治プロセスに対する統制力を維持することになった。国政の議会および地方の立法議会において、議席の25%が、国軍を指揮する総司令官の指示通りに、一丸となって投票行為を行う軍人議員の議席となり、第一副首相の座には、軍事派閥の代表が就任した。総司令官には、力を持つ三つの省の大臣――国防相、内務相および国境相――の任命権が確保されていた。大統領がトップを務める国防治安評議会のメンバー11人のうち、6人もまた、国軍の代表であった。

2021年2月1日、このシステムにトラブルが生じた。この日、昨年11月に選出されたミャンマー議会の議員らが、初登院するはずであったのだが、与党「国民民主連盟(NLD)」の党首であり、国家顧問、そして事実上の首相でもあるアウンサンスーチー女史およびウィンミン大統領を含む、国家の最高政治指導部が逮捕され、立法、執行、司法権は、ミャンマー国軍総司令官ミン・アウン・フライン上級大将に移行されたのである。軍部は、今後一年間に渡って国家を統治し、その後に新たな選挙を行う予定とし、非常事態を宣言した。

NLDとタッマドー

政権交代の口実に使われたのは、2020年11月8日に行われた総選挙の中で大規模な不正が行われたとする軍部の主張であった。上院と下院で争われた476の議席のうち、軍部に支持された連邦団結発展党(UADP)が33議席にとどまったのに対し、396議席がNLDにもたらされた。軍部は、彼らによって調査され、証拠が揃っている違反行為は1000万件以上[1]だとの声明を出している(ミャンマーの人口はおよそ5500万人[2]であるが)。当初、軍部は、当選した議員の議会への招集を取り消し、軍の直接のコントロールの下で新たな選挙を実施することにより、問題を友好的に解決しようと提案した。けれども、連邦選挙管理委員会は、NLDの要請により、あらゆる苦情を受け入れず、選挙結果の見直しを拒否した。そして、2月1日、タッマドーが自らの手段に出たというわけであった。

ヨーロッパでは、ミャンマーで発生した政権交代を、すぐさまクーデターであるとした。けれども、軍部はこれを否定している。彼らは、国家の安全が脅威にさらされた場合に非常事態を施行し、全権力を総司令官に移行することを想定している憲法の規定を利用したのだ、と主張しているのだ。しかしながら、このような決定を行うよう全権を委任されているのは大統領であり、今回、大統領はすでに逮捕されており、その権能を担ったのが第一副大統領――軍部の天下りであるミンスエだったという点に、疑問が残る。


[1] https://riafan.ru/1381442-zakonnyi-perevorot-kak-voennye-vnov-ustanovili-svoyu-vlast-v-myanme

[2]https://countrymeters.info/ru/Myanmar

By KokusaiSeikatsu

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